天才の中の天才(下)

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田舎、マイナーな学校より自称進学校、地元会社勤め…
これが私の「粗方理解」である。しかし、もっと厄介な要素が、Aから発せられたのだった。

「一番は『私の素行が悪い』だと。犯罪とかやってねえのに。」

久々に、Aがキレ気味に話をした。勿論、彼女を怒らせている原因に、私が意図せず身長いじりをしてしまったこともあるだろうが、それだけではない。というより、この意味不明な理由が一番の原因だろう。

確かに、Aの立ち回りは「優等生」とは程遠く、どちらかいうと「やる気のない人」である。団塊世代や、根性でものを見る方々からすれば、いくら点を取っていても、許しがたいものであろう。

ただAは、優等生キャラでは人が寄り付かないことを充分に理解し、「憎めないヤツ」として人と接していただけのはずだ。あくまで、私が観察をしていて出した結論がそれだ。

周りに人はいるが、誰も聞いていないことを願いつつ、ダメもとで聞いてみる。

「でも…その立ち回りだからAとしてみんなに認められてるわけでしょ?馬鹿真面目にやるわけにはいかないし。」
「そう。でもクズは許してくれない。」
「身内にそのタイプはキツイわ」

軽く出てきた言葉だが、目で「簡単に言ってないぞ」ということをアピールする。
その後、Aから出てきた言葉は、結果的に、当時の私のトーク力では、フォローのしようがなかった。

「まあ、あれだけ喧嘩して話が通じないんじゃ話にならん」

私の偏見では、不真面目なものを許容できないバカは、自分の思い通りになるように「対話」ではなく「喧嘩」を求める。そして相手をねじ伏せるのが目的だ。外から茶々を入れても意味がない。どうせはぐらかされる。
ただでさえそうなのに、「家庭」にこれ以上踏み入れることはできない。私がどれだけ勿体ないと思っても、これ以上のことはできない。

一応、アピールだけしておいて、話を終わらせることにした。

「えぇ…本人の人生なのに自分の支配下じゃないといけないって……でも俺には…はぁ…」
「ま、そんなもんだよねぇ人生」

この時初めて、「私は恵まれている」ということを実感した。発展途上国の状況を詳しく調べても、戦争について調べても湧かなかった感情だ。面と向かって話した相手に対して憐れんで、更に恵まれているという感情まで芽生えるのだ。

こんな残酷な実感方法はないと思った。

一度終わった会話だが、軽く応えた返事に、改めてしっかりと返答をしておく。

「ある程度は頑張るわ、俺」
「?」
「Aの分まで頑張る」
「あ、うん」

もう受験まで時間がない。やる気のなかった受験に対する勉強を、初めてやる気をもってやろうと思った。
彼女は「めんどくせえなあ」と思いながら返答をしたのだろう。かなり軽い返事だった。私が内情を汲み取れなかった可能性もあるわけだが。

この先は他愛もない話だった。LINEをやってるか(私は当時やっていなかった)、なんでLINEをやっていないのか(別にそんなことしなくてもいいと思ったから)、今日の宿題だったり、私の国語の点数が低すぎる話(平均点を優に下回る程度)だったり…

委員会活動という名のただの雑談を終え、帰りは各々友達と帰った。


・・・あの時、LINEを交換していれば、何かが変わっていただろうか。短い帰り道に一緒に帰ったら、何かが変わっていただろうか。卒業式が終わった後、Aの父親に何か言っていれば、何かが変わっていただろうか。担任に言えば…担任だと流石に変わらないか。

もしかしたら、Aの親にバレないように、Aに第一希望の学科を受けさせてあげられたかもしれない。というより、実際できたはずだ。書き間違えたと言って先生にもう一部願書を請求してもらい、隠れて書いて出させ、休日であることを利用して、「友達と遊ぶ」名目で受験、ということも…
受験票の代金はギリギリでいいから、私のお年玉から出せばギリギリ足りたはず。

勿論、当時の私にはそれを実行に移す勇気がなかった。勇気があったとしても、Aはこの誘いを断るだろう。
だが、天才の中の天才が、こんなことで、しかも人生を決めかねない選択でつまずくということが、私の中では許せなかった。いや、今でも許せない。

このことを今でも後悔している。
その後のAのことは、私は知らない。
今でも繋がっている数少ない、当時の私の友人の誰かに聞いてもいいが、その中でAの近況を知っている人がいる確率は限りなく低いだろう。

「卒業」という言葉を耳にすると、必ずこのことが思い出される。

今私は、Aが志望していた学校の違う学科を卒業し、働いている身だ。学科が違うということは、それだけ違うことを学んだので、Aの理想を現実にすることはできない。が、私は、私の考案したもので、何かを変えられるような、そんな人でありたいと思う。

Aの人生が幸せなものであることを切に願っている。


・・・この話はここまで。
だからまだ私は生きなければならない。働かなければならないのだ。(勝手な使命感)
一応、身バレやA本人にバレないよう、フェイクを入れている。
ただ、大筋の話は本当。

Aの人生が幸せなものだったら、心から「おめでとう」と言いたい。そうであって欲しい。

んじゃ。

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