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【インタビュー】吉村直美ピアノ Music and Travel #6 (2023.2.25)

2020年12月から「音楽と旅」と題したピアニスト吉村直美さんのコンサートシリーズが新たな境地を迎えます。そんな吉村さんにインタビューをさせていただきました。

2/25(土)のコンサートではベートーヴェンのソナタ第30番とショパンのスケルツォ第2番がすでに予告されています。吉村さんのプログラムではベートーヴェンの中期のソナタが定期的に取り入れられていましたが、いよいよ後期の第30番を取り上げます。思い入れ、心境などを教えてください!

ベートーヴェンの後期のソナタは、以前から私にとって癒しの特効薬のような作品で、心が疲れたときには、巨匠と呼ばれるピアニストの録音を頻繁に聞いていました。はじめてソナタ30番を深く知ったのは、ドイツに留学していた時でした。大学で受けなければならなかった授業に「音楽学」というのがあり、ベートーヴェンの作品を一すが、譜面から人間の成長を感じ取る分析を通じて、ベートーヴェンの偉大さに気づかされ衝撃を受けました。そのため、演奏することへの憧れはありましたが、気高すぎて近寄れないという思いが先行し、これまでの演奏会で取り上げることはありませんでした。

まず一連の32曲のソナタを俯瞰的に見渡していくなかで、30番に迫っていったわけですね。

はい。それから、かなりの月日を経て楽譜を目にしたとき、憧れから共感に変わった部分が多くあり、演奏してみようという思いが強まりました。不思議なもので、共感が増えれば畏敬の念も比例して増しており、簡単には到達できないベートーヴェンの不屈の精神を感じたりもします。演奏を思い立った同じ時期に、「吉村直美の演奏でベートーヴェン後期のソナタを聞いてみたい」というお声を、恐縮ながらも何人もの方からいただくようになり、思い切って舞台で取り上げる決意をしました。

普段、どのような思いで曲をとり上げるのかといったことに聴き手はあまり興味を払わないと思いますが、興味深いお話を伺えました。
後期ソナタに特別な "何か" があるのは今のお話で伝わってきました。ではずばりこの曲の魅力を教えてください。

ベートーヴェンの中期は、年齢に照らし合わせると30代となり、苦難に悶えながら勢いで運命に戦うイメージもありますが、後期は40代から生涯を終える50代半ばまでに相当し、作品からは人生の集大成というような印象も受けます。そして、後期は、ナポレオン戦争が終わる時代にあたり、芸術全般においては感受性に主観を置くロマン主義が強く影響を受け、ベートーヴェン自身の作品からも神秘主義・夢などを題材とし、これまでの個人的な過去や感情を暴露するような印象を受けます。

30番のソナタでは、ロマン主義からの影響を受けた憧れの表現というよりは、実際に天国を垣間見たのではないかと思う箇所が多くみられます。もし、憧れがあったとすれば、その天国へ行ってみたいという思いだったかもしれません。そう思わせるほど、癒される旋律が多く出てきます。難聴からの回復の兆しが見えないのにも関わらず、どうしてこんな美しい旋律が、と1楽章で感じさせるかと思いきや、2楽章では突然現実の辛さに戻り運命への嘆きや戦いを挑んだり。3楽章では、劇的な葛藤の後にも関わらず、芸術を通して垣間見た天国への歓喜すら感じさせます。

「辛く悩む者は、自分のように惨めに戦った芸術家を思い出してほしい。慰めらるだろう」

そのような言葉を残したベートーヴェン。この作品で証明してくれているのを、耳と心で感じていただけるのではないかと思います。

"音楽と旅 #5" 2022.10.01 より

ショパンも吉村さんの美感が伝わる特別な作曲家のように思います。スケルツォ2番は感情の起伏が激しいさと、ロマン性が交錯します。この曲についても聴きどころを教えてください。

