20170730-僕と人形の場合-タイトル

【短編小説】僕と人形の場合

昔、むかし。
人形を愛しすぎて、魂を吹き込んでしまった、人間がいるという。
だけど、僕は…。


室内は無数のディスプレイと、工具。
あとは…「ピッ…ピッ…」という、単調な機械音で満ちている。
ここにいるのは、僕1人。


正確には…あと少しで、"2人"になる。


作業台に横たわる、彼。
眉目秀麗。
均整のとれた身体は、有名な彫刻家がつくった彫像みたいだ。

左手を伸ばし、彼の胸に触れる。
人と同じ質感とぬくもりを持った、肌。
鼓動を感じることはできないけれど…それでも充分に"人"だ。



僕は右手だけで、キーボードを操作し最後の処理を終える。


「タンッ」


Enterキーを押すと、プログラムが動き出し彼へ向かって流れ込む。
それは永遠のようにも感じられたけど、ほんの一瞬のこと―…。



プログラム終了と同時に、彼がふわりとその目を開けた。
部屋の光を受けて、甘く蕩けそうなチョコレート色の瞳が輝く。
僕は胸に置いた手を、ふっくらした唇へ滑らせた。
外角を誘うように、なぞってみる。


「お…ま……え………」


彼の唇がゆっくりと動いて、僕を認識する。
嗚呼…久しぶりに聴く、彼の声だ。
いとおしさで、胸の奥が震える―…

口づけて微笑んだ僕に、彼は顔を歪ませて応えた。


「よくも…っ…」


憎々しげに吐き棄てると、彼はコンピュータに繋がったコードをものともせずに引きちぎる。
そのまま弾かれたように起き上がると、僕の首を掴んで、目覚めたばかりとは思えない力で、床へ押し倒した。


「信じて…た、のにっ…」


彼の目から溢れる涙が、僕の額に、頬に、唇に降ってくる。
僕の首に添えられた手は、徐々に力を増してゆき、彼の腕に人工血管を浮かび上がらせた。

僕はただ、遠のいていく意識の中で「綺麗だな」と、彼の腕に見惚れていた。



しばらくして…
息絶えると同時に、僕の記憶と感情がすべてコンピュータに吸い上げられてゆく―…
淡々と、静かに。

機能を停止した僕を見て、彼が取り乱す。
大声で叫び、恐怖と絶望を繰り返しながら―…



でも、大丈夫。
きっと、すぐに気づくでしょう。
これは僕たちの、儀式だと。

魂なんて、はるか昔に失くしてしまった僕たちの、記録された記憶が繰り返す、愛の儀式。
さあ、今度は彼が僕をつくる番だ―…。

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