【緊急提言】2022年2月以降の舞台公演の感染対策について

(以下の文章は、2022年2月2日にtwitter  spacesでお話しした内容です。あくまでもその時点での情報からの提言であることを予めご了承の上お読みください。)

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そもそも日本人の防疫意識の高さはマスクの着用率などで従来から知られているものでした。もちろん個人差はありますし、感情的には色々な意見はあると思いますが、そういった要因もあって日本での感染拡大は欧米諸国と比較して最初は緩やかだったと言えると見ています。

欧米の流行状況を報道するニュースを視ていると日本と比べてマスクの着用率の低さは誰の目にも明らかです。またこれは文化的な違いもあるので一概に批難もできないのですが、挨拶としてハグやキスをしたり、会話も大きな声でする人が多いので、飛沫感染するこのウイルスに感染しやすいのは当然のことです。

逆に海外では、日本よりは早くワクチン接種が進んでいたり、検査体制が充実していることが報道されて、日本の政府の対応の遅さに苛立ちを感じた方も少なくないと思います。
そんな中で「PCR検査が十分にできるような体制を整えろ」「ワクチンの確保と接種を早く進めろ」という声が盛んに上がるようになりました。

新型コロナウイルスについてはこの2年間の社会的経験から一般の方もそれぞれにウイルスそのものに対する知識を自分の身を守るため程度には習得されたことでしょう。感染予防のためのワクチンや診断検査の有用性の知識についても以前よりは知られたことだろうと思っています。

もちろんそれらは感染拡大抑制の重要な打ち手ではあるのですが、先行した海外の感染拡大の状況を見てみれば、必ずしも決定打となるような手段でもないことも既に証明されています。

それでも徐々にワクチン接種が進み検査の体制も整備され、同時に社会に表面的な感染対策の知識が浸透して、一旦感染拡大が少し落ち着いたことによって、「ワクチンを打っていればまぁ大丈夫」とか「PCR検査で陰性だったからまぁ大丈夫」とか、もちろん手放しでOKではないことがわかっていても、繰り返す自粛による我慢の限界と相まって日本人の防疫意識の欧米化を進めてしまったように感じています。

これはこの2年間かなり慎重に行動してきた方でも少しは心当たりのあることだろうと思いますし、身の周りを見ればそういういわゆる少し緩んだ感じになっている方が存在することにも気づいておられると思います。長引く自粛生活によって従来は感じていなかった人恋しさを感じるようになった方もおられることでしょう。こうして2年かけて日本人の防疫意識は実際のところ欧米化したのだと思います。

この2年の経験によって社会の中で新型コロナウイルスは最初は「なんだかわからない恐ろしそうなもの」だったんですが、今では「なんとなくわかっている恐ろしいもの」に変わりました。文字にしてみれば気づける通り、これはウイルスの恐ろしさ(すなわち感染することによって受けるリスク)は決して大きく変わっていないのですが、少しみんながウイルスについてわかったことによって恐ろしさが減少したように感じてしまう社会心理学的な影響がそこに出ていると言えるのだろうと思います。それに相乗するように現在変異株の感染が全国的に流行しています。そこで、少しずつ舞台の話になっていきます。

もちろんこれらは舞台芸術の現場だけの問題ではないのですが、逆に例外ではなく舞台芸術の現場でも発生している現象だと言えると思います。舞台公演を行うための感染対策の情報や知識も少しずつ業界内に浸透していると感じているのですが、ここに舞台を観ていて、いささか不安に感じるシチュエーションに出会ったり、明らかに誤解した知識で行っている公演に出会うことも増えてきました。

先日観た公演で、役者が向かい合って接近して話すシーンで、俳優が息を吸いながらしゃべっていることに気づきました。ひょっとしたらこの時代を風刺してオモシロでやっているのかなとも思ったのですが、それにしては客席からはわかりづらく、おそらく一部の敏感な人にしか伝わらない程度のことで、もしオモシロだとすればドン滑りしているのですが、どうやらおそらく大真面目に感染対策のつもりでされているように見えました。まぁ、こんなことにはほとんど意味がないわけです。

これは分かりやすいちょっと笑えるくらいの例ですが、細かく見ていると「それ危ないよ」とか逆に「それ大して意味がないよ」という対策を実施されていることを見かけることは決して少なくありません。

今の再流行が進んでいる状況の中で、再び公演自粛を余儀なくされている団体様もある中で、それだけではなく、実際に座組の中で感染者が出るケースも増えているように思い、ちょっと心配になっているのがこのお話をする動機づけになっています。

なので、今日のKey Messageは「舞台芸術を行う現場において、今あらためてこれまで行ってきた感染対策を見直して再度徹底していただきたい。」ということになります。

今日は具体的に5つのポイントをお話しして、これから公演をされる皆さんにお願いをしたいと思っています。

①公演の実施について
・結論を先に言うと、しっかりと対策をすれば、基本的には2月以降も公演の実施は可能だと考えています。
・感染症専門の立場から言えば、これは2年前から言っていることですが、今どうしてもやらなければいけないものでなければ公演はなるべく控えるべきだと思っています。
・逆にこれも既によく言われている通り、舞台公演は不急のものだと思っているわけではなく、他の営みと同様に社会には舞台公演を創ることも観ることも必要な人がいると考えています。
・社会を動かしていくためにも、舞台作品を創る動機付けのある人(たち)にはその権利を行使できるものだと考えていますし、私個人はそういう人たちを応援したいと思っています。
・公演の実施に関しては行政からの指導には真摯に耳を傾けて、また劇場とも日々刻々と変化する状況の中で常に綿密な連携を取りながら、上演の判断をしてほしいと思っています。
・余談ですが、たとえこの国が好きでも嫌いでも、現状ではもしもの時に皆さんを支えようとしてくれるのは行政になります。たとえそれが不十分だとしても、そこから完全に外れてしまわないように行動することが今は得策だろうと思っています。

