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『こもり島~スネップランド』企画書

キャッチコピー:

 「こもり島スネップランド」-社会から隔離された「こもり人ひきこもり」の住まう絶海の孤島

あらすじ:

 「8050問題」や相次ぐ凶悪犯罪を契機にひきこもりを犯罪者予備軍と危険視し始めた未来の日本。少子高齢化に伴い国家予算が減少する中、政府は通算10年以上の長期ひきこもりを「社会不適合者」と定義。国家機関の名の元、離島施設に送致・隔離して集中効率的に管理する「スネップ法」を成立・施行させる。
 小学校時代のイジメで長く自宅にひきこもっていた17歳の少年「山梨 和統やまなし かずと」は、スネップ法対象者として「送致令状」を手にした連れ出し員によって強制連行されてしまう。心身の状況で「トリアージ選別」された和統たち「こもり人」が向かったのは「こもり島」と呼ばれた絶海の孤島であった。

第1話のストーリー:

 スネップランドのロゴが入った囚人護送車風のバスが山梨家に向かっている。大検受験に向けて勉強する和統の部屋に、母の「由布子ゆうこ」と妹の「恵奈えな」が入ってくる。差し入れの菓子を渡す妹の頭を優しく撫でる和統は、不安な表情の母にイジメでひきこもりになった自分を育ててくれたことへの感謝と、大検に合格し将来両親のような教師になるという夢を伝える。来客を告げる玄関のチャイムが鳴る。

 応対した父の「健蔵けんぞう」の前に現れたのは、国家機関「スネップランド」職員を名乗る連れ出し員の男女だった。2人は長期ひきこもりを離島施設に送致・隔離する「スネップ法」対象者の和統を連れ出しに来たと「送致令状」をかざす。未成年の和統を連れ出そうとする2人に怒りを露わにする健蔵。男は法律条文を読み上げて一切の例外を認めないと無慈悲に告げる。相方の女は健蔵をなだめるように、150万を超えるひきこもりが引き起こす問題を指摘した上で、和統への同情を口にしつつも長期ひきこもりを国家が集中効率的に管理した方が、社会・当事者双方にメリットになると説く。連れ出し員の前に母と妹が遅れて現れる。大検受験に向けて前向きな気持ちで勉強を続けている和統を奪わないでと訴える。騒ぎを聞きつけた近隣住民も山梨家の前に現れる。山梨一家の事情を知る近隣住民は口々に同情と抗議の声を上げる。連れ出し員男は涼しい顔で、法律に逆らうなら強制執行も辞さないと、玄関前のバスから機動隊員のような数人の武装員を呼び出す。抵抗するなら公務執行妨害罪で逮捕すると脅迫する連れ出し員男。物々しさに怯える山梨一家だったが、イジメにあった和統を最後まで守れなかったことを後悔していた両親は、今度は最後まで和統を守る覚悟を口にする。山梨一家に同調する近隣住民。
 一触即発の刹那、和統が姿を現す。土足で玄関にあがり込もうとする武装員を一喝して怯ませた和統は、両親に大人しくスネップランドに行くことを告げる。こうなることを最初から予期していたかのように笑みを浮かべる連れ出し員の男女。和統は両親と妹に短い別れを告げる。別れ際、妹の恵奈が身に着けていた髪留めの飾りを兄の和統に手渡す。
 玄関から出てきた和統は、近隣住民に深々と感謝の一礼すると連れ出し員の男女に支えられ無言でバスに乗り込んでいく。近隣住民の励ましの声と、両親たちの視線を背中に感じながら。


第2話以降のストーリー:

 バスに乗り込んだ和統は、先程まで自分を応援してくれた近隣住民がヒソヒソ話をし出すのを目の当たりにする。ひきこもりへの偏見や両親への同情、和統の向かう「こもり島」の噂を口々に言い合う近隣住民。親切でも自分事にならない限り、結局嵐が過ぎれば他人事なんだと人間の心変わりの残酷さに和統は強い失望と哀しみを抱く。走りだしたバスの車内で、失意の和統は連れ出し員女に心の隙を突かれ、睡眠薬入り飲料を偽って飲まされてしまう。眠りに落ちた和統は「こもり島」行きの大型船が係留された埠頭に設営された一時収容所の一室で目を覚ます。

 窓1つない無機質な部屋で目覚めた和統は、和統のように送致されてきた「こもり人」と呼ばれるひきこもりの男女とともに、囚人のような扱いをされ傷つく。全員短髪に刈り上げられ、マグショット人物写真を撮影された和統たち「こもり人」は、医師による心身の健康状態を診断された結果、災害時の「トリアージ」のように「黒・赤・黄・緑」の4つに選別されていく。「こもり人」は和統のように傍目で健常者と何ら変わらない人もいれば、精神が不安定な人までさまざま。家族の名を叫び暴れ狂う者やこれから向かうとされる絶海の孤島「こもり島」の悪い噂を口にする者と接するうち、和統の心は家族と引き離された哀しみから諦めの境地に揺れ動く。

 沈みゆく和統を勇気づけたのは、カウンセリングを担当した女性臨床心理士の「水無瀬 河澄みなせ かすみ」であった。河澄から和統たちと同じ船で「こもり島」に赴任すると聞いた和統は、「こもり島」への不信感が和らぐ一方で、未成年の和統たち若年層まで「こもり島」に連行することの是非と政治への不満を河澄から聞かされてしまう。一時収容所に送致されて以来、誰もが和統を囚人のように扱ってきた中、河澄だけが和統を「こもり人」としてでなく一人の人間として接していた。

