第1回新しい自治体財政を考える研究会1/4:自治体の皆さんが抱える「予算編成」の悩みを分析しました

はじめまして。

このたび「新しい自治体財政を考える研究会」の公式noteを立ち上げることになりました。

「新しい自治体財政を考える研究会」(以下、「研究会」とします)は自治体財政や予算編成に関する課題をより深く共有し、職員相互で対話することで、新しい自治体財政のあり方やその実現の道筋を見出すことを目的に2021.6に発足しました。

この公式noteでは、研究会事務局が自治体の財政課職員の方々と一緒に考えている「予算編成のあり方」や自治体が抱えている課題や悩みを発信し、多くの皆さんと共に“自治体財政のこれから”を考えていきたいと思います。

初投稿の今回は2021.7.29開催の第1回研究会で報告した、予算編成に関するアンケートの集計・分析結果を紹介します。

当日は、アンケートに答えていただいた自治体の財政課職員の皆さんに ご参加いただきました。
アンケートの集計・分析結果の報告の他にも財政改革の中心で活躍されている福岡市役所の今村寛さん、横浜市役所の安住秀子さんにご登壇いただき「枠予算」や「財政の見える化」についてお話いただいたり、今村さんと安住さん、参加者の皆さんでの意見交換や質疑応答も行っています。
次回以降、今村さんや安住さんのお話、参加者の皆さんから寄せられた質問なども紹介していきます。

1.アンケートの実施

第1回研究会の開催に先立ち、自治体運営の中枢である「予算編成」が抱える課題を可視化するため、全国の中核市以上の財政課を対象に予算編成に関するアンケートを実施し、315自治体から回答をいただきました。(ご協力いただいた自治体の皆様、ありがとうございました!)

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※ここから研究会当日の内容です。
今回の記事の発言者は全て事務局です。
研究会の雰囲気も感じていただきたいので、可能な限り当日の発言のまま紹介します。

2.アンケートの単純集計~枠か、一件査定か

今回、財政課の皆様にこのようなアンケートを送りました。

アンケート①


アンケート②

1つ目は、事務事業の帳票管理について。
要求前から、執行管理、決算、事業評価に至るまで、どういうシステムを使っているか、エクセルを使っているか。
政策経費、経常経費いずれもやっているかという、帳票管理の実態を聞き、枠なのか一件査定なのか、どのようにやっているか、優先順位付けなど、具体的にどんなことをやっているかの3部構成になっています。
質問数が多いので、本日は掻い摘んでお話しします。
まず、単純集計です。
予算編成における課題、枠配分予算の実施状況についてです。
思ったとおり、予算編成に皆さん大変苦しんでおられます。
特に、事業の縮小・廃止について。
ビルド&スクラップが大変難しい。
財源確保ができない。
歳入がどんどん減っている中で、経常経費は毎年どんどん膨らんでいく。
20年前は80パーセントだった経常経費が、今では99パーセントになっている状況です。
査定方法別の実施状況ですが、57パーセントは一件査定をやっている。
枠配分も政策的経費は別枠で要求するところもあります。
政策的経費、経常的経費の両方とも包括的に全件で枠配分するというところもありました。
ただ、特徴として、要求額がキャップに収まるか否かにかかわらず、結局、枠配分の後、一件査定になってしまうという声が大半でした。
これが今日のお題になると思います。

3.帳票の管理方法~Excel?システム?

アンケート2


アンケート3

これは、事務事業の帳票管理のしかたについて、予算要求前から事務事業評価に至るまで、有効回答のみを抽出してパーセンテージを記載しています。
要求前のサマーレビューに向けての帳票を企画や財政に提出するものです。
だいたいはエクセルでやっています。
ただ、予算要求の前は、そもそも帳票管理しないというのも40パーセント程度あります。
残りの60パーセントは、サマーレビューのために政策的経費はエクセルなどを使って先に出しています。
この段階からシステムを使って管理しているところもありました。
ただ、概ね政策的経費を対象にやっていて、経常的経費は稀です。
予算要求は、基本的には財務会計システムのモジュールに入れていくところが大半です。
特に、事務事業では管理せず、款項目節でいきなり要求するところも見られます。
執行管理についても、基本的にはシステムですが、一部、予算管理でも執行管理でもエクセルを使っているところがあります。
これは、大きい自治体に顕著だったように感じます。
決算管理についても、財務会計システムが中心ですが、事務事業評価になるとシステムの利用率は非常に下がり、エクセルになります。
要求前と事務事業評価がエクセルになるので、情報が繋がらない部分があると思われます。
全ての段階を全てシステムでやっている団体は3パーセントです。
10自治体くらいです。
一気通貫で帳票管理をしていくことで、財政の見える化ができます。
(実はここはとても重要なポイントです。「一気通貫した帳票管理」「情報整理の粒度・軸の統一」「一定した情報管理ができる仕組み」について今後の研究会で議論していきたいですね)

4.査定方法~キャップのかけ方は?

次に、政策的経費と経常的経費の査定の方法についてです。

アンケート1

アンケート4

キャップのかけ方は、全件の予算に前年度比何パーセントの削減をかけているところよりも、経常経費の一部の予算区分に対して削減キャップをかけるところが多いです。
キャップに収まるか否かに関係なく、全件の査定を行ってしまうところが大半であることが分かります。

5.優先順位付け~首長、原課、計画の3点セット

次に、優先順位付けです。

アンケート5

重要な観点は、首長の意向、原課の意向、計画への記載の3点セットです。

6.クロス集計~1人当たりのマネジメント事業数がキーかもしれない

続いて、クロス集計です。
今回、回答のあった316自治体の経常収支比率について、総務省が行った2011年から2018年までの統計調査の結果を分析したものがこちらです。

アンケート6

枠配分予算を取り入れると、経常収支比率が改善に向かうか否かの仮説ですが、結論としては、査定手法の違いで改善に大きな違いは見られませんでした。
むしろ、経常収支比率を維持しているところは、一件査定の作業率の方が高かったというのが現状です。
また、改善が進むにつれ一件査定が増えるようになっているので、原課のモチベーションを保つことは別問題ですが、財政収支を改善する観点だけの話であれば、一件査定は結果が出ると言えます。

アンケート7

優先順位付けをする担当者がどのくらいの事業数でマネジメントをしているか。
課長や査定担当1人当たり、11から30事業くらいのところは、全件査定をあまりしなくなる。
一方、1人で100とか400の査定事業を抱えているところは、その後結局、財政課がめくりに行く(※)パーセンテージが高まっています。
1人当たりのマネジメント事業数が、平均して11から30程度であれば、もしかすると枠配分が機能し、財政課がその後全件査定することが減るかもしれない。
枠配分にすることに苦しんでいる人が多いですが、1人当たりのマネジメント事業数がキーになる可能性がありますので、注目すると良いかと思います。
あと、首長の意向や一件査定が大事だという意見もありました。
関東地方の人口20万人程度の某市など革新的な自治体は一件査定にこだわっていました。
財政課による一件査定のたてつけを利用して、首長意向を強力に反映させる効果があるのか、という仮説を立てましたが、見事に外れました。
関係ないです。
首調意向に対する注力度と、一件査定・枠配分の手法に明確な相関はなかったです。
首長のリーダーシップのために一件査定を行うことではない、というのが一つの発見でした。

(※)「一件査定する」の意


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ありがとうございます!