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定期異動という強制力

介護コンサル会社で勤務していた前職。
クライアントの施設担当として役所に行き、介護保険課の担当と変更届等申請書類や保険の解釈の質問をすることが多かった。
よく出入りしていた役所である時介護保険課の担当と話をしている私に、課長がわざわざ挨拶をしに来てくれた。
「しみずさん、私この3月末で異動になりまして建築の部署に変わります。今までお世話になりました」
この課長さん、介護保険の事をいろいろ教えてくれた。
また、私が話す現場のリアルの話を興味深く聴いてくれた。
「そうなんですね、寂しくなりますね。残念です」
「いやあ、公務員なのでしょうがないです」
担当課長が変わってしまうとまた関係を1から作らないので自分がめんどくさいな、また、担当課長もせっかく介護保険の知識が増えてきたのにもったいない、と思っていた。

別のクライアントでは社長と共に定期的に銀行の担当者との面談に同席することがあった。
介護保険部門に関して社長に代わり、私が説明することも多かった。
2、3年して慣れてきたときに
「社長、しみずさん、私4月から東京の支店に行くことになりました、今までお世話になりました」
「栄転ですかね、おめでとうございます」
寂しくなるな、このやり取りがなくなるのは。
新しい担当者どんな人になるのだろう。そんな思いだった。

以前、ある大手商社に勤めている友人と食事をした。
「今なにをやっているの?」
「今はカナダとオーストラリアで小麦を仕入れて日本のメーカーに売る、みたいなことをやっているよ」
「前はカンボジアでなんかやっていなかったっけ?」
「ああ、学校の建設ね。あれは半年前に後任に引き継いだよ」

公務員や銀行、大企業は定期的に異動がある。
「定期的に」、という所がポイント。
業績の善し悪しに関係なく定期的にやってくる。

一方中小企業はどうだろう。
新たに新規事業を立ち上げる、出店を進めるといったポジティブな異動もあれば、人が辞めたのでしょうがなく異動、このパターンが一番多いだろう。
しかし中小企業の場合、最も多いのはずっと同じ役割で居続ける、これが一番多いのではないか。

大企業と異なり、属人化させながら業績を上げていく。
マニュアルやノウハウが蓄積されているわけではないので、がむしゃらに学び、働き続けた結果、業績を上げる過程は物凄く成長する。

数年して結果が出る。
その結果は人に帰属しているので異動させてしまうと数字が下がってしまうことがあるので社長も簡単には異動判断が出来ない。
当事者もそのポジションの居心地が良くなり、年数を重ねるうちにチャレンジスピリットが薄れていく。

大きな会社に入って定年まで勤めあげるというのが美徳となっていた日本において、定期異動という強制力は日本人ならではの文化かもしれない。

社長の指示だから、ではなく、当事者も自分が選んだから、でもなく、制度だからしょうがないよね、という何とも見事な仕組み。

少しずつ自己選択や自己決定の元、中小企業に転職したり、ベンチャーを立ち上げたりする人も増えてきた。

しかし、皆さん、大企業のように定期的に異動はないぞ。
もう一度挑戦者になり自分を奮い立たせることを自分で決めないと動けないぞ。

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