【第579回】『スーサイド・スクワッド』(デヴィッド・エアー/2016)

 『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』から数ヶ月。地球外生命体の襲撃を受け、力を結集することになったバットマン、スーパーマン、ワンダーウーマン、アクアマン、フラッシュ、サイボーグらの活躍により、世界は再び平和を取り戻すが、最強の決戦の代償により、スーパーマンはこの世から姿を消した。米国政府はスーパーマンに変わる新たな抑止力を求めていた。合衆国政府の諜報担当高官アマンダ・ウォラー(ヴィオラ・デイヴィス)は重犯罪者による特殊部隊「タスク・フォースX」結成を政府に進言する。犠牲者が出ても責任問題に発展しないことから、政府はGOサインを出す。ルイジアナ州ブラックサイト、一般には公表されていない頑丈な建物ベル・レーヴ連邦刑務所には、犯罪都市ゴッサム・シティでバットマン(ベン・アフレック)やフラッシュ(エズラ・ミラー)に次々に逮捕された重犯罪者たちが密かに収監されていた。「タスク・フォースX」のリーダーであるリック・フラッグ(ジョエル・キナマン)により集められたのは、百発百中のガンマン・デッドショット(ウィル・スミス)、ジョーカーの恋人ハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)、復讐の炎を司るディアブロ(ジェイ・ヘルナンデス)、オーストラリアからアメリカにやって来た殺人ブーメランの使い手ブーメラン(ジェイ・コートニー)、ワニ人間キラー・クロック(アドウェール・アキノエ=アグバエ)、縄使いの殺人鬼スリップノット(アダム・ビーチ)ら一癖も二癖もある連中だった。アマンダとリックは減刑や面会を条件に彼らを釣り、「タスク・フォースX」に勧誘する。万が一逃亡した場合、首に注射されたGPS機能付きのナノ爆弾は爆発し、木っ端微塵に砕け散る。かくして裏切り、逃亡も厭わない犯罪者たちによる、新たな戦争の幕が開く。

『マン・オブ・スティール』、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』に続くDCエクステンデッド・ユニバース・シリーズ第三弾。ほんの僅かだけバットマンやフラッシュらスーパー・ヒーローたちの出演はあるものの、「タスク・フォースX」のメンバーはリック・フラッグ以外全員がヴィランの集団であるというのが興味深い。ハーレイ・クインはかつてゴッサム・シティの精神病院に勤める優秀な精神科医だったが、収容されていたジョーカー(ジャレッド・レト)に恋をし、暗黒面に落ち、今の奇抜な姿になれ果てる。マーティン・スコシージ『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でレオ様の妻を演じたマーゴット・ロビーの変貌ぶりが凄まじい。21世紀のアメコミ映画はスーパー・ヒーローもヴィランたちも一貫して苦悩を抱えている。物語はリック・フラッグの恋人だったジュース・ムーン博士(カーラ・デルヴィーニュ)の半旗に端を発する崩壊劇となるが、今ひとつ動機が弱い。エンチャントレスという囁きにより、ニューヨークのビルを占拠する様子は、図らずも同時期に公開となった『ゴーストバスターズ』を連想させる。監督は古代の魔女エンチャントレス討伐という本線に対し、ハーレイ・クインとジョーカーとデッドショットの三角関係を伏線として張り巡らせる。ジャレッド・レトのジョーカーぶりは、これまでジャック・ニコルソン、マーク・ハミル、ヒース・レジャーが演じてきた歴代のジョーカー像を踏襲する。ただ今作におけるハーレイ・クインとのロマンスの描写そのものが、観客がジョーカーに抱くスーパー・ヴィランとしてのイメージを決定的に打ち砕いてしまったのは否めない。

DCコミックの最大のライバルであるマーヴェル映画においても、2016年の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』ではスーパー・ヒーローたちのインフラが起きていたが、今作も例外ではない。そもそも『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』が『キャプテン・アメリカ』シリーズと『アイアンマン』シリーズのメンバーの集合体だったことを考えれば、DCコミック最大の目玉である『バットマン』シリーズの主要人物であるバットマン、ジョーカーを出しつつも、それ以外は新顔ばかりのオールスターズを結集させたDCコミック側の脚本は相当な博打であることが理解出来る。実際、前半部分のリクルート〜「タスク・フォースX」結集までの流れは、コミックやこれまでのDCエクステンデッド・ユニバース・シリーズ2作を観ていない人からすれば、いったい誰が味方で誰が敵なのかさっぱりわからない。オールド・ファンからすれば、監督がロバート・オルドリッチ『戦略大作戦』やサム・ペキンパー『ワイルド・バンチ』を参考にしたのは明らかだが、敵味方の極めて混濁した世界で、様々な悪と巨悪が対峙する展開はデヴィッド・エアーならではとも言える。アナモルフィック・レンズを駆使したフィルム撮影は、ザック・スナイダー作品同様に、全体的にどんよりと暗い色調に覆われているのがいささか残念だが(従って3Dとしても迫力に欠ける)、使われた音楽のセンスが40代以上を鷲掴みにする。The Animalsの『The House Of The Rising Sun』、Rolling Stonesの『Sympathy For The Devil』、Rick Jamesの『Super Freak』、AC/DCの『Dirty Deeds Done Dirt Cheap』、Black Sabbathの『Paranoid』、Queenの『Bohemian Rhapsody』など旧知の名曲たちや90年代HIP HOPと、アメコミ映画の親和性は極めて高い。今後はジャスティス・リーグと「タスク・フォースX」という表と裏の整合性、双方のキャラクターのインフラ化から誰を残し、誰を間引くのか?DCコミック側の判断が注目される。

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