②具体的な感染対策について
・たとえば、客席数は間引いて少なくする方が安心なのですが、行政指導などがなければ、間をあけずにお客様に入っていただいてよいと考えています。
・それよりも、劇場内でのお客様の会話抑制やマスク着用の徹底に注意を払ってください。
・既にこの2年間公演を経験された団体においても、次の公演を打つ時には再度自分たちの感染対策のマニュアルをゼロベースで見直してください。くれぐれもコピペはやめてください。
・これはこの2年間繰り返し言っていることですが、作品はすべて個々に異なるわけですから、感染対策についても他の作品で行われたことが参考になることはあっても、作品ごとに検討するべきだと考えています。作品や座組によって、他団体よりも厳しく感染対策しないといけないこともあるでしょうし、逆に他団体がやっていることでも作品によっては簡略化できることもあると思っています。

③PCR検査について
・これまで創作に関わらさせていただいた団体の方はご存知の通り、私は創作に際して必ずしもPCR検査を必須としてきませんでした。それは検査が絶対ではないということばかりではなく、検査はあくまでも検査時の感染を確認するものであって、陰性と分かった後で感染してしまっては意味がなくなるからです。
・そのため安全な公演の実施のためには、座組の皆さんの日常生活や稽古場での予防行動に対する介入の方がはるかに重要な課題となります。
介入というのは医学的な言い方できつく聞こえるかもしれませんが、関わるくらいの感じで聞いてください。
・このところテレビに出ている有名人の方々の感染がずいぶん増えています。テレビの業界は舞台芸術の現場よりは予算もあるので、彼らは日々検査を受けてテレビに出ているわけですが、このことは検査だけでは感染が防げないという当たり前のことを明白に証明していると思います。
・では、検査は不要なのかというと、決してそうではなくて、可能であれば必要なタイミングで的確に実施することは万一の感染拡大を防ぐ有用な手段となりますし、公演に向けての気持ちを落ち着ける材料にもなるのだろうと思っています。これまでも、検査で陽性者が見つかったことによって残念ながら公演が延期中止になることはありましたが、考えればそれによって大きなクラスターを起こさずに済んだわけで、そこではとても有効だったと思っています。なので、以上のことをよく承知したうえで、よくメンバー間でも相談をして可能な限り実施してください。
・余談ですが、検査キット不足が少し問題になっております。ただこれは行政の急な無料検査実施推進とメーカーの予定製造がかみ合っていなかったことが主な原因ですので、近々には解消されると思います。検査が受けられない状況ではどうしようもありませんが、可能であればその状況に遠慮することなく検査を受けていただいて良いと思います。

④マスクについて
・やっぱりこれが一番大切です。舞台業界にフォーカスしてみても、世界的に見ても、結局これを軽視した集合体が失敗しています。
・マスクオフのタイミングについてですが、これは座組の中で感染対策のコンセンサスが取れれば早い段階でやってみてもよいと思っています。
・逆にPCR検査で陰性結果が出たとたんにずっとマスクオフで過ごされる方々がおられますが、これは既にお話ししている通り余計なリスクを背負うことになっています。検査で全員の陰性が確認されても、マスクを外す必要のない時にはマスクを着用されることをお勧めします。稽古中であっても、動きの確認などであればマスクをしていても問題ない場面はあるので、その辺は演出家さんも考えながらマスクの着脱のタイミングを考えて指示されるようにしてください。

⑤手洗い、手指の消毒について
・これは今となっては飛沫感染をするコロナウイルスにとってはマスク着用に準ずる対策になると考えています。実際ある程度の時間感染している人が近くにいれば、どんなに手指が清潔でも感染することはあると思うのですが、可能ならやはりやっておいた方が良いです。もう皆さん随分当たり前にはなってきていると思いますし、消毒液なども安定して手に入るようにはなっていますし、コスト的にもそれほどかかるものではありません。
・ただ1昨年は少なくなっていたのですが、昨年は結構ノロウイルスの感染が報告されていました。このノロウイルスは主に接触感染をするウイルスで、この感染が流行するということは、あれだけ手指もテーブルや椅子なども消毒しているのに、実は消毒が不十分で、ノロウイルスを手に付けている、つまり手指の消毒が不十分な人がいるということです。
・これから考えられることは、もちろん消毒そのものをしなくなった人もいるとは思うのですが、それよりも手のひらだけに消毒液を付けるだけで十分な消毒効果が引き出せていないことの方が、多いように感じています。
・ぜひ手のひらに取った消毒液を指の爪の間や指と指の間にも行き渡らせるような消毒の仕方をしてください。折角消毒するんですから、無効な方法であってはもったいないです。それはやっていないのと同じです。なんとなく回数をするのではなく、回数が減ってでも丁寧な消毒をするようにしてください。また消毒液だけでなく、時々は石鹸でこれから手術室に入るくらいのつもりで丁寧な手洗いも行って欲しいと思っています。

皆さんの安全を心から祈っています。
どうぞ慎重に創作を継続されてください。
耳を傾けていただきありがとうございました。

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