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Amazon Goはウォルマートを凌駕し得るのか??・・・たぶんする。

こんにちは。メガネで柄シャツの Co-Lift 共同代表 木下です。

2018年1月、レジが無いコンビニ Amazon Goが遂にシアトルでオープンしました。

レジが無いのにどうやって決済するんだ?とか、不正する人が続出するんじゃないか?とか、人間味が無くて寂しいとかとか、日本でも話題になりました。  

僕も最初は、技術的な側面に興味があって、レポートや憶測記事を読み漁っていたのですが、よく考えてみると、これはとんでもないことになるんじゃないか、と思わずメガネを叩き割ってしまいました。


それは、Amazonが、ウォルマートすらも凌駕して、オンラインだけでなくオフラインの小売まで完全掌握してしまうのではないかということです。

なぜなら、Amazon Goの仕組みは、圧倒的な利便性と価格優位性を持って、圧倒的な大規模展開が可能になるポテンシャルを秘めているのです。


Amazon Goがスケールするための必要条件とは?

オフラインの小売ビジネスを継続するためには、店舗当たりの限界利益がゼロ以上になる必要があります。
(そうしないと成長すればするほど赤字を垂れ流し続けることになります)

これを、
「顧客当たりの限界利益がゼロ以上 = 顧客のユニットエコノミクス健全化」
と、
「店舗当たりの限界利益がゼロ以上 = 店舗のユニットエコノミクス健全化」
という、2ステップに分けて考えてみます。


顧客のユニットエコノミクスを健全化するためには?

まずは、「顧客のユニットエコノミクス健全化」を考えてみます。

顧客のユニットエコノミクスが健全化されている状態というのは、

顧客当たり限界利益 = 平均客単価 - 変動費 > 0
変動費 = 原価 + 人件費 + 取りっぱぐれ損失

が満たされていると考えてみます。

レジが不要になることによって、人件費は大幅に削減することが出来ると想定出来ます。

しかし、同時に、無人化によって、取りっぱぐれ損失を勘案する必要が出てきます。

取りっぱぐれ損失というのは、本当は購入しているのに購入していない (False-Negative) とシステムが判断してしまうことで、発生する損失を意味しています (顧客からするとラッキー)。

逆に、本当は購入していないのに購入した (False-Positive) とシステムが判断してしまうというのも論理的には有り得ますが、この場合は返品を容易にしたり、判断が微妙な場合は、購入していないことにする (Fail-safe) ような仕様になっていると予想できるので、誤検知はAmazon側が一方的に損失を被ると想定します。

この誤検知による損失は、購入判定アルゴリズムの精度向上によって減らすことが出来ます。在庫の棚卸しをすれば誤検知の発生の検知は容易なので、実運用していく中でデータが蓄積され、改善されていくでしょう。

「早速YoutuberがAmazon Goでの万引きに成功したという動画をUPしたことも話題になっていましたが、これこそまさにAmazonの思うツボでしょう。

これは、アルゴリズムの欠点を探してもらって、学習データを収集しているのだと思います。
まさに、人柱。たかだか数千円のために、窃盗の罪を負ってまでデバッグしてくれているという滑稽な構図に見えます。

3ヶ月で250億円以上 (2.56億ドル) の純利益が出ているAmazonにとっては、この程度の万引きによる損失は痛くも痒くもないのでしょう。。

こういった誤検知は、一度アルゴリズムを改善してしまえば、恒久的に再発を防ぐことが出来るので、不正をしてくれればしてくれるほど、スケール時のリスクを低減することが出来ます。

万引きを、「あってはならない悪」ではなく「単なるコスト」と割り切っているのだろうと思います。

つまり、顧客のユニットエコノミクス健全化は、単なるアルゴリズムの精度改善問題と言い換えることが出来ます。

すると、顧客当たりの限界利益がプラスになるかか否かは、データの蓄積とアルゴリズム改善のスピードにのみ依存していて、「出来るのか?」ではなく「いつ出来るのか?」ということになってしまいます。


店舗のユニットエコノミクスを健全化するには?

顧客のユニットエコノミクスが健全になったら、次は、固定費を含めた店舗のユニットエコノミクス健全化を考えます。

店舗のユニットエコノミクスが健全化された状態というのは、

店舗当たりの限界利益 = 顧客当たりの限界利益 × 顧客数 - 固定費 ≧ 0
顧客当たりの限界利益 × 顧客数 ≧ 固定費

が成立している状態だと考えてみます。

つまり、
(i) 顧客数を増やすか
(ii) 顧客当たりの限界利益を高めるか
のどちらかです。

これまでのAmazonの歴史を鑑みると、顧客当たり限界利益をギリギリまで小さくするような大胆な値下げをして、顧客数増加を狙ってくるでしょう。
(ii)の逆張りで、(i) に加速度をつけるという手法です。

レジが無いことによる圧倒的な利便性に加えて、値下げによる価格競争優位まで確立しようというわけです。


店舗のユニットエコノミクスが健全になると、どこまでスケール可能なのか?

