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VCMに革命をもたらす10のイノベーション(3)

BeZero Carbonのレポートを、簡単な説明と、個人的見解を交えてご案内しているシリーズ、3回目。

前回までで1〜3は紹介済み、今回は、4〜6をご案内。
よろしければ、1回目、2回目もご参照下さい。

10のイノベーションはこちらでした。

1. Ratings - carbon markets are learning the language of risk
2. Satellite imagery - everywhere and all the time
3. Monitoring, reporting & verification (MRV) - bigger, better and more often
4. Regulators & initiatives - from theory to practice
5. Technological removals - rise of the machines
6. Unique identifiers - the yellow pages of the market
7. Insurance - giving the risk to people who want it
8. Diversification - buyers are tooling up
9. Funding - unexcitingly innovative
10. Article 6 of the Paris Agreement - fit for use

4. Regulators & initiatives - from theory to practice

ESG開示フレームワークは、2000年一桁台はGRIスタンダードのみだったところ、2013年にIIRCが国際統合報告フレームワークが公表されて以降、様々な団体が策定・公表し、「アルファベットスープ状態」となっていたことは、皆さんもご存知のことでしょう。

ESG開示フレームワークの変遷

それが、2022年以降、統合化が進み、現在では、原則や目的、開示が任意なのか義務なのかといった違いはさておき、グローバルで適用されるISSBや、EU指令ながらグローバル企業にも影響を及ぼすCSRDなどの、限られたフレームワークに絞られてきました。

加えて、ルールセッター同士が協調して「相互報告可能性(Interoperability)」を確保したり、タクソノミーを統一したり、読み替えのマッピングテーブルを公表したりするなど、ダブルスタンダードやダブルディスクロージャーの回避に躍起になっています。

さらに、欧州委員会は、中小企業や対象でない企業にも使ってもらえるように、LSME(上場中小企業)向けやVSME(対象でない中小企業)向けのESRSを作成しています。

キャパビルにも熱心で、草案作成を担当するEFRAGに対し、様々な教育用のマテリアルを作成するように指示を出しています。これを受けて、ショートバージョン・ロングバージョンの説明動画も作成しましたし、導入ガイダンスも公開しています。

「仏作って魂入れず」とならないよう、ルールを作っただけでよしとせず、実行可能(Doable)となるような施策を矢継ぎ早に出していくのが、最近のトレンドです。

サス担としては、開示基準が標準化され、全てAIがやってくれるような時代が来て欲しいところですね。

5. Technological removals - rise of the machines

「技術的除去」については、理論的な議論に終始している段階だと思いますが、「バイオ炭」については、この2、3年の間に大きな前進があった、とBeZeroは伝えています。

J-クレジットにおいても「バイオ炭の農地施用」として方法論が策定され、追加性の評価を省略することも認められています (ポジティブリスト化)。

ネットゼロは、どうしても削減できない削減量(残余排出量:Residual Emissions)を「中和」することで達成できますが、その際に使用できる「吸収除去系クレジット」として認められるものと考えます。

技術的除去セクターの発行総額は、2023年には2020年の10倍に達した模様。その大部分はバイオ炭クレジットであるものの、強化風化、鉱物化、バイオオイルのクレジット発行も見られるそうです。

2020年から2023年の間に技術的除去によってもたらされるクレジット。出典CDR.fyi

バイオ炭以外では、直接空気回収(DAC)が思いつきますよね。

こちらについても動きは活発。例えば米国では、カーボン・エンジニアリング社がオキシー社に買収され、1Point5社と提携した後、ストラトスプラントが着工されたり、アフリカでは、オクタヴィアがケニアの地熱を利用した大陸初のパイロットDAC施設を開発中だったり。

その数はまだ少ないが、技術的除去プロジェクトの案件は増え続けているようですが、なかなかに、このセクターがコストカーブを下っていくのは難しいでしょう。なので削減の「選択肢の一つ」として開発を続けるべく、官民双方からの継続的な支援を期待したいところです。

なお、このセクターの市場統合の一環として、BeZeroは今年、バイオ炭の格付けを初めて開始したそうです。私としては、海外でバイオ炭のクレジットを創生していきたいと考えていますので、めっちゃ期待しています。

6. Unique identifiers - the yellow pages of the market

さて、クレジットを購入して使用する場合、ダブルカウンティングを防ぐために、無効化(厳密には異なりますが、「償却」と表現することもあります)する必要があります。

例えば、J-クレジットを温対法の報告に使用する場合「無効化」が完了している必要がありますが、プロバイダーを通じて購入することが多いと思います。J-VERであれば、保有している自治体や森林組合からの直接購入かもしれませんね。

この場合、プロバイダーや自治体に目的を伝えて「無効化手続き」を依頼するかと思うので、間違いはありません。J-クレジット制度管理者から「無効化通知書」が届きます。

ですが、海外のボランタリークレジットではどうかというと、スキームオーナーは、それぞれのシステムを通じて発行されたクレジットの識別システムを持っているので、同じVCMで閉じていれば問題ないです。(J-クレジットが良い例ですね)。

しかし、これらはすべて同じ方式に従っているわけではないので、システム間で比較することはできないのです。このため、異なるレジストリのクレジットの真正性を検証するために異なるプロセスが必要となり、市場全体で取引を行うことは困難です。

この問題を解決しようとBeZeroが打ち出したのが、CUSIPとの連携。

CUSIP Global Services(CGS)は証券識別の世界的リーダーだそうで、その識別技術をクレジットに応用、クレジット固有の識別子を作成したということらしいです。これにより、急速に成長するVCMにおけるクレジットの取引がより効率的になるとしています。

クレジットのイエローページ(死語?)と言ったところでしょうか。

システムが、イエローページに掲載のユニークなIDに問い合わせることにより、異なるVCM間でも、クレジットの真正性を検証できる訳ですから。

このように見てくると、「あったらいいな」が次々と具現化してきているように感じます。「技術は後退しない」は真実ですねぇ。

クレジットは「創る」だけでは意味が無く「使って」ナンボ。
これからも、クレジット周りの環境はウォッチしていきたいと思います。

ということで、長くなってしまいましたの。
今回はこれくらいにして、次回は、7〜10についてご案内しますね。

乞うご期待。

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