スケルツォ2番の冒頭は、人生に対する問い、そして、運命としての答えの織りなしとも言えます。理解し得ないことに対する不気味な問いと、叩きつけられるような答えは、自らの問いと運命に重ね合わせるように登場します。その人生の問いに至るまでの美しい思い出や、希望に対する高揚感、不安や絶望が、自らに言い聞かせているような構成となっており、壮絶な葛藤の後の終幕は勝利で閉じます。ショパンの人生を音から感じとってみようという思いで聞いてみると、より共感と感動が増すかと思います、

ショパンの生涯に強く影響を及ぼした2人の女性が登場しているとも言われています。1人はマリアという名の女性との婚約破棄、そして、もう1人はその後恋人となった詩人ジョルジュ・サンド。ショパンにとっても、予測のつかない激動の出来事が、音楽的成熟をもたらした作品とも言えるかもしれません。

10分ほどの曲にそのような凝縮されたドラマがあり、それを吉村さんがどのように演奏されるか、楽しみです。
ところで、このコンサートに合わせて、新しいCDがリリースされます。CDのタイトルになっている「Sign」にはどのような意味が込められているのでしょうか?

「Sign」とは、「兆し」を指します。作曲家達が苦難の最中にも見出した光は、必ずしも各々の現状から来るものではなく、音楽芸術の中に現れた感情を音に託したものだと思います。新しいCDでは、その「兆し」を感じさせるエピソードが伴う作品による構成を意識しました。今回は、私自身の創作曲も含まれていており、偉大な作曲家の中に混ぜることを躊躇したりもしましたが、とある「Sign」を感じていただければと願っていたところ、プロデューサーのお許しもいただき、載せさせていただくこととなりました。是非、お聴きいただければ幸いです。

このCDの聴き所を教えてください!

ベートーヴェンのテンペスト、ホルストのジュピターは先にも触れましたが、タイトルとなっている「Sign」の前向きな力強さを特に感じさせられる作品ですので、優先してお聞きいただくことをお勧めいたします!(自らの言葉でも言うのも変な感じですが笑)そして、先にも触れましたが、創作曲「さくら」では、日本の伝統の美しさが受け継がれる願いを込めて即興演奏した曲でもありますので、何かを感じ取っていただければと願います。

このたび、デザインには拘りが施されており、CDを購入して手に取っていただいた方々のみが実感いただけるちょっとしたサプライズもあります。是非、楽しみにしていただければと思います。

この場をお借りして、制作元の一般社団法人サポートミュージックソサィエティ(SMS)、CD制作企画にお声がけいただきました有限会社オフィス・モデルン、その他、携わっていただいたスタッフの方々のご協力に心より感謝いたします。

第6回目 "音楽と旅" は集大成の発表と新たな出発のコンサートになりそうですね。最後に皆様にメッセージをお願いします!

皆さまの温かいご声援とご支援のおかげにより、「音楽と旅」シリーズコンサートが継続されCDリリースにまで至れたことに、心より感謝申し上げます。当日は、これまでにない形式のコンサートが予定されております。温かい雰囲気の中で演奏をお楽しみいただければと願っております。皆さまのご来場を心よりお待ちいたしております。


吉村直美 ピアノリサイタル【音楽と旅 #6】〜希望の兆し〜

2023年02月25日(土)14:30開演(14:00開場)

紀尾井町サロンホール
東京都千代田区紀尾井町3-29紀尾井町 アークビル1F /  TEL 03-6272-4711
(東京メトロ南北線「永田町」9A・9B出口から徒歩約4分)

5,000円(当日窓口 / 全席自由)
4,000円(事前購入 / 全席自由)※前日まで

販売サイト https://pianorecital.peatix.com

事前購入に関するお問い合わせ
オフィス・クララ・クライス
clara.music.society@gmail.com

後援
一般社団法人サポート ミュージック ソサィエティ(SMS)
有限会社オフィス・モデルン(Concertport)

   

※ 感染症拡大防止のため、会場内にて密集を避けた座席配置、ならびに、消毒対策等を取らせていただきます。何とぞ、ご理解賜りますようお願い申し上げます。


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