 河澄が「スネップ法」への不満を漏らしたことに対する何気ない疑問を口にした和統は、河澄から以前担当していた亡くなった患者と年齢の変わらない和統が重なって見えたからだと打ち明けられる。和統は河澄の笑顔の裏に隠されていた悲痛な出来事に息を呑む。


 かつて臨床心理士として、精神科外来でひきこもり患者のカウンセリングを担当していた河澄は、和統と同じ年頃の少年を担当していた。投薬と河澄の親身なカウンセリングを続ける中で症状が快方に向かいつつあったが、「スネップ法」が施行されたことで事態は急変する。

 少年は不運にも和統と同じ10年超の長期ひきこもりであったため「スネップ法」に該当してしまい、無理やり自宅から連れ出される羽目になったのだった。少年は河澄の前で少しずつ前向きな言葉を口にできるようになってきた矢先、強引な連れ出しによって少年の精神状態は急激に悪化。激しい抵抗の末に武装連れ出し員に力の限り拘束された少年は、一瞬の隙をついて投身自殺を遂げてしまったのだった。

 少年を救うことができなかった河澄は「スネップ法」への不満を胸に秘め、贖罪のため、近い将来、少年のように「こもり島」に送致される「こもり人」たちに寄り添い支えになりたいと「スネップランド」の職員になったのだという。河澄は祈るような眼差しで和統の手を握り訴える。これから先、何が起こっても決して悲観せず、最後まで希望を持ち続けてほしい、諦めなければきっとご両親の元に戻れるからと、和統を励ましたのだった。家族以外に自分のことを心から心配してくれる人がいるうれしさに和統の心は震える。

 河澄のカウンセリングを終えた和統は「トリアージ」診断の結果、心身の状況がもっとも良好な「緑」判定を宣告される。緑色の時計型収容者管理用デバイス「コモリンク」と衣服の着用を命じられた和統は、「緑」判定された他の「こもり人」たちとともに大型船に乗船していく。


 「こもり島」に向けて出港した大型船内においても、和統は窓のない無機質な1人部屋に収容されていた。1日に3度の食事が差し入れられるだけで、外部と接触を取ることすら許されず、TV等の娯楽さえない。孤独な環境に和統は、ひきこもり当初の自分の部屋の環境を思い出し無意識のうちに重ねる。別れ際、妹の恵奈が手渡してくれた髪留め飾りを握りしめ、河澄にかけられた言葉を心の中で反芻しながら、和統はいつしか、ひきこもりの原因となったイジメにまつわる出来事を思い出していた。

 10年前、地元公立小学校に入学した和統はクラスの中でもっとも身長が小さかったという理由でイジメの対象にされてしまう。エスカレートするイジメにクラス全員と担任の前で怒りを爆発させた和統は、イジメグループを告発するも、担任に告発を無視されてしまう。窮地に陥った和統は別の学校で教師する両親に助けを求め、両親を介して学校側へイジメを告発するも同じように無視されてしまう。イジメグループの中心にいたのはPTA会長・地元議員・教育委員会の委員等、地元有力者の子供たちだった。校長・担任は保身のためにイジメを無視した挙句、告発を取り下げなければ教職を続けられなくなると教育委員会を介して両親にまで圧力をかける。当時、介護認定された老親を抱えていた両親は、生活のために教師を辞めることも、和統のために引っ越すことさえもできず、泣く泣くイジメの告発を取り下げたのだった。泣きながら我が子に謝る両親を見ながら、幼い和統は、学校に社会に踏みにじられ、見捨てられたのだと悟る。両親は、和統にもうずっと学校に行かなくていいと言ってくれたが、幼くして社会の残酷さを思い知らされた和統は、家族以外に心を閉ざし部屋に閉じこもるようになる。

 和統が完全に社会から背を向けなかったのは、両親がひきこもりになった和統に逃げずに向き合い続けたことに加え、山梨一家の境遇を理解する近隣住人の存在があった。和統は教師である両親と近隣住民から教育と社会性を養うための体験を与えられ、次第に図書館に通うまでに回復していく。図書館で様々な書物に触れ、自ら学び考え行動することを学んだ和統は、大検に合格して両親のような教師を目指すという人生の目標を見出したのだった。「スネップ法」によって家族とも引き離され、再び社会に踏みにじられてしまった自分はこれから何を夢見て何に希望を持てばいいのだろうと、家族と過ごしたかけがえのない日々を想い涙する和統。別れ際に妹がくれた髪留めを握りしめながら、和統は眠りにつく。

 和統の目を覚ましたのは「こもり島」到着を告げる船内放送であった。大型船から下船した和統が見たものは、数日ぶりに目にする外界の風景ー照りつける太陽と南国を思わせる鬱蒼とした木々、そびえ立つ刑務所のぶ厚い壁を思わせる「スネップランド」の外壁であった。監視カメラが設置された外壁の上を銃を持った巡回監視員が周囲を威圧するように警戒している。和統の目前で大型車ほどの大きさの「スネップランド」の門扉がゆっくりと開く。和統たち「こもり人」の前に、「こもり島」全体をひとつの建物と見立てた「アルコロジー」と呼ばれる循環型の自立都市が姿をあらわす。未来的な建造物群に圧倒されながらも、和統は自分たち「こもり人」を待つ未来と、外界から隔絶された「こもり島」の異様さに得体の知れない不安を覚えるのだった。

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