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J-POPからも何気なく死生観を感じる瞬間

最近の音楽シーンが語られる際、アーティストが表現する社会性や死生観に着目して語られることが多いように思われる。

例えばSKY-HIのアルバム『カタルシス』。

「カタルシス」は「語る死す」という意味も内包しており、亡くなった友人について歌った『Luce』や、『Luce』で描かれる友人に話しかけているかのような『Young, Gifted and Yellow』などの楽曲がアルバムの中盤に収められながら、アルバム全体の構成をもってSKY-HI自身の死生観を描きつつ、この世界で生きていくことの意味をリスナーに問いかけるようなアルバムとなっている。

ではアーティスト自らが強いメッセージを込めた作品からしか社会性や死生観を感じることはないのか?というと、自分にとっては決してそんなことはないという話を今回はしてみたいと思う。

実は私が自分自身の「死生観」を特に強く感じる楽曲が、ダンスボーカルグループ超特急の『Billion Bests』(作詞・作曲:MEG.ME、アルバム『RING』収録)だったりする。

「非アイドル」というコンセプトと個性豊かなメンバー達が織りなすパフォーマンスが大人気の超特急らしく、とても明るく、聴くだけでハッピーな気持ちになれるようなポップナンバーだが、その歌詞には私が個人的に共感できる「死生観」が込められているように思う。

「生まれてから死ぬまで 人は 20億回の鼓動を打つ」

出だしからはっきりと「生」と「死」という言葉が並べられており、人間の生に対する期限を明確に表現している。

「45億年 紡いできた惑星(ほし)の物語 僕らだってきっと 大切な1ページなんだよ」

45億年という、果てしなく長い時間の中で、自分たちの一生というのは、(大切とはいえ)「1ページ」という、何と短い時間なのかと思い知らされる部分だ。

しかしながら、この曲の歌詞が描いているのは、人生は一度きり、その限られた生の中で煌めくような時を奇跡的に出会えた大切な人と刻むことの大切さや尊さである。最後の「Billion Heart Beats」のリフレインは、生きていくことの賛歌を高らかに歌い上げているようだと個人的には感じている。

実は最近、私生活において、普通に生きていて幸せに過ごしているだろうと何も疑わずに信じていた知人が実は数年前に亡くなっていたということを知り、とてもショックを受けた。そんなことがあり、改めて一度きりしかない人生を後悔のないように過ごしたい、その中で充実した楽しいと思える時をできるだけ多く過ごしたいと強く思うようになった。超特急の『Billion Beats』は限りある生を悲観的に表現するのではなく、その生の素晴らしさを曲全体を通して明るく楽しく表現しており、そのことに生きていく勇気を与えてもらえるような、そんな楽曲となっていると思う。『Billion Beats』はアルバム『RING』収録楽曲の中でも特にギターの音がグイグイと全面に出てきており、そのエレキギターによるカッティングは心臓の鼓動や脈動を表現しているかのようで、それが楽曲から溢れんばかりの生命力を感じる所以だと個人的には感じている。


そんな生きることの素晴らしさを表現するような楽曲を持つ超特急だが、そんな超特急にも、明確に「死」を意識させるような楽曲が存在する。ドラマの主題歌にもなった、『Beautiful Chaser』という楽曲だ。

ドラマの主題歌ということで、歌詞はドラマの世界観に合わせたシリアスな内容となっているが、「醒めない悪夢」「終焉」「破滅」という歌詞に加え、それを表現するためのダンスも明確に「死」を表現している。

また、『Beautiful Chaser』には通常のミュージックビデオに加え、もうひとつ「Music Story Film ショートver.」という映像作品が存在する。

映画監督によって撮影されたそのショートフィルムMVがテーマとしているのは「美しい死」であり、そこではメンバー全員の死が描かれているため、ひとつの作品でありフィクションだと分かっていてもショックを受けたファンもいるのではないかと思う。演じる自分達の死を表現するというショッキングな内容でありながらも、メンバー達はそれを精一杯表現していたと思うし、特に物語の主人公だと思われる2号車カイくんの表情の演技には胸を打たれた。ラストのカイくんの死は本当に美しく演出されている。

超特急という大人気のグループの楽曲や作品からも死生観を感じるという自分自身の事例から、生や死を表現することはありとあらゆるエンターテインメントにおいて可能なのではないか?死生観は個々人の解釈によってふとした瞬間にあらゆるものから感じることがあるのではないか?と改めて感じたという話を今回は書いてみた。

死を常に意識しながらも、これからも生きていきたいと強く願う。


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