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古代緑地 Ancient Green Land 第1話 「北の森」


しろもん 起きれーのコピー2

 遥か遠くの北国の洞窟で すやすやと寝息を立てているのは人と熊の間の子です

 冬の間はこうやって洞穴の奥で眠るのです 彼は大きくて真っ白で毛むくじゃらなので「白もん」と呼ばれていました 年齢は、、、ちょっとわかりません
 
 冬ももう直ぐ終わろうとしています でもまだ寒くてまどろみの中にいるある日 光を背にした影が洞窟の入り口に立って 「起きれぇー!」と叫びました

しろもん 起きれー 3のコピー

 あれ 誰か呼んだかな、、、と 間の子は目をこすりながらむっくり起き上がり ぼんやりする頭で入り口の方を見ました が 誰もいません まるい
空が見えるだけです のそのそと入り口まで這って 眩しい雪原に目をしばしばさせながら外を覗くと 入り口横の雪壁に金色に光るものがありました 手を伸ばすとそれは藁ぼっちの人形でした 

 手にした途端 藁ぼっちは握った手の中で ぶるっと震えたのです それからしばらく白もんは 何か考えているようでした どうもそわそわしていて ため息ついたり 藁ぼっちをじっと見たりしている時が増えたのです 


 白もんは春のはじめの光のきれいな朝 寝床を整えて 藁の笠と蓑をつけた小さな人形を胸にしまいました 
 すみかを離れることに決めたのです

しろもん 林 1

 出立の朝 いつもお散歩する原っぱに脚が向きました

 白もんは村の子供たちが好きでしたけど 怖がらせると思っていつも木の陰から見ていました

 杉木立ちの間から 雪原で雪合戦したり 雪だるまを作ったり 橇遊びをしている ほっぺの赤い子供たちをじっと見つめていました 
 お別れなので 食べようと思ってとってあった木の実や 夏の間大きな手爪でざっくりざっくり摘んだ苔桃の輝く赤い実の瓶詰めも籠に入れて来たのです 

 白もんは色々思い出していました 彼らにわからないように一緒に風のようにかけっこしたり 光のように笑い転げたり 雪合戦の時には贔屓の子に加勢をして内緒で勝たせたこともありました 

 もう目は涙でいっぱいです


 子供達のうちの一人が白もんに気がついたようです 彼女はおとなしい子でした これまでも実はたまに目が合っていたのでした その子はじっとこっちを見ています

 白もんはドキドキしました

しろもん下山2のコピー

 慌てて目を逸らして籠だけ置いて そそくさと出発したのです 
 森は新しい雪でさらさらきらきらしています 雪の上を降ったばかりの朝の雪が流れていきます 白もんは山をずんずんくだります 


 少しして振り返ると さっきの子が白もんの置いてきた籠を抱えて手を小さく振っていました 

 白もんはびっくりしてしまいましたが 同じくらい嬉しくなって もう泣きそうで どんどん歩いたのです 

 雪を舞い上げるまだひんやりした風が 濡れた頬を撫でていくのでした


(文/イラスト 塚田有一)




ひとまわり違いの弟を持ったせいもあって もともと絵本好きで高校生の頃は絵本作家になりたかったのを 絵を描きながら思い出しています 児童書の卸をしている書店が高校のすぐそばにあって よくそこに入り浸っていました コロナ騒動が始まる少し前 なんとなく3月くらいから キャラクターが色々生まれてきたので 設定を考え お話を添えたりひいたりしているうちに のめり込み ひとまず5つの小さな物語が 生まれてきました 季節が巡ってくる不思議 ささやかで 目に見えない 遠くで いつも 無数の不思議が生起し 世界が回って 出会いと別れを繰り返し 流転し ちっぽけな存在だけど いのちは 星のように瞬き 花のように華やかに 輝く 縁あって結ばれ また離れていく その一瞬一瞬の高速で明滅するものたちの総体こそが 生命の木 花を立てることはその模型 生命の木を擬いている 物語を 読む ことは 呼ぶことでもあって 波を起こす 読むは見えない黄泉とも通じていて 深層意識にも触れている 心の奥の水面が揺らぐとき 鏡に光が射すとき が確かにある
内なる 古き緑の大地へ まずは北の森のお話から4つの物語を順番に公開します ひたすら旅立ちだけの物語です 花を切って活けると言うことを続けてきているから 生まれてきた物語かもしれないと 思っています

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