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インタビュー: これからの学びは、もっと自由に、もっと楽しく ~ 福岡大学工学部 松隈洋介先生

一年ぶりに福岡大学工学部 化学システム工学科 松隈 洋介 教授の研究室におじゃましました!
お仕事が終われば大学から飛び出し、親子ロケット教室をひらいたり、フリースクールで遊んだり(ときどき授業)、さらにはダンスやお料理を習ったりもする、ちょっと不思議な先生です。
この一年の盛りだくさんのニュースをうかがってきました。

聞き手: イノウエ エミ(2022年9月取材)

◆ ロケット教室、始めました

―――ロケット教室、大好評ですね。動画を拝見してびっくりしました。一瞬であんなにまっすぐに高く飛ぶんですね。そしてちゃんと降りてくる。

よく飛ぶでしょう。時速200 kmで高度40mまで上がります。これくらい(5cmほど)の小さな火薬なんですけどね。子どもにも質問されることがありますが、これ、どういう仕組みで上空でパラシュートがひらくかわかりますか?

―――そういわれれば不思議です。どうなっているのでしょう?

実は、この中には二種類の火薬が入っているんですね。こちらを下にして挿し、火がつくと、まず推進用の火薬が燃えて機体を上まで送り届けます。それが燃え尽きると、今度はガスを放出する火薬に火がついて、機体の内圧が高まるんですよ。

―――なるほど、機体の中にガスがたまって、押し出されることでパカッとパラシュートが出てくるんですね。

―――機体、軽いですね! 本当に紙でできているんですね。植松電機さんのキットを使って?

はい。高学年の子なら1時間ほどで作れます。親御さんより子どもさんのほうが素早く上手に作ることもしばしばです。普通の木工用ボンドで貼り合わせるんですが、大人の方はたいてい、ひとつひとつきっちりやろうとするんですね。それに比べ、子どもはパッと貼って、ダメだと思ったらベリッと剥がして、どんどん作っていきます。

―――子どもは気軽にトライ&エラーするんですね。

間違って貼ったものを剥がそうと、3歳くらいの妹の手を借りて筒の中を探らせている子もいました。自分の手は大きくて入らなかったんですね(笑)。子どもの発想っておもしろいです。


◆ それぞれが得意なこと、やりたいことをやって楽しむ

―――先生もロケット教室を楽しんでいますか?

もちろん! ロケットが打ち上がるのを見るのは楽しいし、みなさんの笑顔を見るとうれしいです。
最初は遠慮がちだった子がだんだん距離を詰めてきたり、「手伝おうか?」と言ってくれたり‥‥いろんなリアクションがあります。
先日は50名ほどのご家族が参加されました。すべての発射が成功したのはボランティアスタッフのみなさんのおかげです。

―――大変なこともあるのでは?

特に大変なことはありませんが、安全面にはもちろん気を付けています。
それから、「いろんな子がいる」という認識でお迎えすること。はしゃいで走り回る子もいれば、隅のほうでじっとしている子もいる。子どもってそういうものですよね。作りたくなくなったら、途中で部屋から出て行ってもいいんです。

―――福大だけでなく、新宮町や雲仙でもロケットを打ち上げられました。

「うちでもやりませんか?」と声をかけていただいたので、ホイホイ行ってきました(笑)。企画や広報が得意な方、ものづくりのプロ、カメラマンなど、いろんな人がそれぞれ得意なことを持ち寄って開催している感じですね。みなさんすごいです。

自作の発射装置、通称「ドクロスイッチ」。ヤッターマンを彷彿とさせます(笑)


―――夏休みには、ロケット教室の生みの親とでもいうべき
植松電機さんの本社(北海道赤平市)にも赴かれたとか。『下町ロケット』のモデルにもなった会社ですね。

はい。広い敷地内を隅々まで案内していただき、すごい設備や装置の数々にわくわくしました。たとえば、無重力実験ができる「落下塔」まで自社で作られているんですよ。国内唯一の設備なので、JAXAを始め、さまざまな大学の研究者がそこで最先端の研究をするそうです。

ロケット教室のパートナー講習会にも参加して、無事に ” ロケットマイスター ” の称号をいただきましたので、今後も植松社長の理念を子どもたちに伝えながら、ロケットを打ち上げようと思います。


◆ 酔いどれクッキング、進化中!

―――半年ほど前から、急にお料理を始められたようですが‥‥?

今さらながら「宅飲みのおつまみを自作したら節約になるな」と気づき、ネギを焼いてみたのがきっかけです。人生50何年目かの小さな一歩ですが、私にとっては偉大な飛躍でした(笑)。

―――SNSで拝見していると、焼きネギのあと、大根ステーキ、ピリ辛もやしなどのおつまみメニューにとどまらず、チャーシューを手作りして魚を煮付けて‥‥なかなかのスピードでレベルアップされましたよね?

