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まなかい; 大雪 第63候 『鱖魚群(さけのうおむらがる)』

「母川回帰」というそうだ。

鮭の仲間が生まれた川の匂いを覚えていて、三年以上回遊した海から生まれた川に戻ること。それは最後の旅で、多くの種類は生涯に一回だけ放精あるいは放卵して死んでしまう。

渡鳥とか、海亀の産卵など、そうした母なる場所へ帰ってくるセンサーというのは、地球の律動のままに生きている彼らならきっと特別なことではないのだろう。


震災後はじめた「めぐり花」は、花の連句。

上の句としての前の人の挿した花を受けて、寄せたり、離したり、飛ばしたり、間や、色合い、バランスなどを見ながら即興で花を挿していく。いけばなの型と連句の型を組み合わせた座だ。

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冬至前日この日は、冬から早春を織り込む「めぐり花」。冬至に欠かせない柚子や、クリスマスも近いのでコニファー類、樅、西洋柊などの常緑樹に、春の花木であるトサミズキや蝋梅、フリージアやラナンキュラスを集めた。この時期ならでは、お客さんのお庭で剪定した植物も幾らか混ざっている。

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太陽のシンボルでもある柚子に合わせた黄色い早春の花には、光を求める気持ちが現れる。いち早く春の草花フリージアや、ラナンキュラスなどを揃えたのも、そんな気持ちからだ。展開としては、まず冬の景色として常緑樹や、赤い実の西洋柊などを入れてもらってから、だんだん春になっていく感じを想定していたが、最初に活けた子どもたちは、柔らかい黄色のトサミズキをまず活けたので、その目論見は崩れる。

でも、それが良いのだ、予定調和ではない。

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大人たちも次々と活けていく。悩んでいる時間はない。冬と春が入り混じっていく。子どもたちは流行りの歌や、遊びを、活けながらぶち込んでくる。大人もそれで解れる事もある。鬼滅の刃の歌が入ったり、はみ出した長いハイビャクシンを飛び越えてみたり。かと思うと花を扱うときは、ずっと繊細に扱う。

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花を「活ける」は「生ける」とも書くし、「埋ける」でもある。「埋めて」いるのだ。見方を変えると花を活けるということは、その命と引き換えに、何かを呼び、別の命を生かすことでもある。

この手で触れ、樅やハイビャクシンや、柚子の香りを嗅いで、柊の棘に痛い思いをし、いろんな枝の硬さや花びらの柔らかさを知り、それらにこの手で鋏を入れることで、多様性や四季のめぐりや、宇宙からの贈与の大切さを知る。優しさや、儚さや不思議を知れば、根絶やしにはできないだろう。


花や枝にとって、これは最後の旅。

冬至の小さなお祭りは、この座に集ったものを活かす光となる。

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