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車に乗って(🎵)

私が運転免許を取ったのは、30歳を過ぎてからでした。いろんな人から「年齢万円かかるよ」と脅されて、まとまったお金は用意してあったのですが、ほんとうに言われたとおり、年齢万円かかりました。
学生の頃と違って、反射神経などが衰えていて、「うわー、早いうちに取っとくんだった」と思いました。

教習所は、おばあちゃん家のすぐ近くで、農村地帯にありました。
コースの間の小さなスペースに、ナスとかキュウリとかトマトなんかが植っていて、ほのぼの、のんびりした教習所でした。

免許を取って、一年後くらいに車を買いました。
マツダ車です。トヨタも日産もダイハツも眼中にありません、マツダ一択でした。
ディーラーさんに、チャリンコに乗って行きました。チャリで現れた客は珍しかったらしくて、「チャリっすかー」と言われました。
その日、免許証を持っていかなかったので試乗はできませんでしたが、いくつか車種を見せてもらって、「コレにします」と決めました。
帰りは車にチャリを積んで、家まで送ってくれました。

私が決めたのは青い車でした。
スピッツの『青い車』の影響で、車買うなら青にしようと決めていました。
名前も付けました。当時、オダギリジョーさんの大ファンだったので『ジョー』です。
営業さんが時折「ジョー元気ですか?」とハガキをくれました。
乗るときはいつも、「ジョー、行くよ」と声をかけて走り出しました。


夏の日、私はジョーに乗って、大好きな河辺へ向かっていました。
その道は国道や県道から奥に入った細い農道でした。対向車が来ると、どちらかが譲り、挨拶して通る、そんな道です。
その細道中の細道、用水路に架かっている小橋の手前で、向こうからバイクが来たのが見えました。
銀行か何かの営業さんだな、と思いました。
「この暑いのに、外廻りご苦労様です」と思って、先に通ってもらうことにしました。
停車して、手招きしました。
バイクは進んできて、すれ違い様に、敬礼をして通って行きました。
「え?敬礼?…お巡りさん?!」
銀行員じゃなかった。
そのとき私は親が見たら怒りそうな露出の多い服を着て、サングラスをずらして、片膝を立てて、非常に態度悪くお巡りさんにカモンした自分に気づいて、一気に恥ずかしくなりました。
ちゃんとしようと思いました。

また、あるときは、県道を下っていたとき、隣の車線にパトカーが来ました。
サイレンを鳴らして、現場に急行中といった感じでした。
瞬間的に、「勝てるかなぁ?」と思ってアクセルをベタ踏みしました。
勝てるわけはないんだけど、並行して、パトカーが一緒なのをいいことに幾つかの赤信号を無視して直線を突っ走りました。
「信号無視しちゃった、ヤベ」と思ったけど、パトカーは現場に向かってまっしぐらで、私には目もくれませんでした。
やっぱりパトカーは速いです。抜けなかった。
この話を会社でしたら、「そういうことしちゃダメじゃん」と言われました。
「でも、パトカーと張れる機会なんて、そうそう無いよ?」と私は言いましたが「ダメだよ」と叱られてしまいました。
ごめんなさぁい。(だけど今でもあんまり悪いと思ってないの。)


私はどういうわけか、靴を履いて運転することができませんでした。教習所では仕方ないので履いていましたが、ジョーに乗るときは必ず靴を脱いで裸足でアクセル、ブレーキを踏んでいました。
靴を履いてしまうと違和感がすごくて、うまく走れなくなって、後続車からクラクションを鳴らされることもありました。


桜の季節は、思いつく限りの桜の園を通り抜けました。サンルーフを開けて、目をやると、淡い春の色が溢れていて、とても贅沢な気持ちになりました。

閉所が苦手な私ですが、ジョーに乗っているときは平気でした。閉所とは感じなくて、『動く自分のお部屋』と思っていました。
実際の部屋にも、あまり物を置かないタイプなので、車の中にあるのは地図帳と膝掛けくらいでした。ティッシュの箱も芳香剤も置きませんでした。
好きな曲をセレクトしたCDを流して、いつもノリノリで鼻歌まじりで気持ちよく走っていました。

秋、暗くなった帰り道、坂を越えると、目の前に大きな月が現れました。
淡く黄色に光っている月は、これまで見たことがないくらい大きくて、幻想的で、私は言葉も出ずに見惚れていました。
ジョーと一緒に、月にお迎えしてもらったみたいな気持ちになって、できる限りゆっくり、迷惑にならない程度の速度で、月の道を堪能しました。


実家を出るとき、幾つかの車買取り業者さんに見積もりを取ってもらいました。
最後にディーラーさんに連絡したら、「買取りますよ」と買取り業者さんよりも高く引き取ってくれました。

いっぱいいろんなところに行って、引越しの荷物も何往復もして運んで、たくさん走ってくれたジョー。
キーを渡して、引き取られていくときは涙が出ました。
また誰か、可愛がってくれる人に出逢えるといいね。また、いっぱい走って。


今はもう、ジョーの車種はほとんど見かけなくなったけど、マツダ車を見つけると、ジョーを思い出して、ちょっと嬉しくなります。


読んでくださって、ありがとうございました。
また明日。
おやすみなさい。

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