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月子と太一5

 新緑の香りが漂う日曜日の公園は、案の定家族連れとカップルでごった返し、雲ひとつない晴天の下で、幸福な休日がいくつも観察できた。

 芝生に寝転んで日光浴をする太一の横で、月子は自作のサンドイッチをつまみながら、飽きもせず他人の日曜日を眺めている。

「俺にもちょうだい」

月子が食べていたサンドイッチを横取りし、太一は転がったままそれを口にした。

 自分達も"幸福な休日"の一員なんだなと、月子は心が暖かくなる。太一が側にいる限り、それは延々と続く贅沢だと、他人の幸せを傍観するように静かに思った。

「暇じゃないの?」

月子より何倍も暇そうにしている太一が問いかける。

「太一こそ。」
「俺は暇が好きだからね。」
「アタシも嫌いじゃないよ。」
へぇ、奇遇ですな。と言ったきり、太一はまた日光浴に戻った。

 植物みたい。

月子は、太一を見ていると時々思う事を改めて強く思った。

陽の光をエネルギーにして、人を包み癒す、そんな力が太一にはあった。現に月子はその力に何度も助けられた。
こんなに穏やかに人を好きだと思えることを、月子は俄には信じられないでいた。

 太一に出会うまで月子は、恋とは甘く切なく、それでいて激しく痛々しいものだと信じて疑わなかった。
 
 実際に月子の恋はいつもその通りだった。 

 小学生の時は親友と同じ子を好きになり、競い合って抜け駆けをするのに躍起になり、大喧嘩の末に友情は壊れたし、中学の頃は、フラれた相手の家を毎日見に行き、彼女がいる事を突き止め、髪型やら持ち物やら、何から何まで好きな男の彼女の真似をして、本気で嫌われたりもした。
 
高校に入り、生まれて初めて彼氏ができると、1人の男を独占できる優越感は、月子の恋に拍車をかけるのに充分な原動力になった。
 
 ヤリたい、と言われればどこででも制服を脱ぎ、帰らないでと言われれば親に怒鳴られても外泊をした。
学校で"自分の男"が他の女と話すのを見てヤキモチを妬いては泣き、最近好きって言ってくれないと言っては泣き、ウザがられた挙句「重い」とフラれ、ヤケクソでナンパされた男と成り行きで寝て、その男を本気で好きになり、付き合ってとしつこく迫ったりもした。

 一時が万事そんな調子で恋をしてきた月子にとって、太一との恋は異質だった。

「夜は焼き鳥でも食いに行こう」

目を閉じたまま、仰向けの太一が幸福そうに言った。

きっと大好きな鶏軟骨のつくねの事を思い出してるのだ、とわかった瞬間、月子も思いがけず幸せな気持ちになった。

この退屈によく似た幸福がずっと続くなら、ロマンチックじゃないことなんて取るに足らない事のようにさえ感じた。

「たまには高級フレンチの店を予約してるんだ、くらい言ってよね。」

太一の隣にごろんと横になり、大好きなレバ串の味を思い出しながら、月子も日光浴に参加した。


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