さて、店舗当たりの限界利益がゼロを超えるとどうなるのか。

1店舗当たりの投資金額の上限が、初期費用のみとなるので、予算があるだけ一気に大規模展開が可能になります。

仮に、1店舗立ち上げるのに1,000万円の初期費用がかかるとしても、100億円突っ込めば1,000店舗展開することが可能です。
(初期費用が倍の2,000万でも、500店舗!)

3ヶ月で250億円以上 (2.56億ドル) の純利益を出している現状を考えれば、このくらいの投資は余裕でしょう。

この仮定の延長で考えると、トータルで1,000億円突っ込めば10,000店舗展開出来ます。すると、一気に店舗数でウォルマートに比肩する規模になります。
しかもその投資金額は、1年分の純利益を全部突っ込めば事足りるレベルというわけです。
(初期費用が倍の2,000万でも、2年分の純利益で店舗数はウォルマート規模!)


さらに恐ろしいことに、Amazon Goは、Amazon.comのオンラインストアよりも更なる低価格戦略を取ることが可能になる可能性までも秘めています。


Amazon Goはオンラインショッピングすらも凌駕し得る?!

Amazon Goを小売店の延長ではなく、倉庫の延長として捉えてみます。

すると、Amazon Goは、顧客が自ら「ピッキング作業」と「ラスト1マイル配送」を担ってくれる「DIYサービス」と見ることも出来ます。

つまり、Amazon Goの店舗運営オペレーションを、オンラインストアの倉庫運用の域にまで洗練化すると、オンラインよりも圧倒的な低コスト体質を実現できるかもしれないのです。


まとめ - Amazon Goが脅威となるか否かの分岐点と論点は?

そんなことに本当に実現してしまうのかの分岐点はどこにあるのでしょうか?

それは、

1) 顧客のユニットエコノミクスを、アルゴリズム改善によって健全化出来るのか?
2) 店舗のユニットエコノミクスを、値下げ+利便性で健全化出来るのか?
3) Amazonが投資可能な金額で、既存オフライン小売に大打撃を与えるほどの大規模展開が出来るか?

の3点に集約出来ると考えます。


その時までに、何をしておかなければならないのか?

これは、単なる予想ですが、Amazonなら、やり切るんだろうと思います。なぜなら、この構造は、AmazonのECやAWSでの勝ちパターンと類似性が非常に高いのです。

とすると、論点は既に、「出来るのか?」ではなく、「いつ出来るか?」「出来た時、どう対抗するのか?」に早くもシフトしてまっているように思います。

「いつ出来るか?」は、正直検討もつきませんが、1年以上に渡るAmazon社内でのβ版運用を行った上での開店という経緯からも考えると、そこまで時間はかからないだろうという想定なんじゃないかと思います。

それこそ、2~3年、遅くとも5年くらいで、この脅威が無視出来ないレベルに達しているような気がします。

では、「出来た時、どう対抗するのか?」・・・。

大きくは2つの方向性があるでしょう。

a) Amazonより早く大きくやり切る
b) Amazon Goがやらなそうな領域に振り切る

a) は、Amazonの機械学習の技術力に対抗出来て、かつ、体力 (キャッシュ) で張り合えるプレーヤーでないと勝負にならないので、実行可能なプレーヤーは限定的です。Googleがんばれ!笑

b) への解の一つは、おそらく接客をコアバリューにすることではないかと思います。

Amazon Goの店舗には接客スタッフが多く、質も高いというレポートもありますが、私見ですが、本質的にはAmazonはそこに興味が無いのではないかと思います。

「無人+レジ無し」というのは現状からの変化が大き過ぎて受け入れにくいだろうから、「有人+レジ無し」から始めているという、単なるタクティクスでしかないのではないかと思うのです。

AmazonのECやAWSの歩みから考えても、Amazonが接客にリソースを割き続ける可能性は低いように感じます。

そうすると、「接客」が本質的な価値を持つようなドメインに特化していくことで十分に差別化が図れると考えます。

もしそうだとすると、「接客」が本質的な価値を持つようなドメインは何なのか、その時の「接客」とは一体何なのか、という論点について、真剣に考え抜いて、変革していけるのか否かが、オフライン小売の次の10年を決定づけるのではないでしょうか。

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