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バーテンダーにまつわる、ゾッとした話(友人談)

これは私の友人が体験した、本当にあった怖い話である。


友人は、無類の酒好きである。

それが故に、以前はいわゆる「いきつけのバー」が彼女には存在したらしい。

この「いきつけのバー」そのものはもちろん今も存在するが、過去形になってしまったのには、友人のゾッとした体験があったからに他ならない。




友人がそのバーに行きはじめてから程なくして、そのバーのオーナーとよく会話する仲になったそうだ。

ここまではまぁよくある話で、その後自然な流れで閉店後に家まで送ってもらうという事案が発生したことも、まぁ恐らくよくある話なのだろう。

私が話を聞いた時点では、既に何回か家まで送ってもらったことがあったあとで、オーナーの人柄やプライベートな話まで、随分と仲が深まっているような印象だった。


お酒の席でのことだし、お客相手にしてもこういうことはよくあることなんだろうな程度で、特に気にも留めず話しを聞いていた。

それどころか、数年間彼氏がいない状態の友人についに春が来るのかとワクワクした気持ちも少しあった。



そんな話を友人に聞いてから数日もしないうちに、続報が出来たと連絡が入った。

期待に胸躍らせて話を聞いてみると、端的に言えばどうやらペッティングまで致したらしい。

良い大人同士がそこまでして挿入なし?というところに疑念が湧いたが、車内での出来事だったそうなので、致し方なかったのだろうと納得することにした。


私は単刀直入に「その人のこと好きなの?」と聞くと、「そういうわけじゃないんだよな」と返ってきた。

まぁ、そういうこともあるよね。

人肌恋しいこともあるし、なんとなく流れに身を任せることもあるのは実体験済みだし、本人が納得していればそれでいいのだ。



「ところで、ペッティング以上の展開はないの?」

私はそればかりが気になって、今後その可能性があるのか、友人としてはアリなのかどうか、相手はどんな様子なのかをこれでもかとかぶりつく様に問いただした。


友人曰く

・正直そういうことになったら断れないとは思う
・今のところそれ以上の展開という気配はなし
・相手も「入れることに執着がない」と言っていた
・自分も今のイチャイチャが一番心地いい

というようなことを言っていた。


これは昨今流行っているソフレ(添い寝フレンド)の進化版だろうか?

ペッティングフレンド、略してペフレか?


こんな形で需要と供給が成り立つ関係もあるのだな、と感心した。


友人は、「でもあの人めちゃくちゃ勃起してるけどな」と言っていたので性的興奮はバリバリに存在するらしいというパラドックス感は否めないところだった。





さて、そんな友人とバーオーナーのペフレ生活だが、次第に陰りが出始めた。

どうやら、オーナーの方がペフレでは満足していないような言動が目立ってきたらしい。

例えば

オ:「今日仕事終わったら電話するね」
友:「寝てるから出られないと思う」
オ:「一応かけるね」
友:「明日早いし寝るから…」
~夜中不在着信~

と言ったような、断ったにも関わらず必要性もわからない着信があったり

オ:「今飲んでるなら待っててくれれば送ってくよ」
友:「もう帰るから大丈夫だよ」
オ:「ちょっと待ってて」
友:「すぐ帰っちゃうから~」
~30分もしないうちに友人のいる居酒屋に登場~

と、まるで彼氏のような振舞が何回か続いたらしい。


とは言え、特に付き合おうと言われたわけでもなく、好きだと告白されたわけでもなく、曖昧なままのペッティング行為だけは続いていたので友人としてはわけがわからなくなってしまったのだ。

せめて友人側に恋心でも芽生えていれば、いくらでも良いように解釈することが出来るのだが、そんなこともないので余計に面倒に感じているようだった。


「まぁでもこうなったのには自分にも原因があるし、当たり障りないように接してみるわ」


せっかく見つけたいきつけのバーを、こんなことで失くしたくないという気持ちからだろう。

オーナーの話以外にもそこで仲良くなった人の話を聞いていたりしたので、友人は大人な対応をして楽しい飲酒ライフを続行するのだと解釈した。



それから数日後、さらなる続報が入った。

「関わるのやめることにする」

先日の話から一転、絶縁宣言である。

実際には連絡も返さず、店にも行かないというフェードアウト方式なのだが、どちらにせよ関係を断つということに変わりはない。


なにがどうしてそうなったのか、ついに挿入でも迫られたのか?と話を聞いてみたところ、いつもの流れで自宅まで送ってもらっている最中、ゾッとするようなことを言われたらしい。

それは他愛もない話。

友人が仕事であったことを雑談として話していたところ、リアクションがイマイチよろしくない。

それどころか、上の空というか話を聞いているかも怪しいほど。

友人は思わず「え、聞いてる?」と声を掛けると


「あ、ごめん。音聴いてたわ」


車内に流れるBGM、というかオーナーお気に入りの音楽を聴いてたとのこと。

それを「音聴いてた」と。

続けて

「たまにやっちゃうんだよね~、ついつい音に聴き入っちゃって」

いやまぁ、音楽を聴くのは自由だよ。

ついつい上の空になっちゃうのもまぁ百歩譲って許そう。

でも、音聴いてたって何?

むしろ話聞いてなかったのも設定で、音聴いてたって言いたかっただけじゃない?

だとしたらお前の音聴いてた時間のあいだ、こちらが喋ってた無駄になった時間返して?

もはや音聴いてないで話聞いて?



ちなみにこの話を思い出したのにはきっかけがあって、とある知人(元DJらしい)が全然畑の違う業種の人とミキサーだかなんだかの音楽機材の話で盛り上がってて急に「あぁ~DJやりたくなってきた」と発言したことだ。

ヤンキーの「やべー喧嘩してぇ~」に似たようなものを感じ、心臓あたりがゾワゾワした。



話は逸れたが、バーオーナーは音を聴いていたという謎の理由で友人の話を聞き逃した。

友人は話を聞いてくれなかったことへの怒りより、「音聴いてた」という独特の表現にゾッとして、それこそその後の話が全く入ってこず上の空だったそうだ。


その日はなんとか理由をつけてペッティングを回避し、足早に家に入りササッとLINEブロックを完了したそうだった。




なんともあっけない終わりを迎えたペフレの二人だった。

バーオーナーからしてみれば、己がこだわりを持って発言した「音聴いてた」がきっかけになって関係が終わるとは予想外だっただろう。

もしかしたら今でも別れの理由はわからないままかもしれない。



キャラクターの作り込みは、素人が手出しするもんじゃないなと思った出来事だった。


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