感情0センチメンタル(4)

4-A

 感傷が力強く、敏感に反応するものは恋だった。
 喜び。怒り。哀しみ。楽しみ。感情の形は多々あれど、私を鮮烈に惹き込む感情は恋にまつわる出来事であった。何もこれは、センチメンタル症候群の発症者全員に限ったことではなく、それぞれがそれぞれの違う引き金を持っている。
 だから、私は彼に会うのをためらった。
 彼と会ってしまったら、私は間違いなく嬉しくなってしまう。嬉しくなってしまったら、私

もっとみる

懐かしいもの

田んぼや畑、日本の原風景が広がるその小さな田舎町に、祖父母宅はある。私の住んでいる県からバスと飛行機、車で10時間の移動。
たまに電話で話す祖父母の声が、最近はなんだか小さい。久しぶりに、祖父母宅に泊まりに行こう。私は急に、2人に会いたくなった。

長い移動で疲れた私に、座布団を敷いてくれる祖母の手のシワが、前よりも深くなった。

縁側に座って、庭に咲いた花や松の木を眺める。縁側のある家も、今では

もっとみる

天秤はどちらかに偏りすぎている、今

心苦しい と思う事があった最近。でもそれは自分ではどうすることもできないし介入することもできない。

心の底から「なんて世の中不平等なんだ」と漫画の主人公みたいな嘆きを思ってしまった。

別に主人公になりたいわけではないし、不平等と分かっていても成す術はない。私の事ではなく大まかに言うと友達のことだから。

その友達はとても苦労している。恋愛、仕事、家族。苦労しているくせに愚痴も言わない弱音も吐か

もっとみる

【短編】捧げさせてもくれない

どこにでもある一介の喫茶店。店員は男所帯で華がないから、美人や可愛い女の子が来店すると店内はにわかに浮き足立つ。

中でも今日一番奥の席を陣取っている女性は、モデルか女優かと噂されるほどのとびきりの美人だった。

ふんわりと波打つロングスカートから覗く足首は細く、夏らしく涼しげな白いシャツから伸びるすらりとした細腕は、アンニュイに頬杖をついた彼女によく似合う。

どこから見ても完璧なひと。

俺が

もっとみる
スキありがとうございます!よければサポートもお願します(^ ^)

小説が苦手な人も読める本

前書き

小説が好きで興味がない人にも読んでもらうにはと昔考えていて、短編小説集をなるべく安い価格で出版すれば小説にまだ興味がない人にも読んでもらえるんじゃないだろうかと思っていたのですが、良い時代になったものでネット出版やnoteで簡単に販売できるようになりました。
今では無料で小説が読めるサイトがあり、ネット出版でお手ごろ価格な小説がたくさんあるのであまり意味がないかもしれませんがこの本で小説

もっとみる

流行というコスプレをしたいだけの人たち

普通の服装をして普通の生活をしているだけなのに「ファッションとか興味ないの?」と聞かれることがある。これは暗に「お前の服装ダサくない?」ということを意味してるのだろう。

ファッションに興味がないわけではない。もちろんオシャレな服を着てオシャレな場所に出かけているカップルをみるといいなぁと思うこともある。

でもオシャレにはなりたくない。正確に言えば自分がオシャレだと思っている奴と同じ格好をしたく

もっとみる

郵便ポスト

303号室の郵便ポストを開けると、一枚、「リーチ」と書かれた白い紙が入っていた。

近くで、麻雀店でもオープンするのかしら。深くは考えず、バッグの中に入れる。

午後、団地のエントランスで井戸端会議をしていると、606号室の奥さんが「変な紙、ポストに入ってなかった?」と聞いてきた。

「もしかして、『リーチ』って書かれたやつ?」

ピンときたが、他の奥さんはキョトンとしている。へぇ、紙が入っていな

もっとみる

橋で祈る4◇こんなの私じゃない、と、だしまき卵に

連載小説『橋で祈る ~夜の底を流れるもの~』第4話

  ***

 朝食にだしまき卵を焼くのは、結婚以来続けていた乃々花の日課だった。
 ラジオ番組のディレクター職は、言うまでもなく時間に不規則で、広告代理店の営業をしていた夫とは、平日の昼と夜の食事をほとんど共にはできない。だからせめて朝だけはと、パンよりも米を好む夫に合わせてごはんを炊き、作り置きのだし汁を使って味噌汁を調えた。
 おかずが市

もっとみる

月の光が差す部屋で

「そろそろかな」

「そうかも」

「何かいうことある」

「今更」

「まあ、いいじゃん。どうせ最後なんだし」

「色々ありがと」

「こちらこそ」

「まあこんなこと言っても何もならないけど」

「いいじゃん。そんな悪くない人生だった」

「そうなの」

「少なくとも最後はね」

「そうなんだ」

「君は」

「平均値ぐらいなんじゃないの」

「うん」

「だけどここまで生きていられただけで、

もっとみる