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一次データと二次データ

「些細だけど重要なことを突っ込んで説明するシリーズ」第2弾をお届けします。
今回は、まさに算定の現場、担当者が直面するであろうテーマです。

ご案内しようと思ったきっかけは、「私たちが、適当に行った(最善を尽くしたけど、精度は必ずしもよくはない、という意味です)算定結果が、お客様のところでは、一次データになるんですよね」という何気ない質問でした。

皆さんも、思ったことがあるのでは?

逆も真なりで、「サプライヤーから入手したけど、結局、適当なのでは?」
「自分たちがいくら精緻な算定を行っても、無駄になるのでは?」
な〜んて、疑心暗鬼になったり。

一般的な語義は脇に置き、現場ではどのように使われているのでしょう。

バリューチェーン排出量の算定では、「活動量✕排出原単位」が基本。
環境省のサイトに掲載のマテリアルは、全てこの方式で統一されています。

サプライチェーン排出量算定の考え方(環境省)より

パンフレットやレジュメでは、用語の定義無しで使われています。
例えば、このスライドからは「物品購入量」が一次データとありますが、「サプライヤー独自の資本財ごとの排出原単位」については、言及がありません。

「報告者自身の活動量」は一次データなんだな、ということは分かります。

サプライチェーン排出量~算定編~(環境省)より

こちらには、「排出原単位」が二次データとありますので、「LCA-DB」のようなデータベースから引用・適用されるものは、二次データのようです。

サプライチェーン排出量~算定編~(環境省)より

なるほど、やはり、「報告者自身の活動量」が一次データ、「データベース等」が二次データということは、確実のようですね。

サプライチェーン排出量~算定編~(環境省)より

それでは、LCAの場面ではどうでしょう。
一般社団法人 LCA推進機構が発行している「基礎から学ぶLCA〜LCAの実践と活用〜」では次のような説明があります。

少し長いですが、引用しますね。

「フォアグラウンドデータ」及び「バックグラウンドデータ」という分類は、LCAの国際標準規格であるISO14040:2006及びISO14044:2006にはない。国際標準規格は、LCA調査の対象であるすべてのデータを区別することなく収集するという立場で書かれている。しかし、実施者が実測する「フォアグラウンドデータ」とデータベースまたは文献から引用する「バックグラウンドデータ」という分類が、LCA調査の実務として広く行われてきた。カーボンフットプリント
(CFP:Carbon Footprint of Products)の国際標準規格ISO14067:2018はこの実務上の扱いを認め、「フォアグラウンドデータ」を「一次データ(Primary Data)」、「バックグラウンドデータ」を「二次データ(Secondary Data)」と呼んでいる。

基礎から学ぶLCA〜LCAの実践と活用〜(一般社団法人 LCA推進機構)P17*3より

つまり「一次データ」と「二次データ」はCFPで使用される概念なのです。

一次データ:実施者が実測する
二次データの定義:データベース又は文献から引用する

バリューチェーン排出量でもCFPでも、同義ということが分かりました。
ですが、これでは、冒頭の質問の答えにはなっていません。
サプライヤーから報告を受けたデータ、取引先へ報告するデータが、果たして一次データなのか?が問題でした。

そこで、対外的にも説明できるよう、信頼性の高いエビデンスを探したところ、幸い、今年(2023年)3月に、経産省・環境省がリリースした「カーボンフットプリント ガイドライン」の中に、ズバリ定義されていました。

このガイドラインは、2022年9月から2023年1月まで4回に亘って開かれた「サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けたカーボンフットプリントの算定・検証等に関する検討会」で十二分に検討された上でのアウトプットなので、「ウォッシュ批判」に遭う可能性は低いと思います。

で、肝心の定義はというと、次の通り。
これによると、サプライヤーが実際に取得したデータである必要がありそうですが、「どんなデータ」であるか、その精度については分かりません。

カーボンフットプリント ガイドライン 第2部 Step3 CFPの算定 ア データ収集 より 

その答えは、このあたりにありそうです。
つまり、サプライヤーが取得したデータが、これまた、一次データか否か。
その比率で精度を推定しようというもの。

カーボンフットプリント ガイドライン 第2部 Step3 CFPの算定 ア データ収集 より 

方法には、2通りあるとしており、それぞれ、説明がなされています。
その1つ目の説明の脚注に、参考になりそうな表現がありました。

カーボンフットプリント ガイドライン 第2部 Step3 CFPの算定 ア データ収集 より 

「一次データで計算されたものか、二次データで計算されたものかを問わない」ということは、サプライヤーから提供を受けたデータであれば、「一次データ」とみなしてよい、ということでしょう。

カーボンフットプリント ガイドライン 第2部 Step3 CFPの算定 ア データ収集 より 

ただ、2つ目の方法では、無条件に「一次データ」とみなすことにはなりません。
すると、「準拠する算定ルールによる」というのが答えなのでしょうか。

まぁ、これでもよいかとは思いますが、これまで議論していたのは、あくまでも自主的な算定及び開示の場面。任意開示ではなく法廷開示ではどうなるのでしょう。

現段階で、日本において非財務情報の開示は義務化されていませんが、サスティナビリティ基準委員会(SSBJ)が義務化を視野に入れた「日本版S1・S2」の策定を行っています。

11月2日に第24回会合が行われたのですが、そこに提出された事務局案に、求めていた答えがありました。「含まれる」とはっきり書かれています。

第24回サスティナビリティ基準委員会 審議事項A2-3 [S2]スコープ3測定フレームワークより」

算定に当たっては、直接測定によるデータに次いで、優先することとなっていますので、「あまり精度は高くないけど」と後ろ向きに考えるのではなく、最善を尽くした結果を積極的に取引先へ提供し、継続することによって、ブラッシュアップしていきましょう。

第24回サスティナビリティ基準委員会 審議事項A2-3 [S2]スコープ3測定フレームワークより」

なお、情報収集は「過大なコストや労力をかけずに」収集できる範囲で良いとされています。どの程度なのかの明示はありませんが、SSBJが最終版をリリースする際には、何かしらのガイドラインが示されると思います。

第24回サスティナビリティ基準委員会 審議事項A2-3 [S2]スコープ3測定フレームワークより

ということで、サプライヤーから提供されたデータであれば、どのような精度であっても「一次データ」である、と相当程度の自信を持って断言できるエビデンスは得られたのではないでしょうか。

皆さんの参考になったのであれば、幸いです。

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