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note de 小説「時間旅行者レポート」その1

僕は神経外科医医学生のオリバー。

神経症についての研究論文を作成にあたり
第一次大戦の激戦地、北フランスのソンムを
題材に調査を試みていた。

ある研究機関の協力で
事細かな症例を見てみないか
との打診がある。その研究機関とは

この度「夢のタイムマシン」を
開発したあの会社
ディメンションズ社だった。

その被験者、ないし
時間旅行の研究対象として
僕が選ばれたのだ。

そして話は先週末にさかのぼる。

ーーーーーーーーーー

「ドクターオリバー
リラックスしてください。

何度も試験を重ねて
事故の発生はまだ
確認されていませんので。

ですが有人での
タイムトラベルは
あなたが初めてです」

研究所所長の
ハーバー教授が
ボクを落ち着かせるように
諭した。

だが
当の本人であるボクは
ワクワク感ゼロ。

不安だけしか
脳内を支配していなかった。

ハーバー教授は続ける。

「私はこの世に始めて
夢のタイムマシーンを
出しました。

今回、有人での
タイムトラベルが
実現すると世紀の
大発明になること
間違いありません。

聞くところによると
あなたは神経症の
医学生とのこと。

砲弾神経症。
ご存じでしょう。

塹壕で戦った兵士の
およそ9割がわずらった
症状ですね。

それを論文ではなく
リアルタイムで
見てとれる。

あなたとわたしの
利害が一致した。

そう思いませんか?」

わたしは後悔した。
直前になって。

このカプセルに
入ったこの瞬間に
なって急に恐怖した。

「あなたは医学生にも
かかわらず奨学金を
利用していますね。

今回の治験の協力で
われらの研究室から
今後一切、生活費から
すべてを工面させて
いただく。

これにも了承をいただいた。

よろしいですね」

そう。

貧すれば鈍す。
が適切だったろう。

日々の苦しい生活を
抜け出したいあまり
書類にサインした
自分を呪っている。

「さぁ、Dr、オリバー。

リラックスなさい。
我々だけでなく

あなたも偉大な歴史書の
表紙を飾るのだ。

アレクサンダー王
カエサルにナポレオンなんて
目じゃない。

あなたは
時間を飛び越えて
彼らを超越するのです。

胸を張って。
さぁ、リラックスなさい」

博士はしきりに
リラックスせよ、と
ボクをなだめた。

ーーーーーーーーーーー

申し遅れた。

ボクはミヒャエル・オリバー。

ミュンヘンの医大生だ。

神経外科医志望の
貧乏医学生だ。

ドレスデンから
都会に医者を志して
上京してきた。

生活は困窮を極める。
恥ずかしながら・・・

現在、2121年。
いまから大体100年前ですっけ?

コロナ株の変異種が
世界を席巻していたのは。

それから100年後の
世界だよ。

いくつかの
世界大戦があったけど
そのたび人類は

平和を愛し
正義を尊び

付け焼き刃的に
しのいできた敬意があるね。

ボクが神経外科を志した
理由がそこにある。

戦場で戦う兵士。
たとえばUSマリーンね。

あとは
市街戦での一般市民。

恐怖で精神を崩壊した
人を救う手だてはないか

そんな人たちの
心のケアをしたいという
気持ちからなんだ。

だけど
明日食べていくお金も
ない。

そんななか
ドイツのベンチャー企業である

ディメンションズ社

が世界初のタイムマシーンを
実験段階で成功させたニュースが
世界を駆け回った。

人類初!
まさに人類の夢!

極東のむかしの
アニメーションを見て
着想を得たらしい。

研究所所長は
ハーバー博士。

なんでも
第一次大戦で
毒ガスを開発した
世界的権威の
末裔とか。

その天才的頭脳を
継承して22世紀の
現在、奇跡を行った。

各国から
報道陣、投資家
産業スパイみたいなのも
やって来て

ここミュンヘンは
毎日がお祭り騒ぎだった。

ーーーーーーーーーーーー

そして
ディメンションズ社は
記者会見を始めた。

「有人タイムトラベラー
の公募」だ。

ただし、現在ドイツ在住で
学術研究者が対象である、と。

これには
世界が騒然とした。

とうとう
空想がリアルになるのだ、と。

ここ数十年つづいた
大不況から
脱出できない
世界が沸いた。湧いた。

ーーーーーーーーーーーーー

続きます。


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