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婚活でデート商法に遭遇した話。④

いよいよKと面会する日を迎えた。


休日であるはずなのに、朝、目が覚めたその瞬間から緊張感を覚えた。

早く終わらせたい気持ちでいっぱいだった。

それほどに気乗りしなかった。

気乗りしないとはいえ、なんせオシャンティースポットでランチデート(笑)だし)、そのあとは飲みに行くつもり(寧ろ楽しみはこれとランチ)だったしで

服装やメイクなんかも、まるで彼氏と出かけるくらいには気を使った。

チェック柄、Aラインのクラシカルなワンピースに身を包み

春らしく、ラメの入ったピンクのアイシャドウでツヤッツヤな瞼に、マスカラは根元からたっぷりしっかり。アイラインは控えめに。

一昔前の雑誌で「彼に愛されナチュかわ小悪魔モテメイク☆」的な文句で紹介されてそうな目元になった。​

元はどうしようもないが、まぁこれだと悪い印象は抱かないはずだ…。

まぁどれだけ着飾ったところで、デブなおばさんには変わらないのだが。はは…。


ワンピースの上に春色のトレンチコートを羽織り、ばっちりデート風な格好をして待ち合わせの△駅へ向かう。

ちなみに、この時コロナで騒がれだした頃だったので、しっかりマスク着用。このせいでリップメイクはせずとも良かった。。

11時頃だった。地下鉄に乗っていると、KからLINEが入る。

「どれくらいで着きますか??」

あと30分くらいで着けると思います、と返信。

すると

「ちょっと仕事で遅れそうなんです(>_<)●番出口にある○○珈琲に入っててもらえますか?」

と、どこにでも店舗があり恐らく誰もが知る有名コーヒーチェーンの店と、そのチェーンの△店の食べログのアドレスが送られてきた。

コーヒーチェーンと言っても、スタバではない。

暖かいデニッシュの上にソフトクリームがどっかり乗っている、パン?ケーキ?が名物のあそこである。

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↑潔いボリューミーっぷりがステキ。

え?せっかくおしゃれなとこに来てるのに何でココ指定?今日ランチするんじゃなかったっけ?

疑問が沸々湧いてきた。

オシャンティーカフェでランチは?何でコメダ(あっ)???

1杯のコーヒーで2軒目はランチとか?それとも仕事が忙しくて手短にお茶だけとか?

冷静に考えると、後者の場合ならむしろ好都合だった。

お洒落なカフェでランチが出来ないのは残念だが、その後の時間は有効に使えるじゃないか。

コメダだと、きっと小一時間耐えたら解放されるはずだ。昼からは好きなように美味しいものを飲み食いしよう。

モヤモヤしつつも、△駅へ降り立ち、大通りに面したあの珈琲店に足を踏み入れた。


ホールスタッフには、後からもう一人来ることを伝え、4名掛けのテーブル席へ腰かける。

Kと私はお互い1枚のプロフィール画像と声しか知らないので、どの席に座っていて、どんな格好をしているのかとKへLINE送信。

Kを待つ間はなかなかに緊張した。

正直私は褒められた容姿ではないし、性格はとてもひねくれているので、Kにはドタキャンされる可能性も考えていた。

婚活ではないが、とあるグルメ系のマッチングサービスで知り合った相手に、明らかに同じ待ち合わせ場所にいたはずなのに「急用を思い出しました」と漫画のような連絡が来て、待ち合わせのその時間にドタキャンをくらったことがある私。

恐らく私の容姿が好みとは程遠かったのだろう。

1度だけそんな経験がある。惨めったらしいったらありゃしない。

今回も、その可能性は無きにしも非ず。

そうでなくても、すごく怖い人だったらどうしようだとか、その時は適当な理由を付けて逃げなくちゃとか、そんなことを考えていた。

緊張のせいか変に喉は乾いていて、頼んだアイスコーヒーはすぐに飲み干してしまった。

2杯目を頼むかどうか悩んでいるうちに、Kから「あと5分くらいで着きます」と連絡が来る。ああ、いよいよだ。

そして数分後

「お待たせしました」

あのだみ声と同時に、目の前に1人の男性が座った。待ちに待ったKその人である。

あれっ?こんな人だっけ?

それが、静止画ではない生身のKを目前にした時の感想だった。

アプリでは大きくて切れ長な瞳に見えたが、目の前の男性は、大きいとは言えない細長いアーモンド型の目、それに垂れている。

アプリではシャープだったけど、なんだか下膨れな輪郭。

水嶋ヒロレベルの細眉がこれまた似合っていない。写真では見事に帽子で隠れてたんだな、細眉。

その細眉のせいもあるのか、言っちゃ悪いが目つきもいいとは言えない。強面ではないけど、気質じゃないと言えば納得できそうな雰囲気。

アプリの写真とは、キツそうな目元の印象だけが共通している気はする。

正直に言って猫顔とは言えない顔だちだった。むしろヘビ顔?

アプリではシックな雰囲気だったのに、目の前のKは良く言えばワイルド系。この顔なら、このだみ声がぴったりよく似合う。

えっ、これ本当に同じ人???

…そんなことを思ったが、お互い様かもしれないので(私はそんな加工はしていないつもりだが)、無理やり納得する。だってちゃんとFacebookもあったし!

しかし服装はやはりファッションが趣味なだけあって、細身のジャケットと無地のシャツ、やっぱりリアルでも中折れハットがよく似合っていた。

顔はともかくとして、全体的な印象としては非常におしゃれな男性だった。

「どうも、遅くなってすんません」

頭を下げるKに、愛想笑いを返した。

前にも書いたが、私は緊張すると割と口数が多くなるタイプである。面と向かっていれば特に、沈黙の空気がとても耐えられないのだ。

「お仕事大変ですね、そんな時にすいません」

みたいなことを言ったと思う。

「そうだね、今日はちょっと来客があって」

やっぱりタメ口か!既に私とあなたはお友達なのか!

