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モロッコ便り~遅れてやって来たボトルメール④

昨年、モロッコに滞在していたときに書きつけていた日記から、今日も靴を売る路上商人のおじさんとのやり取りの続きをお届けします。このシリーズは今回で一区切りとなりそうです。

(前回までの日記はこちら。

12月2日(月)

いつもの場所に行くと、靴売りのおじさんはちょうど席を外していた。私に気づいた駐車管理のおじさんが近づいてきてくれて、少し話した。靴売りのおじさんがいない間は、この人が道路に目を配りながら、靴の商売のことも気にかけている。お客さんがやって来て靴を見始めるときちんと対応し、「これはこのサイズしかないみたいなので、こっちはどうですか?」なんて言ったりもする。

今日は、いつもコンクリートブロックを置いて座っている建物のくぼみ部分に柵をつける作業をしている人がいた。駐車のおじさんによると、これから全てのくぼみがこんなふうにして塞がれるらしい。靴売りのおじさんも、物乞いのおばあさんも、このくぼみで雨をしのいでいたので残念だ。

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今日は、靴売りのおじさんの長女、ファティマにも会いに行った。彼女はフェズにある学校に通うために、平日5日間を自宅ではなく、「少女の家」と呼ばれる施設で過ごしていた。

事前に聞いていたファティマの休み時間に合わせてお邪魔した。彼女を呼びに行ってくれたスタッフさんが建物の案内もしてくれた。保健室、広い学習室、キッチン、食事をとる部屋、ロッカーとベッドがずらりと並んだ大部屋、ベッドが4台の小部屋など。80人ほどの女の子たちがここで暮らして、近所の学校に通っているらしい。机のある部屋には15人ほどの女の子たちがいた。18歳のファティマよりずっと年下の(6~10歳くらいだろうか)子たちだった。スタッフの人が、みんな自己紹介して、と言うので、急に来た知らない外国人にきょとんとしている15人もの子たちが名前を次々と教えてくれた。
ファティマと並んで歩いていると、他の子たちが私について「あなたの友達?」と不思議そうな目で彼女に尋ねるので、やっぱり来なければよかっただろうか、これで彼女の居心地が悪くなったりしないといいけれど、と思った。
ファティマはこの後また学校に戻って授業を受けるとのことで、あまり長居しては迷惑かと思い、建物の中を一通り見学させてもらって30分もしないで帰った。どんな場所なのかよくわからないまま、ただファティマに会いに行くだけのために突撃して、さっと帰ってしまったので、スタッフの方からしたら謎の人物だっただろうと思う。自分はもうこの土地に慣れてきたなと、気の緩んだ雑な行動が増えてきたけれど、色々な人が私のことをすっと受け止めてくれるおかげでそうやって呑気な勘違いができているのかもしれない。


12月4日(水)

夕方、買い物帰りにおじさんのいる通りに寄った。すでに暗くなってきていたので、少しだけ立ち話をする。

 こんな柵がつけられちゃったね。

 これ郵便局のビルだから、ここに居座れないように柵をつけてるんだろう。

 そしたら、今までみたいに座れなくなるね…

 ハムドゥリッラー(おかげさまで/神に感謝)。

 どうして?

 人生は難しいものなんだ。こういう困難を経験して強くなれる。だからハムドゥリッラー。

柵が取り付けられても、おじさんはその柵の上に早速靴を並べて仁王立ちしていた。本当にたくましい。おじさんは全然平気そうな顔をしているのに、私の方が泣きそうになってしまって、おかしかった。

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その後は、モロッコを発つ前日に「明日帰ります」と挨拶をして、お別れとなった。来年の夏休みにもまたモロッコに来たい!きっと来ます!と言っていたのに、予想しなかった事態となってしまい、その約束は果たせそうにない。
しかしありがたいことに、スマートフォンを持っているファティマとSNSで連絡を取り続けることができている。家族みんな元気にしてる、と返事があるたびにほっとする。
いつになるかはわからないし、今後どのようにこの関係が続いていくかもわからないけれど、またいつか会いに行けることを願っている。


(2020.8.14 塚本)


転載元:語学塾こもれび スタッフブログ


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