任天堂、株高占うニンテンドースイッチ後継機　市場注目の３ポイント - 日本経済新聞 (nikkei.com)

任天堂の主力ゲーム機「ニンテンドースイッチ」が3月に発売8年目を迎えます。累計出荷が1億4千万台に迫る歴史的なヒット機ですが、1〜3月期の出荷予想は前年同期比42%減と減速感は否めません。市場では早くて2024年中にも後継機が発売されるとの見方が目立ちます。注目するのは「価格」「互換性」「エヌビディア」の3つです。

「現時点でコメントすることはない」。6日、2023年4〜12月期の決算会見で任天堂の古川俊太郎社長は後継機について言及を避けました。「来期もスイッチで戦えるのか」。記者の質問に対しても「2024年もスイッチを主軸にビジネス展開する」と強調しました。

2024年3月期の連結純利益は前期比2%増の4400億円と、従来の減益予想から一転して増益を見込みます。株価は高値を追い、9日には一時8706円と上場来高値を更新しました。さらなる株高を占うのが後継機です。

古川社長の言葉とは裏腹に、市場関係者の多くは4〜5月の2024年3月期通期決算会見までに後継機の発表があるとみています。英調査会社オムディアの早瀬宏氏は、2024年中に液晶ディスプレーを採用した新型機が発売されると予測します。スペックなど詳細は厳しい情報統制が敷かれるなか、アナリストからは後継機の成否を占う3つのポイントが聞こえてきます。

1つ目は販売価格です。モルガン・スタンレーMUFG証券の小野雅弘氏は「任天堂らしい手に取りやすい価格帯を考えると、400ドル（約6万円）が一つの目安」と指摘します。スイッチの有機ELモデルの販売価格は約350ドル。インフレなどを考慮すると後継機は値上げをする可能性が高いです。「任天堂のユーザーはファミリーなどライト層が多く、価格感応度が高い」（ゴールドマン・サックス証券の宗像陽氏）ため、価格上昇の影響は大きいです。

有機ELモデルの国内税込み価格は3万7980円と、1ドル=100円程度のレートで計算されています。「5万円を超えると購入をためらう人が多そう」（国内証券）。足元の円安が国内価格にどう反映されるかも注目されています。

2点目はスイッチとの互換性です。ヒット作「ゼルダの伝説　ティアーズ オブ　ザ　キングダム」などスイッチには長く遊べるソフトが少なくありません。後継機でも利用できれば、発売直後でも遊べる選択肢が充実します。一方で当面は次世代機専用ソフトではなく、多くのユーザーを抱えるスイッチ向けソフトを開発し続けるソフトメーカーが出てくる恐れもあります。

アナリストの間では、互換性ありの仕様に期待する声が多く、モルガン・スタンレーMUFG証券の小野氏は「年間ユーザー数を、少なくともスイッチと同等の1億2千万人で維持できる」と指摘します。

3つ目は「エヌビディア」です。これまで任天堂のゲーム機は性能の限界から「AAAタイトル」と呼ばれる精細に画像が作り込まれた大作に対応していませんでした。次世代機でソニーグループの「プレイステーション5」といった高性能ゲーム機に対抗するにはAAA対応も重要となります。東洋証券の安田秀樹氏は「AAA対応のカギを握るのが米エヌビディアの人工知能（AI）技術『DLSS』だ」と指摘します。

DLSSはゲーム画像を学習したAIが粗い画像を高画質化したり、光の反射や屈折を再現する「レイトレーシング」を補完したりします。後継機に内蔵されれば、「AAAが任天堂向けに出せるようになり、ソフト展開が一気に広がる」（安田氏）。

エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者（CEO）は2023年、米メディアの取材で、任天堂の次世代機について「（自社技術の納入に）期待している」と述べ、「次世代のゲームではレイトレーシングや生成AIの技術が活用されるだろう」と前向きです。

古川社長は「将来に向けて、驚きを持った娯楽を提供していくことが一番大切だ」と強調します。投資家やファンの誰しもを驚かせることができるのか。1月に時価総額が10兆円を超えた任天堂にとって、そのハードルはかつてなく高まっています。

2023年は映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」のヒットにより、多くの関連商品に波及しました。そして、ニンテンドースイッチでは、横スクロールアクションゲーム「スーパーマリオブラザーズ」シリーズとしては約11年ぶりの完全新作タイトルである「スーパーマリオブラザーズ　ワンダー」が大ヒットしました。

スイッチは有機ELモデルが伸びており、年間プレイユーザーは最大になっています。スイッチに親しんだユーザーが後継機にも引き継がれるのか。任天堂独自の遊びを今後も追求してほしいと思います。