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【インタビュー】下川れいこ&丹沢広樹  12/25のコンサートに込めた想い

2022年12月25日、東京の汐留ホールでピアニスト下川れいこさんとヴァイオリニスト丹沢広樹さんによる素敵なコンサートが開催されます!お二人にインタビューをさせていただきました。

まず、プログラムの多彩さが目を引きます!作曲家の国籍、時代背景など様々です。 選曲の狙いや込められた想いなどを教えてください。

丹沢 はい。疫病や戦争といった人類の歴史の負の部分ばかりが目につく昨今だからこそ、人類共通の財産である暦の喜びや、自然への崇敬を込めて描かれた作品をお愉しみ頂ければと思い、選曲しました。

下川 今回、古楽からタンゴまで幅広くご活躍のヴァイオリニスト、丹沢広樹さんとの共演が実現できました。最初はゲスト出演でモーツァルト等の古典派作品のみ演奏頂くつもりでしたが、丹沢さんから四季の名作を演奏するとても興味深い企画を提案して頂きました。ベートーヴェンの「春」から、ピアソラのブエノスアイレスの「夏・冬」、ヴィヴァルディの「秋」と、多彩な曲目でお届けできることになりとても嬉しいです。

まさに「いまこそ、聴いてもらいたい」という、お二人の熱い想いが込められているのですね!

下川 丹沢さんとはリハーサルを5月から開始しました。二人で音楽的に納得いくところまで追求しています!

下川さんにとっては前回(2022年10月)のベートーヴェンのチェロソナタ第5番に続く、大作の演奏になりますが、ベートーヴェンを集中的に取り上げている背景は何でしょうか?

下川
 実は、ベートーヴェンを取り上げることを事前に計画していた訳ではありませんでした。2019年にベートーヴェンピアノ協奏曲第5番「皇帝」をオーケストラと共演、CD『古楽アンサンブルとモダンピアノの響演』で皇帝の室内楽版を演奏する機会を皮切りに、2020年から毎年ベートーヴェンチェロソナタ2,3,5番をチェリスト山本徹さんと共演させて頂きました。今回のベートーヴェンの「春」は、丹沢さんにご提案頂きました。丹沢さんならではの豊かな遊び心のある表現を楽しみにしています!
ベートーヴェンの独自の表現法は慣れてきましたが、後期の作品等、まだまだ奥深いなと感じます。今後は、ベートーヴェンの歌曲にも挑戦したいと思います。

ヴァイオリンソナタ「春」はベートーヴェンの作品においてどのような位置づけの作品でしょうか?

丹沢 この曲はモーツァルトやハイドンに続くウィーン古典派として18世紀末を生きたベートーヴェンの、初期〜中期にかけての最大の傑作といえます。この曲を書いたとされる1801年、20代後半のベートーヴェンはウィーンの楽壇でも抜きん出たピアニスト、作曲家として人気を集めていました。しかし難聴に冒され始め、1802年には有名な遺書を残しています。苦悩の最中に書かれたこの明朗快活なソナタは、まさに彼の人格の中でも最も好まれた側面が存分に与えられていると思います。

ベートーヴェンといえば、「粗暴にして神経質な潔癖症、人生に60回の引っ越しを繰り返し、コーヒー豆は必ず60粒の豆を毎日数える」という類の、付き合いづらい人柄で語られます。しかしその一方でウィーンの森を散歩することを愛し、政治思想も自由主義的立場を憚る事なく表明した、なによりも随分とプレイボーイとして鳴らした記録も多い彼の奔放な人間らしい魅力が詰まった一曲と言えます。

私感(解釈)ですが、1楽章は「自然の美しさと畏怖の念」を、2楽章は作者本人の「ロマンス」100%、3楽章はベートーヴェンなりの「小洒落た間奏曲」、4楽章は「自然と万物に対する最大の敬意」を楽譜から読み取ることが出来ます。

そのエピソードを伺えただけでも、ベートーヴェンがとても近しい存在のように感じられてきました!
さて一方で、アルゼンチンタンゴの巨匠ピアソラの音楽の魅力も伺えますか?


