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家に生ハム原木がある生活、1日目──

生ハム原木の魅力

「家に帰ったら生ハムの原木があると思うと心に余裕が生まれる」
みたいな話がかつてTwitterでバズっていたことと思う。


確かに生ハムは美味しいし、何より原木という形態には特別感がある。

大抵の人は普通に暮らしていて見る生ハムは薄切りになってパックに入ったものだろう。
そこにあの普段見ているものとは違うはずなのになぜか心の中でイメージする ““““肉”””” そのもののビジュアルである原木の存在感は尋常じゃない。

「確か冷蔵庫にアレが残っていたような…」といった曖昧な認識になることはおそらくないだろう。圧倒的に『在る』という実感が得られるはずだ。

当然ながらパックのものに比べて量も多い。
そもそもが量に比べて割高感がある生ハムである。ちょっとしたご馳走感はデフォルトで備わっている。
それを好きなだけ切り出して食べられる(市販のパック入りの生ハムとはだいぶ味が違うとはいえ)というのだからそれは素敵に違いない。

なるほど家に生ハム原木があれば心に余裕も生まれようと言うもの。ぜひ一家に一台欲しくなるところである。

生ハム原木への懸念


だが、実際生ハム原木を買ったという人は果たして一体どのくらいいるのだろうか?

メリットだけを並べると非常に魅力的に思える生ハム原木。
しかし、実際例のバズりを見て「いいなあ」と思った人は多くともそのうち実際購入に踏み切った人の数はそういないのではないか。

その理由は、生ハム原木を買うことを現実的に考えると3つの懸念点が生じるからだと思う。少なくとも自分はそうだった。

1つ目が、値段。

確かに生ハムは特別な御馳走感がある。だがそれは当たり前に値段が特別であるが故のものであるのも事実である。
一口に生ハムと言っても価格はピンキリだろうが、今ざっとAmazonで検索したところ原木での購入となると安いものでも5000円程度、高いものだと2万3万とする代物だ。なんとなくの思い付きでは手が出ない。
その量と保存食であることを加味すればそこまで高級品というわけでもないという捉え方も出来るが、それでも1つの食材の値段としては間違いなくハードルが高い部類だろう。
それだけの値段を食にかけるならもっと色々な選択肢があるはず。
その中で生ハム原木という選択をして値段に見合ったリターンが得られるのか?というのは気になってしまう。

2つ目が、保管場所。

生ハムはもともと長期保存用の加工食品といえど肉。適当に置いておけるものではない。
冷蔵庫で保存しようと思ったら長期に渡って少なくないスペースを生ハム固有の領土として主張すること請け合い。
モノによっては常温保存が可能だったりするのだろうが、それでも温湿度や風通しには気を付けなくてはならないはず。
それぞれの住宅事情はいろいろあるだろうが、そんな生ハムに都合のいい空間がご用意されているお宅はそこまで多くないのではないか。

3つ目が、量。

デカい。それは確かにいいことではあるが、しかし必ずしもメリットだけとは限らない。

確かに生ハム原木は大きいからこそいいものだ。
大きくなければその辺で売っている切り落としの生ハムと大差ないし、単に生ハムを少し食べたいだけならサイゼにでも行けばいい話である。
あのサイズ感だから特別感があり、原木である意味があるのは間違いない。

だが、この量はおそらく飽きる。
無論そもそも数日で食べきる想定のものではない。食べ飽きたらそこで食べるのをやめればいいだけかもしれない。
しかし、長期的に少しずつ食べるとしてもこの量はさすがに飽きが来るのではないだろうか。
元より生ハムは塩味が濃く、少しずつ薄切りで食べていくものだ。一度あたりの消費量はそう多くない。
そんなものの塊を買って果たして美味しく消費できるのか。
家族などで食べるならともかく、自分は一人暮らしである。
友人を招いて宅飲みでもすれば消費の見通しも立つかもしれないが、そんな予定もない。おそらくソロプレイで挑むことになる。


以上3つのハードルが生ハムの原木を買おうとする自分を押しとどめてきた。

幾度も生ハム原木への興味が思い出したかのように湧いてくるものの、実際買ったとて心に余裕が出来るほどのワクワク感が持続するのは精々数日で、あとは「家に生ハム原木あるけどいい加減飽きたし正直邪魔だな…」となってしまう失敗への恐れが頭によぎってしまうのだ。