ええ。ちょうど妻が実家に帰省するタイミングがあり、「酔いどれクッキング強化週間」と名付けて加速しました(笑)。

―――お仕事柄なのか、実験のような雰囲気も漂っていて。

あ~、そうですね。手順や分量を厳密に守るくせがついていますので、レシピに「お砂糖大さじ1杯」とあれば、大さじをもってきて、きっちりすりきって作ります(笑)。
料理はサイエンスですね。切り方ひとつ、調味料を入れる順番ひとつとっても意味があり、理にかなっているのでおもしろいです。

―――ずばり、お味のほうはいかがでしょうか?

自分では美味しいつもり(笑)。天然塩が味付けの決め手なんですよ。甘く感じるほど旨味があるお塩です。

―――奥様のご反応も気になります。これまで台所は奥様の領域だったわけで‥‥

ええ、なので、ルールを守るよう気を付けています、はい。
いつからか週末の晩ごはんにも昇格しました。私が買った料理本から、妻が食べたいものをリクエストするシステムです。

リクエスト第一弾:新じゃがを使った塩肉じゃが


◆ 【BTS】Permission to Dance踊ってみた【大学教授】

―――BTSのダンスチャレンジ動画はインパクト大でした!

通っているジムで、1時間×4回で『Permission To Dance』をマスターするという特別レッスンがあり、無謀にも挑戦してみました。

―――すごく良かったです! 若い女性やダンスのコーチに交じって、初心者の先生が奮闘してらして‥‥。曲のテーマ通り、まさに「ダンスの許可はいらない」の体現でした。 

ありがとうございます。5人でフォーメーションのチェンジまで完全コピーするので、必死でした。自分の研究室でこっそり練習しているところに急に学生が入ってきて、怪訝な顔をされたことも‥‥(笑)。

先生のダンスチャレンジ動画、ご本人に頼んで見せてもらってくださいね。
衣装も本家に寄せてパフォーマンスされています!


―――ほかにも、お味噌やザワークラウトの作り方を習ったり。

好奇心で習ってみましたが、とてもおもしろかったです。

――― 一般的には、年齢を重ねるごとにフットワークが重くなるように思いますが、先生は軽やかです。

言われてみれば、フットワークは昔より軽くなったかもしれません。4年ほど前からジムに通い始めたんですが、思いきりジャンプしているうちに、だんだん高く跳べるようになってきたんですよ、この年で。

―――物理的に体が軽くなったんですね(笑)。

感覚的にも同じことが起きているような気がします。日々すてきな人と会って楽しんでいると、なんだかいろんなものがおもしろそうに見えてくるといいますか‥‥。
実際、脳細胞って、いくつになっても鍛えると増えることが判明しているそうですよ。

―――なるほど、納得です! 体のあちこちが鍛えられ、研ぎ澄まされていっているのですね。

ザワークラウト作り。「54年で切ったキャベツの総量を1日で超えました」


◆ Matsukuma通信 2021~22

先生の1年間にはニュースがたくさん。ピックアップしてご紹介します!

☆ 福岡大学応援指導部吹奏楽団の副部長に

「定期演奏会を聴きにいったところ、部長(同じく化学システム工学科の先生)とばったり遭遇。中高大と私がホルンを吹いていたことがバレて(笑)、その場で副部長就任が決まりました」

「コロナで十分な練習ができない中でもがんばり続けている部員のみなさんが、すべての力を発揮できるよう支えていきたいと思っています」

☆ 『はじめまして』シリーズで小学生に理科の楽しさを知ってもらう

「宇宙のこと、人体のこと、量子力学や相対性理論‥‥みなさんに聞いていただきながら、難しい内容をわかりやすく伝える力を磨いています」

「たとえばゲームをしながら聞いている子も、どこかでこちらを意識しているらしく、何かの拍子で顔を上げてくれるんですよね。「そこが刺さるのか」とびっくりしたり、狙ったところはスベったりして、とても勉強になります(笑)」

◆ これからの学びは「放置」で?!

小学生×大学生=???

―――昨年のインタビューで、「これからの時代、教える側が変わらなければ」というお話がありました。

キーワードのひとつは「放置」かもしれません。

―――えっ、教えずに‥‥?

教授の知識をえらそうに教え授ける時代は終わりました。検索すればいくらでも出てきますから‥‥。
卒業研究でも「最後はなんとかして卒業させたるから、好きにやって」とほったらかしたりします。そうすると、自分たちでうんうん唸りながらいろ考えて、調べたり質問したりしてくれるので。

――― 一から十まで教えるのではなく、待つのですね。忍耐も必要かと思いますが。

一見、非効率のようですが、とてもおもしろいですよ。
昨年度は、大学院生向けの授業で、4~5人のグループごとに専門用語の意味をプレゼンしてもらいました。審査員は小学生です。フリースクールの子どもたちを呼んできて、わかったかどうかその場で採点してもらう。「マッケーブシール法」、「気液二相流」など、お題は本格的ですよ。

―――えー! 難易度が高すぎませんか?

