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時間旅行者レポートVol.28 note de 小説


午後10:00

本日一回目の会談が始まった。
場所は志摩観光ホテルの
特設ステージ。

今回のこの会談は
エキシビションのものとして
世界に向けてボクと首脳陣との
やり取りが発信される。

まずはフランス大統領。

その次はヤーパンの首相で
China国家主席へ
バトンタッチされる予定だ。

そして最後に雲行きの
怪しいアメリカ大統領と
米報道陣との質疑応答だ。

ボク、というかDimentionz社は
この部屋から移動することがない。

時間に応じてやってくる
首脳陣を出迎える、という
VIP待遇であり
まるで王への謁見だ。

これほどに
DimentionZ社は世界経済どころか
世界を単独で担える位置にいるという
ことだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

午後10時を5分過ぎたころ
マスコミが一斉に退出した。

部屋を縦断する長テーブルに
関係者が一斉に腰掛けて
会談が始まった。

目の前に座るのは
フランス大統領にして
世界の人々のあこがれ

テュラム仏大統領だった。

フランス初のアフリカ系
移民出身の大統領だ。

しかも彼の曾祖父は
ワールドカップフランス大会
の優勝メンバーだ。

100年以上も前の話なので
知らない人も多いのだろう。

1998年大会。
つまりボクが旅行した
98年後のFußballの
祭典での
ディフェンダーだった

リリアン・テュラム
の子孫なのだ。

祖先から受け継いだ持ち前の
闘争本能と知名度で
混乱するフランス社会の
トップに立った人物。

当然に昔ながらの右派の
反発が厳しいとも聞く。

テュラム大統領。

なんでも見透かしてしまいそうな
大きな目。

大きな笑い声と
スラッと伸びた身体が
求心力のすべてを
物語る。

開口一番。
大統領が質問を投げ掛けてきた。

後ろに構える08の
記録をとるタイプの音が
聞こえてくる。


「やぁ、オリバー君だったね。

わが祖国はどうだったかね。
いやぁ、驚きだよ全く!

がっはっはは・・」

大統領が笑うと
フランス代表団も
呼応するかのように
笑いだす。

「はい。
19世紀末のパリに
いって参りました。

パリ万博に
セーヌ川

そして完成まもない
エッフェル塔をみて
感銘を受けました」

とボクは無難に
受け答えをした。

「ふー・・ん。

君がみたパリは
白人の紳士や淑女で
賑わっていただろう。

いまのパリとは
全く違う景色だね。

それについては
どう思うかね?」

「はい・・・
第一次大戦前の平和で
穏やかな世界でした。

現在の世界の土台にある
貧困や差別、そして
その時から継続して起こっている
憎悪、ですね

「パレスティナ問題」
「イスラエル建国」の
起こる前の世界です。

みな、人種を問わず
穏やかにボクは見えました」

「ふむ・・・。

オリバー君の時間旅行の真の
目的はなんだね?」

「砲弾神経症に苦しむ
ドイツの兵士・・・

いえ、全ての・・・

そうですね。
治験が目的です」

「君はまもなく
二回目の時間旅行に
旅立つんだろう?

目的が治験、つまり
症例研究のためだけ
では少し物足りなくは
ないかね?」

来た。
とボクは身構えた。

大統領はボクに
こう言うに違いない。

『歴史を変えたまえ。

そもそも戦争がなかった事に
したまえ』

とか
『国益をドイツが独り占め
するつもりかね?』
と。



しかし大統領から発せられた
言葉は意外なものだった。

ボクは、いやそこに居合わせた
全ての人間が面食らった。


「オリバー君。

いいかね。私の出自は
アフリカ系の移民だ。

いまでこそ祖先に
98年の優勝メンバーが
いるが

君が旅したフランスや
これから地獄が待つ
ヨーロッパに興味はない。

今はイマなのだから、ね。

それよりも、だ。
オリバー君。

歴史を操作せず
ひとりでも多くの将兵

ひとりでも多くの
傷ついた人間の
治療にあたってくれ。

どうせ現在の最新医療を
持っては行けないんだろ?

君は現地で辛い思いをすると思う。
無力を呪うかもしれん。

最悪命を落とすかも、だ。

だが励め!

その中から希望を
見いだせ。

崩壊した兵士の
神経を救う手だては
現場にあるのだ。

それをこの22世紀に
持ち帰れ。

現在も戦乱は続いている。

ひとりでも苦しむ
ひとを救ってほしい

私からのねがいだ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

一瞬の静寂が
ホールを支配した。


そのあと
すっと立ち上がったのは
ボクの後ろでレポートを
作成していた08だった。

「ブラボー!」
を何度も合唱した。

つられて
同席していた全ての
DimentionZ社関係者が
立ち上がり

その後、フランスの
代表団からも割れんばかりの
拍手に包まれた。


さすがだ。
テュラム大統領の
人間をみた。

この小さい医大生のボクは
象をはじめてみた
アリの子供さながらだった。


「まぁ、
おちつきたまえ諸君。

さぁ、話をもとに戻そう。

君、ピカソと話をしたそうだね。
教えてくれないか、そのあたりを
じっくりと」

一転して
巨大な象に見えた大統領は
目をキラキラさせた
子供のようになっていた。

「あ、はい。

会いました。
あれはセーヌ川の・・・」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

つづきます。

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