まぁそこは置いといて、てっきりお茶の後にKは仕事に戻るのだと思っていた私はこう言った。

「忙しいんですね~。私もこの後1人で飲みに行こうと思ってるんですよ。××(有名な呑兵衛エリア)近いんですよね?」

「ん?言っとくけど今日は俺といる時間、長いよ?」

「え?」

前日のやり取りで色々プランを考えている、とは言っていたが、コメダ珈琲指定の時点でそんなプランは成立してないんだと思っていたため、この発言にはたいへん驚いた。

そりゃ仲良くなったらショールームを案内したいと言われたけれども、それってあくまで仲良くなればの話でしょ?

そもそも今初対面な訳だし。何で勝手に今日の予定が長いと決められてるの??あなた昨日そんなこと書いてたっけ?

初めて電話した時と全く同じ違和感。

そんな私を後目にKは言う。

「時間大丈夫だよね?」

さっさと終わらせようと何か理由を付けようと思った。

思ったが、つい今しがた「1人で飲みに行く」と自ら発信してしまっている。

この後は暇だと暴露しているも同然だ。数十秒前の自分を呪いたい。

戸惑いつつも、Kの言葉にうなずくしかなかった。

もうどうにでもなれだ。


Kは今日の予定を説明しだした。コーヒーチェーンを出た後は自慢のショールームに連れていきたいと思っている、その後はボーリングなりカラオケなり、所謂デートらしいことをしたい…といった計画だそうだ。

ほんの小一時間過ごせば、と思っていたが長丁場になりそうだ。なんて日だ…。

…てか、怪しすぎじゃない?自慢のショールームって何よ?そもそも仲良くなってないんだけど?

…という気持ちで、それでも一応笑顔で

「ショールームって?」

と聞いてみた。

するとKは待ってましたとばかりに

「じゃあ俺の話をさっそくしたいんだけど」

とわざわざ前置きをし、かいつまんで言えば『今の仕事に就いたきっかけ』を話し出した。そしてそれは何とKの生い立ちから始まった。

聞くとKの家庭環境は複雑で、お父さんが飲んだくれで家庭内暴力が激しく、それに耐えられなくなったお母さんが出ていき、小学校高学年くらいからお父さんと妹と3人で暮らしていた。

仕事も長続きせず、昼から飲んでいるような父親だったので、家庭には金もほとんどなく、小中学校時代は貧乏だといじめられた。父親に殴られて出来た傷も絶えなかった。

高校時代は毎日深夜までバイトして、奨学金を使って大学へ入った。

…等々、それどこのホームドラマですか?とツッコミたくなるような生い立ちだった。

勿論嘘だとは言えない。言えないが、苦労話に同情させて勧誘というのはよくあるパターンだ。

当然私はこの時点では疑う余地もほとんどなく、婚活で会ったから最初から佳境に入るのかしら?なんて、アホなことを思っていた。

あくまで婚活の一環のつもりで話してくれていたのだと思っていたし、「大変だなぁ」くらいに思っていた。

Kの話に戻ろう。

Kは大学進学後も、その学費のためにひたすらバイトに明け暮れていたが、バーで働いていた時にとある人と知り合った。

その人はジュエリーの企画人であり、バイトを探しているならと自分の仕事を紹介してくれた。

軽い気持ちでバイトしてみると、とても面白くて自分に合っていると感じた。

ここで延々と一方的に喋っていたKが、相槌以外の言葉を発していない私に初めて

「涼ちゃんの宝物って何?」

と聞いてきた。

学生時代の写真とか、そういうことを適当に答えたと思う。

余談ではあるけれど、適当に答えたが、未だに宝物って何かは分からないでいる。すぐに答えられる人っているのかな。

「ふーん、そうか。俺はね…」

と、自分から聞いてきたくせに私の宝物にはほとんど触れなかった。

なぜ聞いた?

それはすぐにわかった。

Kの話を総合すると、ジュエリーはその姿かたちだけではなく、人生にも輝きを与えられるものであるということ、この業界に誘ってくれた人からジュエリーを購入して、今までの苦労も報われた、努力の証だと思った、これが自分の宝物になった。誘ってくれた人は恩師として今も付き合い続けている。

この業界に携わって人生が変わった。自分の仕事に誇りを持っているし充実もしているから、その喜びを知ってほしい。

宝物にしてほしい。

…ということを言いたかったようだ。

意味が分からない方、大丈夫です。

私も書いていて、まったく意味が分かりません、未だに。


正にこんな心情だった



「そんな訳だから、涼ちゃんにショールームを見せたいと思ってる」

どんな訳か甚だ不明であるが、そう言うKの目は輝きを増している…ように見える。

たかだか2,3週間のLINEをしただけで、今日初対面の相手にこんなこと言うか?

この時点で雲行きが怪しくなってきたと思った(遅ぇよ)。

気付けば30分以上もKの話を聞いている。

2杯目はアイスコーヒーだったのだけれど(3月の割にはとても暖かい日だった)、氷は既に全部溶けていて、コーヒー味のついた水と化しているし。

ここまでで私が言葉を発したのは、恐らく合計5分にも満たないと思う。

それくらいKは一方的に話し続けていた。

「それじゃあ行こうか」

Kが席を立った。

「えっと、そのショールームに?」

「うん、俺の仕事ぶり見てもらいたいから」

Kがそこまで言うなら結構な施設なのだろう。

怪しい、怖いという思いよりも好奇心の方が勝った。


コメダ珈琲を後にして、Kの自慢とやらのショールームに向かうことになった。




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