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古代緑地 Ancient Green Bert 第15話『ソングライン』


白く透き通ったちいさなきれいな女の子が白い道を歩いていきます

白いおべべに白い帯を締めています

女の子はまだ目が開かないようです

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でも何かに促されるように歩いていきます


しばらく行くと菫の咲く野原に差し掛かりました

菫は言いました

「あなたの帯にわたしうつってもよくって?」

女の子は「はい どうぞ」と言いました

悪い気がしなかったからです

すると帯はきれいな菫色に変わりました

女の子は菫が好きになりました

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さてもう少し歩きますと

早緑の美しい森に差し掛かりました

すると森の葉っぱ達がこう言いました

「お前さんの髪の毛に僕たちうつってもいいかい?」

「はい よくってよ」

きれいな緑の黒髪が風をはらんで女の子のうなじを撫でました

女の子は樹々の運ぶ風をとても気持ちいいと思いました


また歩いていきますと

今度は川沿いに見事な桜並木がありました 満開の桜の下を歩いていきます

「私たち あなたの爪を染めたいの」

花びらが風に舞い 女の子の爪はきれいな桜の花びらが彩りました

女の子は指先が凛としたのを感じて桜が好きになりました


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さらに進むとピンクの薔薇が麗しく咲いていました

薔薇は女の子を見ると言いました

「わたし あなたの唇に似合うと思うの わたしに口づけしてごらんなさいな」

「はい こうですか」

女の子は手で薔薇を包むと 口づけしました

唇は柔らかい薔薇色になりました

女の子はとても不思議な気持ちになりました


山道を進むと紅花が眉刷毛のような花を咲かせています

紅花は言いました

「わたしにほっぺをお寄せなさい 少し棘があるからゆっくりするのよ」

女の子が言う通りにすると花はふさふさと頬を撫でました

「わあ やわらかいのね」

頬は美しい紅色に染まりました

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もっと行くと今度は桃の園がありました

桃は言いました

「あなたのお肌を染めたいわ」

園を通り抜けるとき 桃の花は歌を歌いました

すると女の子の肌は丸く桃色になり産毛は光って輝くような肌になったのです

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坂道を下ったところの池には菖蒲が咲いていました

菖蒲は言いました

「白いおべべは僕たちが請け負うよ」

張りのある声を聞くと女の子は嬉しくて

「はい お願いします」と言いました

おべべはあでやかな紫に染まりました

女の子は安心しました


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真っ白い百合が揺れているところに差し掛かると

百合は言いました

「あなたわたしを香ってごらんなさい」

百合の白い花に顔を寄せると

香りが鼻をくすぐり身体を満たすのでした

百合の香りをまとった女の子はよい気持ちです


最後に女の子はてっぺんに大きな木のある丘に登りました

頂上に立つと

頭の上の方が明るくなるのを感じました

お日様とお月様が連れ立って降りてきたのです

お日様は黄色く輝く玉を持って 左の目に運びこみ

お月様は青い玉を持って 右の目に収めました

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すると女の子の目が開き

カラフルな広い広い世界が飛び込んできました

明るい空と 真っ青な海が見え 鳥がさえずり 虫達が飛び回っています

樹々が小さな街を囲み 沢山の花々が咲いています


「わあ なんてきれいなの!」 玉のような声で叫びました

風と水と血が身体を巡り 

虹のように艶やかな女の子がそこに立っていました

揺れる木洩れ陽に気がついて 見上げると満開の真っ白い花が 祝福するように咲いていました


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ふと隣を見ると 同じように この場所に着いた男の子が立っています

二人はお互いを見初め

微笑みました


手を取り合って 

そうしてゆっくり木をまわり始めたのです







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