そんなわけで「生ハム原木購入」は自分の中でなんとなくの憧れだけは抱きつつも、実現に踏み切れない無数の出来事の一つのままであった。

訪れた転機

しかし、そんな日々に転機が訪れた。
新年会の景品である。

年の瀬になって突然通達されたのだが、なんでも規定の値段以下の商品をリクエストすると運営が買ってくれるらしい。
一応ビンゴゲームの景品という形式なのだが、全員当選で景品は早い者勝ちというシステムなので基本的に自分がリクエストしたものを取っていくから実質個人の欲しいものが貰えるプレゼント企画のようなものだとか。なんだその茶番

最初は何か家電とかの実用的なものを頼もうかと思ったがちょうど指定された価格帯で欲しいものが特に思いつかない。
じゃあせっかくだから自分の金じゃおそらく買わないようなものでも頼んでみるか…と考えて思いついたのが生ハム原木である。

3つのハードルのうち1つ、値段がクリアできるのだ。
ならばここは思い切ってチャレンジしてみる時ではないか。
そう考えて自分はリクエスト欄に「生ハム原木」の文字を記入した。

前置きが長くなったが、この文章はそんなわけで一人暮らしの男が約1㎏の生ハム原木がある生活を送る記録、その1日目である。

生ハム原木との対面

なんやかんやあっていざ生ハム原木とご対面。
「あれ、意外と小さい?」

それが箱を見た時の第一印象だった。

なんとなく、とにかく巨大なイメージがあったので若干拍子抜けである。
冷静に考えれば値段は1万5000円くらいということなのでそう大きなものになるはずもないのだが、イメージに引きずられ小さく見えた。

そして中身がこれ。

開封前に写真撮るの忘れてた

確かに大きい。大きいがまだなんとかなる気がしてきた。
サイズを測ってみたところ23×12cmといったところ。
一度で食べるなら相当なサイズだろうが、長期戦で戦う相手なのでそう強敵でもないように思えてくる。

そして生ハムと言えば欠かせないものがある。
台座とナイフだ。
気の利いたことに生ハムにセットとして付属していたので早速セットしてみる。

なかなか様になっている。
ここまではちょっと肩透かし感があったが、台座に乗せると「This is 生ハム原木(This is 天堂真矢みたいなリズムで)」と言わんばかりの威容を放ち、こちらも一気にテンションが上がってきた。

しっかり酒(棚を探したら残ってたウイスキー)とバゲットも用意していざ実食。対戦よろしくお願いします。

実食

まず感じるのは塩気。
端っこだったのもあって塩の粒がついていたのか若干ザリザリする。これはしょっぱい。
続いて旨味、それとクセの強さ。
やはり普段パックで売っている生ハムとは決定的にジャンルが違う。
向こうは普段使い向けに角を丸くした味だが、こちらは尖りまくり。
まさにちゃんとした本格派の生ハムといった趣で、好みが分かれるとは思うが自分は好きである。

そしてこれは酒が合う。
というか単体で食べるのは無理。絶対に相方が要るし、いた方がいい味。
味の濃さとクセをウイスキーがいい感じに引き立ててくれる。
生ハムを削って食べる。酒を流し込む。無限にこれを繰り返せるのではないかと錯覚するレベルの相性の良さ。まさにクセになる味と言ったところ。

しかし、ここまでで一つ思いがけない事態に直面していた。
生ハムを削る作業である。これが意外と難しい。
台座に固定された生ハムを専用のナイフで切り取るわけだが、押さえていないと台座自体が動くのと思ったより生ハムが柔らかいことから上手く削れなかった。
生ハムといえば薄切りになったものを想像すると思うが、出来上がったのは薄切りというよりは端切れといった形状。


外箱のイメージ画像
実際に出来上がったもの

野菜等の具材を生ハムで巻いたオシャレな前菜みたいな定番レシピがあるが、こんなに生ハムがあるのにこのままでは一生作れそうにない。
厚めに切ろうと思えばある程度大きく切り出すことも可能だったが、そうする今度は食感に違和感があるのだ。
不思議なことに少し厚くなってしまっただけで、なんというか「生ハムっぽさ」みたいなものが急激に失われてしまう。
生ハム感を保った薄さのまま大きい切り落としを作るのは至難の業だと言える。

