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北山宏光と香取慎吾

連続ドラマが好きだという記事は、これまでに本noteで何度か書いたことがある。例えば「すゑひろがりずと滑狼」「カルテットとすゑひろがりず」「斎藤工と医師たちの恋愛事情」「砂漠とオレンジデイズ」など。2021年冬ドラマもそろそろ中盤に差しかかり、種々の物語の広がりに胸躍らせる毎日だ。

日本テレビ「でっけぇ風呂場で待ってます」に注目をしている。Kis-My-Ft2北山宏光とSexy Zone佐藤勝利のW主演。銭湯を舞台にしたコメディ作品である。

第1話との出会いが印象的だった。TVerの視聴期限間際、特に予備知識のない状態で視聴した。開始1分、「ああシチュエーションコメディをやっているのだな」と気づき、とても嬉しい気持ちになる。シチュエーションコメディ、いわゆるシットコム。厳密にいえば両者を非なるものとして区分する向きもあるようだが、そのような定義づけを行うことを目的にした記事ではないので、本稿では同義として扱いたい。


シットコムを取り上げるうえで絶対に外すことができないのが、三谷幸喜脚本・総合演出「HR」(2002・フジテレビ)だ。香取慎吾演じる高校教師が、定時制高校を舞台に繰り広げる学園ドラマ。もう15年以上前の作品で、その間にも当然たくさんのドラマを見てきたわけだけれど、この作品を超える学園ドラマを他に知らない。理想の先生像というものがあるのならば満を持して、香取慎吾の「轟先生」を私は推す。夜間の高校で繰り広げられる、一風変わったハイスクールコメディ。生徒は個性豊かな大人たちだ。その愛すべき生徒たちを相手に、教室を駆け回る轟先生の姿が大好きだった。学校という場所には青春がある。「青春」――、こんなにも抽象的な言葉もあまりないと思うが、「HR」の教室にも確かにそれが存在した。学び舎とよばれるところから離れてもう久しい。自身のことを思い返せば、苦い思い出も多く、あの頃に戻りたいとはあまり思わない。されども、三谷幸喜が描き、香取慎吾のいる学校ならばいつだって通いたい。むしろ、大人になった今だからこそ、永遠に憧れ続けられるのが「HR」の世界かもしれない。


「でっけぇ風呂場で待ってます」に話しを戻す。「でっけぇ風呂場」の名の通り、実際の湯舟があるセット。脚本を手がけるのはシソンヌ・じろう、ハナコ・秋山寛貴、かが屋・賀屋壮也、そして空気階段・水川かたまりの4人。担当回にはキャストとしての出演もある。おもしろくないわけがないだろう。

現在第4話までが放送され、それぞれが一巡した格好だ。舞台理論のことは分からないが、台本の作り方や演技の手法は、コントとドラマでは違うのだろうなと思う。笑いを生むために造られたものではなく、血の通った人間を描くのがドラマだ。おかしみだけでなく、「ちょっといい」感じで終幕するのがいい。

ドタバタと翻弄されながらも、シットコムの登場人物は軸となる正義をもって走らねばならない。その「かくあるべき」という正義は、大きすぎるたいそうなものではなく、誰もが日常の中に抱え持つささやかな正義だ。海外ドラマ「フルハウス」だってそうだろう。「〇〇には、こうあってほしい」「△△は、こうありたい」――完璧ではない主人公だからこそ、彼らが走り回る小さな世界の、守るべき部分が際立つのだと思う。

きらきらした瞳を持った、轟先生の正義はあたたかかった。目指したい大人の姿の一つといってもいい。そういう理想的なものを具現化して見せてくれるのがドラマという表現方法の偉大さだ。あの頃――香取慎吾に、轟先生になりたかった。模範的な大人ではないのかもしれないが、そういう部分も含めて強く憧れた。

ときは令和3年。明るい髪をした北山宏光が、銭湯の番頭としてシットコムの舞台に立つ。人情味あふれる役どころと、優しい視線。なんとなくその感じが、轟先生の系譜に見えた。


あとがき

シチュエーションコメディを見つけるとそれだけで嬉しくなります。「GAKUYA~開場は開演の30分前です~」(フジテレビ・2016)とか、長く続いたものだと「ウレロ☆」シリーズ(テレビ東京・2011)もこれにあたるのかな。

ラーメンズ・片桐仁さん主演の「GAKUYA」、話数の少ない作品でしたがめちゃくちゃに好きでした。ネット上にも情報があまり残っていないのが残念。キュウソネコカミの主題歌「ハッピーポンコツ」まで全部、端から端まで好きでした。「HR」の主題歌・奥田民生の「まんをじして」も名曲。楽しかったドラマの思い出と一緒に、かっこいいイントロが頭の中で再生されていく幸せ。「でっけぇ風呂場」も印象的な挿入歌がある。良い雰囲気があります。


演者さんはそれどころではないのだと思いますが、肩の力を抜いて見られるシットコムが大好きです。気持ちよく飲んで帰った深夜の風呂上がりに、頭をからっぽにして見たい。

スタジオ内の笑い声を入れる手法「ラフ・トラック」。「でっけぇ風呂場で~」でも使われています。これさえあれば良いわけでもなく、イイ脚本に、イイ演技にこれが乗ると楽しい。呼吸をするのを忘れるような、肉薄した緊張感あるドラマストーリーも好きですが、いい具合に息が出ていく作品は心身にやさしい。舞台とする銭湯のようにほわんとさせてくれるこのシットコム、長く語られる作品になればと思います。


出典

[1] 日本テレビ「でっけぇ風呂場で待ってます」 (公式Webサイト)
https://www.ntv.co.jp/dkfuroba/

[2] TVer「でっけぇ風呂場で待ってます」#4「マニー・マイ・ラブ」 (2021.3.2公開終了)
https://tver.jp/corner/f0067900

[3] フジテレビ「HR」 (公式Webサイト)
https://www.fujitv.co.jp/b_hp/hr/

[4] amazon 「HR Vol.1」(2003)
https://www.amazon.co.jp/dp/B000084TBG


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