丹沢 アルゼンチンの伝統的な舞踏に過ぎなかったタンゴを、一級品の「タンゴ音楽」に昇華させたアストール・ピアソラの最大の魅力、それは庶民や最下層の人心を描いた作品群に表れる情感ではないでしょうか。今回は名曲、「ブエノスアイレスの夏、冬」を2人(オリジナルは五重奏曲)で挑戦しますが、ピアノという楽器のダイナミズムと打楽器としてのキレの良さを最大限に引き出しつつ、タンゴヴァイオリンの妙技もお愉しみ頂けると思います。

もし、ヴィヴァルディがピアソラの四季を聴いたらどんな反応すると思いますか?何か共通する音楽的アプローチがあるものなのでしょうか?

丹沢 2人の共通点といえば、小さな編成で大きな表現を生み出す類い稀な作曲技法を持っている点でしょう。そこには250年のタイムラグが御座いますが、ヴィヴァルディは帰宅と共にタンゴ風の新曲を書き始めると思います!

お二人は初めての共演ということですが、初めて音を合わせたときの印象はいかがでしたか?

丹沢
 なかなか言いづらいのですが、女性ピアニストの繊細さと裏腹に、弱々しさとは無縁な雄弁な打鍵の持ち主だと。(笑)

下川 ありがとうございます!出会いのきっかけは、フォルテピアノ・チェンバロ奏者でバロックダンス舞踏家の村井頌子先生による昨年(2021年)の通奏低音講座でした。ゲスト奏者として来られた丹沢さんは、バロック時代初期にヴェネツィアで活躍したイタリアの作曲家ダリオ・カステッロについて、当時の情景が浮かぶような熱心なご説明と情熱をもって演奏されていました。その姿勢に惹き込まれて、共演をお願いすることにしました。

最後に来場される方へのメッセージをお願いします!

丹沢 洋の東西を越えて様々な四季の名曲を二つの楽器だけでお贈りする、さながらのサロンコンサートをお贈りします。どうぞお気軽にお越し下さい!

下川 パイレーツオブカリビアンの海賊、ジョニー・デップを彷彿とさせる自由で奔放な表現をお持ちのヴァイオリニスト、丹沢広樹さんと私のコラボを存分にお楽しみ頂けると嬉しいです。当日は、クリスマスのサプライズの曲を用意しています!皆様のご来場を心よりお待ちしています!


▼チケット販売サイト
https://t.livepocket.jp/e/gvhyj

ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ第5番「春」
ショパン/リスト編曲「春」
ピアソラ ブエノスアイレスの夏
ヴィヴァルディ 協奏曲第3番ヘ長調 四季より「秋」
ピアソラ ブエノスアイレスの冬 他


▼丹沢広樹 (弦楽器奏者)TANZAWA Hiroki
2000年より国内外で演奏、研鑚を積む。08年「Cembalism‼︎」の録音に参加、翌年NHK‐FMに収録曲で生出演。同年「Sonar Cantando」での公演が月刊『音楽の友』誌にて「国内の年間コンサートベスト10」に選出、2010,12年伊ブレーシャ国際音楽祭に招聘され演奏。12年よりピアソラ5重奏団を複数主宰。13年から鍵盤奏者の杉本周介と八ヶ岳を拠点に古楽プロジェクトを続ける。19年、宗教大作『Membra Jesu Nostri』をAOIで手掛ける。ジャンルを問わずレコーディング、公演に参加しつつ、クラシック音楽史500年を弦楽器奏者の目線で紐解く包括的プロジェクト「Vi-ba」を進行中。

▼下川れいこ (ピアノ)SHIMOKAWA Reiko, Piano
2002年第8回カナダパシフィックピアノコンクール第2位。2000年度ヤマハ音楽支援制度受賞。 英国王立音楽大学ピアノ科 (B.Mus.) 、カナダヴィクトリア大学 (M.Mus.) 、UBC大学演奏ディプロマ課程等を修了。ピアノをロ―ナン・マギル、斎藤雅広、チェンバロを岩田耕作、中川岳、 平井み帆、廣澤麻美、村井頌子他の諸氏に師事。国内外のオーケストラと共演し動画配信中。 タンゴの熱気を伝えるピアニスト (雑誌ショパン2016年6月) と評される。

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