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【プレミア12】プロ野球における日韓関係は、「喧嘩するほど仲が良い」のかもしれない

こんにちは。


野球世界一の国を決める『プレミア12』。決勝戦のカードは、またも日本vs韓国に決まった。大会のターニングポイントでの試合が日韓戦になるのは、数えきれないくらい見てきた展開だ。

日韓戦は常に盛り上がるカードだ。メディアも「宿命のライバル」と位置付けているし、スタンドでの両国の応援団の熱気も非常に強い。選手間でも気持ちが高揚する相手だろう。その理由としては、両国の歴史が大きい。詳細は差し控えるが、日本と韓国(朝鮮)との間には、数えきれないほどの歴史的怨恨があるのも事実だ。それが日韓戦を熱いカードにしている1つの要因であることは間違いない。


しかし、ことプロ野球においては、怨恨以外の感情も両国間にあるのではないかと思う時がある。それは、「友情の延長としてのライバル関係」という感情だと感じている。


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僕が野球の日韓関係を「友情」と思える1つ目の理由は、各リーグの創成期~成長期のスターに、両国と関係が深い人物がいたことだ。

日本のプロ野球(以下『NPB』)で1950~60年代を支えた名選手の張本勲選手、金田正一選手のルーツが韓国にあるのは、NPBファンからするとよく知られた事実だろう。彼らの活躍によってNPBの人気も技術も向上したうえ、張本勲さんは「日韓両方の目線から評論できる解説家」として現在も活躍している。

一方、韓国のプロ野球(以下『KBO』)にとっても、日本は欠かせない存在だ。創成期を支えたスター選手として白仁天選手、新浦壽夫選手、福士敬章選手がいた。彼らはいずれも韓国にルーツを持ち、なおかつNPBで一定以上の成績を残した選手ばかりだ。彼らは日本での技術と野球観を韓国に持ちこみ、自らが好成績を残しただけでなく(福士投手は30勝、新浦投手は25勝、白選手は.412を残した)、KBOのレベル向上にも貢献した。間違いなくKBO界の功労者たちだろう。


2つ目の理由は、KBOのスター選手が日本球界に移籍した際の、双方の対応だ。

KBOで実績を残した選手がNPBに移籍するケースは数多い。具体例として、宣銅烈選手、李承燁選手、林昌勇選手、呉昇桓選手、李大浩選手らが挙げられる。KBOからNPBに移籍するスター選手たちは、(一部例外もいるが)多くが日本の野球を尊敬している選手だった。そして誰よりも真摯に日本の野球と日本文化を吸収し、懸命な努力と懸命なプレーを続けた選手たちだ。彼らはKBOでの前評判を覆すまいと、NPBでも好成績を残し、チームに貢献していった。

そんな彼らに対して、NPBファンは国籍など関係なく……いや、他の国から来た選手以上に声援を送っていたのではないかと感じることがある。巨人ファンの僕にとって、李承燁選手のHRの弾道は格別ものだったし、『プロ野球熱ケツ情報』で見せる庶民的な姿もとても好きだった。気づいたら家族で彼のことを”スンちゃん”と呼ぶようになったほどだ。また、高校の野球部内でよく行われるモノマネ大会でも、李大浩選手の独特な構えはネタの対象になった。最近では『Swallows DREAM GAME』に林昌勇選手が招待された。ファンから愛されたゆえの勲章だろう。

また、彼らの活躍は、日本人の韓国人選手に対する興味だけでなく、韓国人のNPBに対する興味も植え付けていったようにも感じる。李承燁選手が巨人に在籍した当時は、韓国でも巨人戦が中継されていたことがあった。彼の活躍は、KBOファンがNPBに目を向けるきっかけのひとつだろう。そのためか、現在では双方の国のSNSやネット掲示板で、相手の国のプロ野球について語っている場面も見られるようになった。


3つ目の理由が、選手間以外でも人材交流が盛んなことだ。

現在のKBOでは、日本で実績を残した選手がコーチになっている例が見られる。彼らはNPBで得た知識と経験を、KBOの現地のスタイルとうまくマッチングさせつつ指導を行っている。その結果、韓国でチーム力を向上させて優勝に導いた日本人指導者もいる。例えば、元中日の落合英二さんは、所属したサムスンライオンズを2年連続韓国一に導き、チーム防御率を大きく改善させる活躍を見せた。

一方で、日本人コーチにとっても、KBOは武者修行の場として機能している。KBOのコーチを経た後に、両国で得た野球観の違い、選手タイプの違い等を生かし、新たにNPBで指導者として戻ってくるパターンだ。例として、伊東勤さんや門倉健さんが挙げられる。このパターンも、21世紀になってから明らかに増えているように感じる。

また、引退した韓国人選手がNPBでコーチ研修を受けるパターンも存在する。例として、宣銅烈さんや李杋浩さんなどが挙げられる。古巣の球団でコーチの勉強をしつつ、母国でその経験を生かす形だ。双方の関係が本当に悪いのなら、このような行為は生まれないだろう。


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上記で、野球における日韓関係は意外と良好だという話をしてきた。しかし、双方が「ライバル」と呼び合うためには均衡した実力が必要だ。そうでなければ、張り合いがない関係で終始してしまうからだ。

その点、今の日韓の野球事情を見ると、ライバルと呼ぶにふさわしい力関係も成立しているように感じる。


1つ目の理由が、国際大会の結果だ。

日本は、過去WBCで2度(2006、2009)の優勝を果たしている。他のWBCでもベスト4に入り、五輪でも安定してメダル争いに参加できる、強豪チームの一角だ。一方の韓国も、北京五輪(2008)・プレミア12(2015)で優勝を果たしている。ここ数回のWBCこそ苦戦しているものの、2019年のプレミア12でも決勝に進むあたり地力は十分と言える。これらの入賞実績を見る限り、両国ともに強豪であり、なおかつ力の差もそれほど大きくないといえるだろう。


