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南千住のサイゼリア


寂しく灯ったオレンジの光を頼りに階段を登る、街はもう明日に備えて眠り始める。

22:39

腹が減っていたわけではない、無気力で眠る勇気すらない自分に何か与えたかった。私は扉に書かれた11:00〜02:00を確認すると、サイゼリアの扉を押した。暗所に慣れた目は昼間のように明るい店内の中に溶け出していく。男の定員は私が一人だと確認をすると窓際のカウンター席へと案内した、鞄を床に落とし、重いコートを脱ぐ。私の2つ隣の席に四十くらいの男が黙々と食事をしている。米を食べたくなかった、口が甘くなるのが嫌だったからだ。300円のハンバーグを片目に1000円の「リブステーキ」と、それだけでは寂しすぎる気がしてほうれん草のソテーを追加で注文した。食事が運ばれてくるまでの間私は用もなく携帯に目をやる。

22:43

 私の背中側のテーブル席に座る長髪の老けた男は何か書物をしている、くたびれた色のシャツを着たその格好に私の未来を投影した。
若い男の定員が「リブステーキ」とほうれん草のソテーを運んでくれた、私はそれをいつもより一口づつ丁寧に口へ運んだ。鉄板に擦れる軽いナイフの音、何千と繰り返された店内の音楽、気の抜けた格好をした若いカップルの笑い声。私は最後のひとくちを飲み込む。気づくと2つ隣の席の男はいなくなっていた。

22:57

入口の近くに設置されたドリンクバーコーナー、そこに私は水を汲みに行く。席からそこまでの数歩間に店内をはっきりと見る。筆箱と紙を広げた女学生が携帯で何かを打っている。氷がグラスへ滑る、この光景は今までの何回繰り返されてきたのだろうか、水がグラスへ流れる、水がグラスを満たす。

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