それが、全グループに100点をあげたいくらいすばらしいプレゼンだったんです。動画を作ったり、小道具を用意したり、たくさん工夫してくれました。質問もたくさん出て、盛り上がりました。

―――遠回りをしているようで、深い学びになるんですね。

「こういう教え方があるのか」と私も勉強させてもらいました(笑)。
それに、大学生と小学生って、なんだかすごく相性がいいんです。きょうだいではないけれど親や先生でもない、大きめのお兄さんお姉さんという感じ? 大学生も小学生がかわいいようです。

―――なるほど! おもしろいケミストリーが生まれる組み合わせなんですね。

◆ 学びも遊びもボーダーレス

研究室もカラフルでポップ!

―――学生さん向けでも子ども向けでも、先生の教室は楽しそうです。

逆にいうと、勉強が楽しくないのは、やりたくないことをさせられているからなんですよね。かつて私もそうだったからよくわかります。大学も危うく留年するところでした。
4年生になって、卒業研究を始めると楽しくなった。基本的に自分の好きなようにできたからです。

―――教わる側としても楽しんでいる姿が印象的です。料理、ダンス、味噌づくり‥‥初心者として、年下の方に教わることに抵抗はありませんか?

まったくありません。興味のあることは年齢に関係なく楽しめますよね。

―――確かに、年齢を気にしていたら、20代の人たちと一緒にBTSのダンスチャレンジはできませんね‥‥(笑)。

ジムでも、20代の方から年上の方までいろんな人とあいさつをしするし、お友だちになっています。
あるとき、「誰かに “ 教授 ” と呼ばれていたようだけど、あなたは本当に教授なの?」と聞かれまして。「はい、そうです」と答えると、爆笑されました。

―――どんな人だと思われていたのか‥‥(笑)。

フリースクールで会う子たちも、「ゲームに負けると本気で悔しがるおじさん」くらいに思っているかもしれませんね。

―――楽しんでいる分、悔しがり方も本気なんですね。

おかげさまで、この4年ほどで劇的におつきあいの幅が広がっています。ちょっとヘンな大学教授かもしれませんが、みなさんに良くしていただいて感謝です。これからもよろしくお願いします。


◆ いっぱい失敗しても大丈夫

―――最近は「伝える活動」もされていますね。YouTubeチャンネルのほか、植松電機さん他でも講話を‥‥。

基本的には、学生に話した内容です。特に若い人たちに「大学教授も若いときはいっぱい失敗してきたんだよ。そういうものだよ」と伝えたくて。私の場合、やらかしすぎかもしれませんが(笑)。

―――事前に共有していただいたスライドが秀逸で、家で爆笑してしまいました。かつて先生がいかにダメ人間だったかというお話。

「松隈クズ伝説」ですね(笑)。ああいったプレゼンは、フリースクールでの授業が役に立っています。いかにわかりやすく、楽しく聞いてもらえるか、経験値が上がってきました。

―――大学の紹介もとてもわかりやすいので、中高生にも聞いてほしいですね。

はい、その結果、うちの学科に来てくれたら、なおうれしいです(笑)。
実は今年、1年生のアンケートに「やっと先生に会えました」と書いてあったんですよ! 私のYouTube動画を見てくれていたようです。

―――なんと! うれしいですね。今後も、いろいろなところでお話されていく予定ですか?

はい、私の話でよければご用命ください! 研究室ツアーにも来てほしいですね、子どもさんも大人の方も。
いろいろな活動を通じて、理科を楽しいと思ってもらえたら。
理科でなくても、「学ぶのは楽しい」と思ってもらえたらうれしいです。

(おわり)

松隈先生のYouTubeチャンネルです ↓ ↓ ↓
小さいロケットの打ち上げ動画を始め、半生を振り返る「山あり谷ありシリーズ」、小学生に理科の楽しさを伝える「はじめましてシリーズ」、研究室の紹介など、盛りだくさんのコンテンツをお楽しみください。

◆ 編集後記

先生のお話の中には、たくさんの人とのエピソードが出てきます。ご家族や学生さんはもちろんのこと、違う学部の教授や企業の社長、フリースクールに集う親子、その代表とご友人たち、そのご友人のお父さん、かまぼこ屋の社長などなど、枚挙に暇がない上に、まさにダイバーシティ!
この垣根のなさがいろんな人を惹きつけるのでしょうね。人から人へ交友関係を広げ、教えたり教えられたり、ときにほったらかしたり(笑)しながら一緒に楽しんでいる姿が、” 新しい学びの形 " そのものではないかと思う私でした。
(イノウエエミ)

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