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解釈レベル理論とマーケットリサーチ

 本作文は、2013年10月にFACEBOOKのノートにて公開したものを加筆修正したものです。どうやらずいぶんと読まれているようなので(なんとGoogle検索でも上位に出てきます)、せっかくだからこちらでも公開しようと思った次第です。

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 今回の消費者行動研究コンファレンス(2013年10月26~27日 法政大学)で聞いた研究発表。印象が残っているうちにメモ。

 学会って、会社じゃ学べないことに出会えるとっても貴重な機会です。でも学術の世界はあくまで学術の世界で、即実務につながる成果は必ずしも多いわけではありません。でもこちらは自分ごととして受け取ることができ、まさしく「いいね!」でありました。

「解釈レベルの操作を伴うマーケティングリサーチ手法の開発とバイアスの排除に関する実証実験」
竹内真澄(名古屋大学大学院経済学研究科)、星野崇宏(名古屋大学大学院経済学研究科)

 解釈レベル理論とは消費者行動研究で昨今ホットな理論で、心理的な距離によって商品のとらえ方が異なるというものです。心理的な距離が遠いというのは、実際の購入はまだ先で情報を集めているような状況。こういう場合、人は商品の本質面を重視するといいます。一方心理的な距離が近いというのは、実際に店頭でどれにしようか選んでいるといった状況。こういう場合、人は副次的な要素を重視するといいます。

 具体例を挙げると、来年冷蔵庫を買い替えるとしたら、冷却性能や電気代を重視して候補を選んでいきます。一方、実際買う段になったらデザインや価格を重視するということ。冷却性能や電気代=冷蔵庫に求められる本質的なこと。デザインや価格=冷蔵庫の本質的機能ではない。なんとなくわかりますよね。

 ところでマーケットリサーチで、購入したいものを尋ね、将来の売れ行きを予測しようということを考えた場合、質問に答えるという行為は、基本的に心理的な距離が遠い状況と考えられます。そこに、心理的な距離を近づけるような手続きを施せば、より現実のお買いもの状況に近くなり、予測の精度が上がるのではないかというのが、私の理解したところのこの研究の主旨です。上記に基づいて実験を行ったところ、結果はそれを支持しました。

 実験では質問に答える前に、情報を与えたり作業を課したりして、実際に購入するような心の構えを作っていく手続きを施しました。ちょっと調査をかじっていたりすると、「事前に余計な情報を与えたりすると“バイアス”になる」と、できるだけまっさらな状態で答えさせるべきと主張したりします。確かに事前に与えた情報により回答は影響をうけるでしょう。しかしながら、「質問に答える」ということ自体が「物を買う」ということと違うことです。どんな「物を買う」か知ろうとした場合、果たして何も与えない方が精度が高いとはいえませんよね。回答に影響を与えるという側面のみととらえれば、「バイアス」なのかもしれませんが、先を知るのが目的なら、本題に行く前のいくつかの手続きはむしろ必要なことと言えましょう。

 自分が調査票を作る場合、かつては解釈レベル理論なんて知りませんでしたが、「(本題はこれだけど)そんなこと、いきなり聞かれたって答えにくいよね」と感じることもしばしばあったので、ウォームアップのような質問を前もってしておき、できるだけえ現実感をもって答えられるようなお膳立てを考えていたものです。でも、最近はネットで誰でも簡単に調査ができるようになった負の側面でしょうか?いきなり答えを迫るような作りの調査もままあるものです。

 またアンケートに答えてもらうのでなく、インタビューで尋ねていこうという場合、急に聞かれても答えられないとか、突然尋ねられたら(自分の普段の行動をすっとばして)建前的なことをとりあえず言うということが十分考えられます。というか、「家を建てるとしたらどういったことを重視しますか?」なんて急に聞かれたら、ちゃんと答えられないですよね。ましてそれまで見ず知らずだったインタビュアーを前にしてですよ。そこで、早く結論が知りたいけど我慢我慢。まずは雰囲気作り。あたりさわりのない話から、空気を暖めていき、段取り段階を踏んで、気分を現実の場面に誘導。そしてやおら尋ねるといったことを常としておりました。

 しかしながら、やっぱり段取りもそこそこに「これ欲しいですか?」「××について何を重視しますか?」と尋ねちゃうことも多いようです。困ったことに、それに対する答えをもって結論を得たとする薄っぺらい「分析」も後を絶たないようです。実際に選択・購入するということと、質問に対して答えるということは違うでしょう!と指摘しても、でも「目の前で生消費者がこう言った」という事実があるわけです。なかなかそこからは離れられません。そう言ったからといって皆その通り行動してるのか?(そうとも限んないでしょう)というのが人間として当たり前なんだと思うのですが、こと仕事となると、そんな人間の性を忘れてしまう人も少なくないようです。

●今回のコンファレンスに参加して●

・「直接聞いた答えが必ずしも精度の高い答えじゃないでしょう」とか
・「きちんと聞く(知る)ためには、それなりの段どり・手続きが必要ですよ」ということを、関係各位に説明するにあたって、

 それは単なる私の思いつき・思い込みではなく、しかるべき理論でも説明されているんですよという、言い方もできるようになったかしら。休日出勤してひとつお利口になりました。

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