マーケティングリサーチあるある 仮説「検証」なんてしないでしょ。

 これはその昔 FACEBOOK の note に作文したのですが、FACEBOOK の仕様変更により、表に出てきにくく(かつ、自分でも探しにくく)なりました。でもせっかく書いたものだから、加筆修正の上移植することとしました。リサーチ実務を長年やってきて、しばしばいかがなものかと思った事例です。

 その昔、仕事柄調査会社の人たちとお話しする機会がよくありました。私はメーカーに勤めていながらも、立ち位置というか、物事の考え方が極めて調査会社寄りだったのです。調査会社の方々とわが社のマーケターがリサーチについて打ち合わせをしていて、そこに私が加わっていると、私がどちら側の人なのかわからなかったと思われます。
 で、私が調査会社寄りのスタンスなもので、調査会社の人とだけ話すときは、ついついお互い本音ぶっちゃけトークになってしまうこともありました。そんな中で、よく話題に上ることの一つです。決して勤めている会社の暴露話ではありません。どの会社でも“あるある”話の一つだと思ってお読みください。


 例えばデザインのテスト。デザインは大事です。まずもっていい印象を与えなければなりません。だから好感度を評価する。このデザインはどれだけ好きですか?とか、最も好きなデザインはどれですか?などと。
 一方でデザインは商品コンセプトを表すものでなければなりません。だからコンセプトを示した上で、それぞれの候補のらしさを評価したり、この考え方に最もあてはまるのはどれですか?なんてことを尋ねます。

 さて、好感度が高かったものがコンセプトを見事表現していたなら、何も問題ありません。皆が幸せ。でも、そうでない場合もあります。好感度非常に高い。でもコンセプト全然伝わってこない。逆にコンセプトらしさバッチリ☆でもダサ~!とか。(後者の場合コンセプトに難があるかもしれません)
 好感度とらしさ、相違していたらどうするのでしょうね?真面目な調査会社の人は、調査票に好感度とらしさ評価が同居してたら、どう結論するのですか?とよく心配してくれたものです。そんな時私は答えました「ケースバイケースですよ」と。まったく答えになってませんが。

 でも実際にそうなんです。リサーチの結果をもって結論するなんてことはめったにないのです。まず、マーケターはたくさんの人たちのご指摘を念頭に置かなければならないのです。上司先輩、他部署の人、そしてお偉方にお取引先。各方面から「ここはどーしてなの?」「ここはどー考えたの?」と突っ込みが飛んできます。
 でもマーケターは「はい、それはかくかくしかじか」「それはこーだからこーいえます!」と自信を持って答えなければならないのです。そうできるものが結論になるのです。というか、結論はもうあって、それを納得してもらうための作戦を考えるのです。材料をいろいろ用意して、キーパーソンを納得させられるストーリーを考える。実はマーケターの仕事はそういう部分が多いのです。
 たとえ辻褄が合わなかったとしても、話の流れやメリハリを工夫して乗り切るのだ!いよいよの場合は、どちらか無かったことにすればいい。リサーチ結果はその材料の一つなのです。

 その昔、私が若くて生真面目だったころは、相反する結果がでたらどっちを優先するの?複数の結論めいた項目が同居していると、お互い違っていた場合困るだけではないか?だったら初めから入れておかない方が都合が良いのではないか?何らかの事情で複数の指標が必要だとしても、結論するためのルールは先に決めておくべきことではないのか?結果が出てから考えるだったら、選考としてのリサーチの意味はないじゃないか?なんて、マーケターを問い詰めていたものでした。もちろん、検討プロセスの中のリサーチならそれはありですが。
 そんなこんなで、マーケターの事情も知らないでウゼェことばっかり言っていたがために、お呼ばれすることもなくなったのがではないかと今にして思う次第です。

 検討のためのリサーチなのか結論のためのリサーチなのか。それによってリサーチの作りは違います。また、検討のためといっても、もはや後戻りできない部分もあるはずです。逆に結論のための調査といっても、やり直せる部分も一定規模あるはずです。この結果がこうであったら、こうするという事後のアクションは、結果が出てからではなく、事前に決めておくものだ。もっとキッパリ言えば、調査結果即行動だと、私は基本的に考えていました(結果出てから考えるでなく)。

 それがマーケティングの議論でよく出てくる言葉:仮説 というやつではないでしょうか。「仮説」というからには棄却されることもありうるはず。棄却されたら、それはそれは物心ともどもダメージは大きいでしょう。でも先にそれを察知することによって、より大きな損失を避けることができる。これがリサーチの効用です。
 しかしながら現実の仕事というかリサーチは、仮説検証とか中立を装いながら、実際には「採択」されるための材料集めという場合が多いのではないでしょうか。
 そして、ネットで安価・短期間で簡単にリサーチができる環境が整い、ますますその傾向が強まっていると思っています。そんなんでいいんでしょうかね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?