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ファン・ハールとテン・ハグにおけるオランダ化の違い

分析・文責 ぼー


 オラニエは独特である。フライングダッチマンの異名を持つ人々であり、彼らの思考法はヨーロッパ人の中でも特異であると言って差し支えない。さすが、最初に海洋覇権を握った人種だ。フットボール界においても彼らは、選手のみならず、監督としても異彩を放つ者が多くいる。FCバルセロナに今の源流をもたらしたトータル・フットボールの創始者で、アヤックスのホームスタジアムにその名を残すヨハン・クライフを筆頭に、枚挙にいとまがない。さて、今イングランドのビッグクラブであるマンチェスターユナイテッドに二人目のオランダ人監督が誕生した。その名はエリック=テン・ハフ。バイエルンのユースチームで当時監督だったペップ・グアルディオラの薫陶を受け、その後率いたアヤックスでは久々のCLベスト4に導いた監督が、満を持してのビッグクラブ挑戦である(アヤックスも当然にビッグクラブではあるが….)。

 さて、マンチェスターユナイテッドのオランダ人指揮官といえば、記憶に新しいルイ=ファン・ハール現オランダ代表監督がいるわけだが、彼は補強でオランダ人を買い漁った。なに、特別なことではない。オランダ人に監督を任せるとは、ある意味そういうことなのである。ダレイ・ブリント、メンフィス=デ・パイ、モルガン・シュナイデルランなどなどの面々である。成績はご存じの通りなので、悲しいかな、言及は避ける。

 エリック=テン・ハフであるが、やはりオランダ人を買うのだろうと思った。最初の補強は、オランダ人のタイリル・マラシアであった。今後も、前述のメンフィス=デ・パイなどのオランダ人候補が控えている。さらに、現有スカッドにはドニー=ファン・デ・ベークもいる。

 オランダ人監督がなぜオランダ人選手を集めるのか、ひとえにその理由を語ることはできないだろうが、いくつかの理由を想像することはできる。まず一つ目に、言語の問題である。筆者はオランダ語を話すことはできないが、オランダ語の特徴として、話者が少ないことも然ることながら、語彙の特異性が挙げられる。商業で発展してきた歴史に基づき、商業関係の語彙が豊富にあり、それらを用いた比喩表現も多いという。二つ目に、オランダの多くのクラブに通じる育成の上手さである。オランダの育成の上手さはあらためて述べるまでもないが、今も優秀な選手を輩出し続けている。これらの理由から、オランダ人監督には、オランダ人選手がつきものである。

 いよいよ本題のファン・ハールとテン・ハグの比較に移りたい。まずは基本フォーメーションの比較。前者は4-2-3-1や3バックを使うのに対し、後者は4-3-3を基本スタイルとする。次に展開するフットボール。ともにポゼッショナルプレイを基本とするが、趣が異なり、前者は外回りにボールを繋ぎ、後者はハイラインでの押し込みをかける。守備時も、ファーストアタック以降はラインを下げる前者に比較し、後者は常に前向きの即時奪回をモットーとしている。これらの違いからもたらされる違いは決定的といえよう。求める選手が違うのである。前者が守備的あるいはサイドの選手を求めるのに比して、後者は中盤の繋ぎを担うタイプの選手を求めていよう。また、前者はオランダ人に大きなこだわりがあるように感じられたが、後者にはそれがない。テン・ハフは、思うほどのオランダ化はしないと予測されるというのが結論である。



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