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古代緑地  Ancient Green Bert 第4話 「西の都」

西の都 twins

 西の都では、身をやつした双子の姫が 手を取り合って夜更けの街道を駈けて行きます 彼女たちは「つき」と「ほし」というのです 

 後ろから大勢の追いかける音 

 既に追っ手がかかり 捕えられるのは時間の問題でした 

 つきとほしは息が切れ 脚が痺れて駄目かと思われたその時 路地からにゅっと出た手に引きずり込まれたのです
 恐怖に力を振り絞って暴れる二人を、両脇に抱えて茅葺きの塔の天辺まで飛ぶほどの膂力を持ったそれは人ではなく鬼のたぐい 

TWINSのコピー

 双子の姫を見失った追っ手は 虱潰しにまだ眠っている街の路地を探し 屋敷に押しこむことさえしましたが成果はありませんでした まさか屋根の上に潜んでいるとは思わず誰も見あげません 

 しばらくすると集まって何やら話し合っておりましたが わらわらと元来た道を戻って行ったのです

 つきとほしはホッとしたのもつかの間 我にかえると 得体の知れない大男に抱えられたままなのでした ガクガクと震え 助かった心持ちはしません むしろ反対に怖くて怖くて男の顔を見ることもできませんでした


 …すると存外優しい声が聞こえてきました それはどこかで聞いたことのある声でした

 「さあ もう安心だ 何も怖がることはない  さ これをあげよう お前たちを守ってくれるよ 」

西の都 お椀

 二人に渡されたのは小さな蓋つきのお椀 曙の空と西へ沈む月が艶やかに映るほどに綺麗なものでした 
「ああ もう明るくなってきたから俺は行く 達者でな」

 強い一陣の風に目をつむった二人 目を開けた時にはもう大男の影も形もありません 茅葺き屋根は静かな暁の空に染まっています 枯れて透き通ったぺんぺん草が吹き溜まりで微かにゆれています 

 二人は顔を見合わせ お椀の蓋をそっと開けて見ますと 中に小さな折り紙がたたんであります 不思議な思いでそれを広げ目を落としました 

 すると三つの言葉が流麗な文字で書かれています 

 ふたりはうなづきあって もらったお椀を大事に胸に抱え 日が昇る方へまた歩き始めたのです 

 どこまで行けばいいのかわかりませんが 二人の足取りは とてもとても軽く 花びらが舞う 暁の空を見上げ 二人は笑ったのです

青い山



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古代緑地 Ancient Green Bert 第4話「西の都」双子の姫も旅立ちました

花綵列島ものがたり巡礼

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