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劇場の換気は不十分なのか

最初にライブハウスでクラスター感染が起こった時に、そのリスクの1つとして換気の悪さが指摘されました。
これによって同様の構造を持つ劇場で公演をする舞台作品は次々に公演を自粛していきました。

特に地下にあって窓がないような劇場の場合は窓開けによる自然換気が不可能ですし、機械換気も老朽化しているような所が少なくありません。
換気の悪さは間違いなく感染リスクを増大させるファクターですし、そうである以上舞台公演にはリスクがあってしっかりと検討された対策が必要であることは否定できません。
観客を迎えて公演をするに際しては、多くの場合その建物が備えている換気設備だけでは不十分であり、何らかの補助的対応が必要になるでしょう。

ただ新宿の劇場で起こった集団感染に対して、テレビで感染症専門の医師が「換気が不十分だったのでしょう」という理由づけをした時には私はちょっと違和感を感じました。

該当公演の興行主の発表を見る限り、劇場規模から考えるとかなりしっかりと時間と追加措置を取った換気が行われている内容になっており、もしこれで不十分なのであれば今後ほとんどの舞台公演はできないことになってしまうでしょう。
しかしその後行われている他の公演において同様のことが次々と起こっているかというとそうではありません。
また該当公演を私は観ていないので、事前に設定されていた換気がどの程度まで確実に実施されていたかについては正確な情報も持っておりません。

先ずこのケースについてはやはり最初からそこに感染した方がいたことが問題で、そこへの対策が最重要ということになるのですが、その話は今回は一旦置いて換気について話を進めます。

冒頭でも述べた通り、換気の悪いことは感染リスクではありますが、このケースにおける集団感染の原因が換気が悪かったこととする明確な根拠が状況的にもありません。
感染症専門の医師に換気が不十分と言われるとなんとなくそうかなと思って聞いてしまうかもしれませんが、どのように該当劇場の換気機能を評価してそのように発言されたのかは不明です。
少なくともその方は医師であって環境工学の専門というわけではありません(研究歴もよく存じ上げている方です)。
こういうことについては舞台公演をする側もきちんと反論するべきだと思いますし、少なくとも判断をステレオタイプ化することは今後のためにならないので避けるべきだと思います。

そういう意味では、公演を行う際にはあらためて換気についても正しい知識を持ったうえで準備をする必要があります。
たとえば「この建物の換気機能は5分間ですべての空気が入れ替わります」というような説明を聞く機会が増えました。こう言われると少し安心しそうになりますが、誤解してはいけないのはそれは「この建物にウイルスが侵入した時には5分間で排出できます」と同義ではないということを理解しておく必要があります。
その上で、その換気を利用して少しでもその空間を安全に保つ方法を考えるのが肝要になります。

もちろん換気機能は高いことに越したことはありませんが、単に換気機能を上げるだけでなく、感染予防対策としては空調設備の設置場所や風向設定などそれによって何を達成するのかを考えて活用していくことの方が重要だと思います。
商業作品の場合などで、やみくもに空気清浄機を増やしている公演を見かけます。見た目の安心感は増しますが、実質的にはもっと効率を考えて配置するべきなのだろうと思います。

分かり易く言うならば、風上に感染者が座っている時に自分に向いて吹いている大型空調機よりも自分の手であおいでいる団扇の方が有効だというようなことも場合によっては有り得るということです。
※これはあくまでも極端な話で、団扇が感染予防対策として有効というエビデンスはありません。

ですからこれについても全ての公演に共通する正解をお示しするということは難しいのですが、換気についてもやはりウイルスの特徴をよく理解した上で、使用する劇場と公演する作品の特性に合わせた対応を考えることが重要なのだろうと思います。



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