見出し画像

アイデンティティ・クライシス!

こんにちは。ネパールで子育てをしながらコーチングを提供している森田愛です。
2021年4月にネパールに移るまで、国連・NGOの仕事で途上国を転々としながら、国際開発援助に従事していました。(詳しいプロフィールはこちら

コーチとして活動するようになってから、自分のアイデンティティについてよく考えるようになりました。
それは、私が母親になり、コーチになるにあたって、自分自身がアイデンティティ・クライシスを経験したからかもしれません。

そもそも、アイデンティティって何でしょう?
日本ではあまり、自分のアイデンティティって何っていう質問をする機会がないように思います。

でも海外では、特に、人種や民族や宗教などが入り混じる多元的国家では、アイデンティティに関する議論がよく起こるし、アイデンティティによって社会が分断されることもあります。
私も、色んな国で暮らし、色んなアイデンティティを持った人々と交わる過程で、いつの間にか自分のアイデンティティとは何かを考える訓練を受けたのかもしれません。

私が陥ったアイデンティティ・クライシスは、「母親になったこと」と「コーチになったこと」に関係しています。

コーチになる前の私は、国連に勤め、途上国開発の仕事に情熱を捧げていました。そして、独り身の自由な生活を謳歌していました。

それがここ2-3年の間に、結婚・出産を経験し、あっという間に2児の母親になり、夫のネパール転勤に伴いニューヨークを離れ、ネパールに移住しました。そして、これまでの途上国開発の仕事は選ばず、大好きなコーチングを仕事にすることを決意しました。

最初は、「コーチングは大好きだし、子供と一緒に居られる時間も作れるし、きっとコーチとしての仕事も楽しめるだろう」と軽く考えていました。

が、しかし。

ふたを開けてみたら、その変化を受け入れるのは容易ではなかったのです!

ずっと途上国開発の仕事に憧れ、ようやくその仕事に巡り合ってからの10年間、色んな国を渡り歩き、自分の時間とエネルギーのほとんどを仕事に割いてきた私の中には、「途上国開発を仕事にする自分」というアイデンティティが強く存在し、新しく生まれた「母親」「コーチ」というアイデンティティを簡単には受け入れられなかったのです。

断っておきますが、母親であることも、コーチであることも、私の人生をより豊かにしてくれる、自分の大切な一部分です。それは今も変わりません。

でも、プライドと信念を持って取り組んできたそれまでのキャリアを離れることに対しては、まったく別の感情があったのです。

一緒に途上国開発の仕事を頑張ってきた友人が昇進して面白そうな仕事に就いたり、(同じ途上国開発をしている)夫の仕事の話を聞くと、
「私だって今までは同じようなことしてたのに・・・」
「私もまた、いつかこの仕事に戻れるんだろうか?」
と、心がざわつくのを感じました。

今までの自分を捨てきれず、新しい自分も完全には受け入れられない。自分が宙ぶらりんで、居場所が分からず、自分の存在価値を見失ってしまった。そんな気持ちでした。

そんなモヤモヤを自分のコーチに話すと、彼女は「あなたはアイデンティティ・クライシスを経験しているのではないか」と言いました。
そのことに自分で気が付いてなった私は、突然、自分の脆い部分を衝かれた気がして涙が出そうになるのを、慌ててこらえました。

そこからのコーチングセッションでは、自分はどう生きたいのか、どう在りたいのか、を自分に問い続けました。

そして分かったことは、それまでの私は、迷いにぶつかると、内省するよりも行動することで解決を図ってきた、ということでした。いつも解決策は「外」にあるものだと思い、自分の心の「中」を見ようとはしていませんでした。私はずっと、自分の中の一番脆くて弱い部分から目を背けていたのです。

言い返るなら、それまでの自分は「何をしたいのか」ばかりを追求していましたが(それはそれで大事な問いなのですが)、その時から
「どんな自分で在りたいのか?」
を、考え始めました。

―――

同じころ、自分のアイデンティティを見つめ直すきっかけをくれた、大事な出来事がありました。

大学院時代の友人二人と、仕事と母親業について話していた時の事です。彼女たちは二人とも母であり、同時に優秀なキャリアウーマンです。彼女たちは「母親になると、自分の仕事を優先したい気持ちと、それに対して罪悪感を感じてしまう自分との葛藤の連続だよね」と話していました。

友人の一人は、博士号を取得した直後に旦那さんの仕事の都合でオーストラリアに移住することになり、小さい子供の世話をするために、子育てに専念していた時期が3年間ありました。せっかく博士号まで取ったのに、なぜここで専業主婦やらなきゃいけないの!!という彼女のフラストレーションは、私も痛いほど分かりました。

それを聞いていたもう一人の友人が、
「仕事を一旦離れて、子育てに専念する期間を設けるというのは、とても勇気のいることだよね。仕事を離れて子育てをすることの重要さが、もっともっと社会に認められるべきだよね。」
と、とても断定的に、言いました。

その言葉が、突然私の琴線に触れて、思わず、涙が出てきてしまいました。(注:私は人前では簡単には泣きません)

自分がなかなか受け入れられないでいた新たなアイデンティティを、そしてそこにたどり着くまでの葛藤や苦悩も、初めて全部温かく認めてもらったような気がした瞬間でした。

私の内側にうずいていた迷いや不安が、涙という物体を通して外に出されたことで、自分自身の感情に改めて向き合うことが出来ました。
あぁ、こういう気持ちが私の中にあったんだな。
いつもは冷静な私が人前で涙を流すほど、この迷いや不安は自分にとって大きな意味があったんだな、と。

四六時中、子供だけと接していると息が詰まりそうになる気持ちも
自分の仕事を優先するとき、母親として感じる罪悪感も
自分を支えてきたアイデンティティを失うときに感じる不安も、
全てリアルな人間らしい感情で、ちゃんと受け止めたいと思いました。

そう思えたら不思議と、とてもすっきりしていました。
 
「脆くて弱い自分にも、不完全な自分にも、オープンでありたい」
コーチングを通して自分の在り方を問い続けた結果、自然と自分の中に生まれたこの気持ちが、この出来事のおかげでリアリティを持って自分の中にストンと落ちてきました。

コーチングで起きる変化は、外からは一見分からないような「内側の変化」であることが多いです。でもその内なる変化が積み重なることで、少しずつ心に余裕ができ、自分の迷いも弱さも「それでいい」と受け止められるようになりました。
そして、自分が選んだ決断が間違っていないと思うようになり、同時に、母親として子供の成長に寄り添えることに、日々の幸せをより敏感に感じるようになりました。

―――

アイデンティティは、人生の節々で変わっていくものだし、常に育んでいくものでもあるのだと思います。
自分のアイデンティティと向き合う時は、きっと常に迷いや不安があるもので、それも私の一部。だからその葛藤も大事に受け止めながら、向き合っていく。

「自分はどうありたいのか」
「自分は人生をどのように生きたいのか」

これを自分自身に問い続けることが、常に変化する自分のアイデンティを育てていく鍵なのかなと、今は感じています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?