当然ながら刃物を使う作業のため危険も伴う。
片方の手で台座ごと生ハムを抑えながらもう片方でナイフを使うためうっかりすると手を切りかねない。

…というか切った。
幸いちょっとした切り傷だったものの、初戦にしてさっそく負傷箇所1である。先行き不安。

しかし、何度もトライしているうちに段々と大きなサイズの薄切りが作れるようにはなってきた。
こういう上達する楽しさが味わえるのは原木ならではの利点かもしれない。

そうこうしているうちに次の課題にぶち当たる。
飽きである。
確かに美味しい。美味しいのだがしばらく食べていると味に変化が欲しくなるのが人情というものである。
とりあえず初回ということでその辺にある無難そうなもので味変を試みてみた。

・オリーブオイル
まあこれは合わないことないだろうと試したのだが、なんか今一つだった。
クセをまろやかにしてくれるかと思ったがむしろオイルの風味と合わさって何か別の新たなクセみたいなものが生まれており、何か古い木のような香りがする。
これは生ハムとオイルの種類による取り合わせとかもあるのかもしれない。要検証。

・乾燥バジル
無。バジルの存在感がない。
多分フレッシュなバジルの葉レベルの強さじゃないと生ハムの横で自分を主張できないと思う。

・レモン
合わない。
生ハムの塩味と旨味とクセ、レモンの酸味と爽やかさが完全に別々に存在してる。コラボする意味が感じられない。

・ガーリックオイル
刻んだニンニクを揚げて風味を移したオリーブオイル。前日にパスタ用に作ったものの余り。
これは抜群に合った。本日の優勝。
やはり肉とニンニクは鉄板の組み合わせ。
生ハムの特有のクセがだいぶ緩和されていたので、さらに他の何かと掛け合わせる上でも有効そう。

以上。

思った以上に扱いの難しさを感じた。
元々が味の濃いものなので味を変えようとすると調味料側にも存在感が求められるが、既に塩味が強いためしょっぱいものはNG、その上で生ハムのクセの強さと噛み合うものと言うとなかなか選択肢が限られそう。
調味料という手段で手軽にバリエーションをつけるのはだいぶハードルが高い気がする。

消費量

そんなこんなでとりあえず満足するまで食べたが、そこで異変に気付いた。
正確に言えば、異変がないことに気づいたというべきか。

生ハム、全然減ってない。

塊をちょっとずつ削って食べるのだから1日でそんなに見た目で分かるくらいの変化は起きないというのは道理だろうが、それでも体感的には結構な量を食べたはずだったのに見た目にほぼ変化がないように見えるのは中々に衝撃的。
第一印象では小さく思えた原木が一転、今になって巨大に見えてきた。
一体自分はどのくらいの量を食べたのか、消費までにどのくらいの期間がかかるのかが俄然心配になってくる。

そこで思いついたのだが、毎回食べた後に何ℊ減っているかを量ってみることにした。

大体どんなペースで消費しているかのペースが掴めればある程度どうやって消費するかの計画が立てられるはず。
届いた状態での重さは量っていないものの、箱に書いてある内容量が950gなのでそこから今の重さを引けば今日何ℊ食べたのかは分かるだろう。

そんなわけでクッキングスケールに乗せてみた結果がこれ。

なんか増えてる。
どうやら知らない間にマイナスの質量を消費して現実をバグらせてしまっていたようだ。

…まあ多分記載されている内容量はあくまで目安であって実物とはいくらかブレがあるのだろう。
記載内容より多い分にはまあ文句も出ないのだろうが、自分が初日に何ℊ消費したのかを知る機会は永遠に失われてしまった。

ここまでで色々想定外の事態に襲われたが、いい方向の想定外もあった。
思ったよりサイズが小さかったため冷蔵庫の空きスペースにちょうど入ったのだ。
とりあえず保管場所に関してはこれで安心。
後の問題はどうやって消費するかということに絞られた。

総括

とりあえず生ハム原木との同居生活1日目はこんな感じ。
今回は初日ということでシンプルな食べ方に絞ったが、今後はもっと他の調味料や食材、酒との相性を試していきたい。

そして、実際生ハム原木があることがどの程度心の余裕に寄与するかを確かめようと思う。

なんだかんだとあったが生ハムが美味しいのは間違いなく、今後どうやって食べていこうかという楽しさもある。
今のところ原木が家にあることはちょっとした嬉しさとワクワク感を与えてくれており、確かに心に余裕を与えてくれていると言っていい。
これがいつまで続くものか、今後も定期的に記録していくつもりである。

生ハム原木残り
?ℊ→961ℊ


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