2つ目の理由が、メジャーリーグ(MLB)に挑戦している選手の内容だ。

2010年以降、日韓両国でMLBに挑戦した選手をまとめてみる。上が日本人メジャーリーガー、下が韓国人メジャーリーガーだ。(順番は入団順)

【投手】高橋尚成、五十嵐亮太、建山義紀、ダルビッシュ有、岩隈久志、藤川球児、田中将大、和田毅、村田透、前田健太、大谷翔平、平野佳寿、牧田和久、菊池雄星
【野手】西岡剛、青木宣親、川崎宗則、田中賢介、(中島裕之)、大谷翔平
【投手】柳賢振、林昌勇、呉昇桓
【野手】姜正浩、李大浩、金賢洙、朴炳鎬、崔志萬、黄載鈞

日本人メジャーリーガーは、投手の充実が目立つ。メジャーのマウンドを踏んだ人数が圧倒的に多い上、最低でも1年は好成績を残した投手がそれなり以上の比率でいる。現在先発ローテに立つ選手も4人いる状態だ。一方、野手はやや苦しい。2010年以降のデビュー組では、大谷翔平選手が渡米するまで、2桁HRとOPS.800を超える選手が出てこなかったのが現実だ。

韓国人メジャーリーガーは、日本と比べ野手が充実している。野手でメジャーデビューを果たした人数は日本より多い上、2桁HRを4人が達成し、OPS.800を超える選手が3人いた。一方、投手は柳賢振投手、呉昇桓投手は活躍しているものの、メジャーのマウンドを踏める投手自体が少ないのが現状だ。

メジャーリーグ経験者だけを見ると、投手の日本・野手の韓国という構図になっていると感じた。裏を返すと、お互いの得意な分野では、十分に通用する選手を両国ともに輩出していることも意味する。


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ここまでで日韓野球の構図について書いた。でも、そんな事情を抜きにしても僕は日韓戦というカードが好きだ。なぜなら、今までの日韓戦で、両国ともに名シーンといえる場面が何度も演出されてきたからだ。

例えば2006年、2009年のWBC。2006年はイチロー選手の「向こう30年」発言を皮切りに、マウンド国旗事件が起き一触即発状態に。準決勝の日韓戦ででは、福留孝介選手が起死回生のHRを放ち『生き返れ福留』という名台詞も生まれた。2009年のWBCは、5度にもわたる日韓戦の末、決勝の日韓戦で不振だったイチローが決勝打を放ち日本を優勝に導いた。これらは日本サイドからは名試合だが、韓国サイドからは悔しい試合なはずだ。

その逆も存在する。2008年の北京五輪では、日本の左翼手が2度のエラーを犯した一方、レギュラーシーズン不振の李承燁選手がHRを放ち、日本に引導を渡した。2015年のプレミア12でも、最終回に日本が3点差を逆転され敗北した。これらは日本サイドにとって屈辱である一方、韓国サイドにとっては名試合なはずだ。

ただでさえ因縁があり、縁が深い同士の対戦なのに、勝負所でぶつかると間違いなく両国の野球史に残るシーンが生まれてきた。これこそ「宿命のライバル」と(少なくとも野球界では)言われる所以の1つだろう。


また、僕のどこかに日韓戦の前に韓国が負けると張り合いがない気がするのも事実だ。よく漫画で、「いつも不仲でいがみあっているもののお互いの実力は認め合っている関係」のキャラがいる。彼らは、直接顔を合わせている時はいつも喧嘩ばかりしているものの、いざライバル視する相手があっさり負けると、誰よりも悔しがり、決勝戦での再会が叶わないことに涙している。それほど、例え普段は相性が悪くても、彼らにとって相手の存在は「なくてはならない存在」なのだ。

野球の日韓戦も、そんなもんなのかなと思う。そして僕がそう思っていることは、多くの日本の野球ファンが、多くの韓国の野球ファンがそう思っているかもしれないと考えている。どんなに相手国のことを嫌いでも、いざ相手が1回戦負けすると心に穴が開いた感覚になってもおかしくないはずだ。

…………これこそまさに「喧嘩するほど仲が良い」の構図そのものではないか。結局、日韓戦は、どんなに2国間で問題が起きようと、こと野球にとってはお互いの気持ちが燃え合うカードなのだと思う。


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2019年11月17日。プレミア12の決勝戦は日本vs韓国に決まった。

よく考えてみると、これは第2回WBC決勝の構図と真逆だ。第2回WBCは『前回王者の日本に挑む”宿敵”韓国』だったが、第2回プレミア12は『前回王者の韓国に挑む”宿敵”日本』なのだから。しかも、どちらも”第2回大会の決勝”だ。こんな運命的な日韓戦は、今まででも数えるほどしかないだろう。

また、日韓がトップリーグの国際大会で優勝するときは、交互に優勝するジンクスもある。2006WBC=日本→2008五輪=韓国→2009WBC=日本→2015プレミア12=韓国、といった具合だ。そうなると次の順番は………?ということも密かに考えている。

決勝戦がどんな試合展開になるかはわからない。でも、高い確率で日本・韓国の野球史に残る大熱戦になることは、過去のデータを見ても16日の試合を見ても感じることだ。


さあ……どうなるか。

試合が終わった時、自分たちはどんな感情を抱いているのだろうか。

今から楽しみだ。


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お読みいただき、誠にありがとうございました!


熱く楽しい試合を今から期待しています!


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