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僕らの学校①「僕はギオンだよ」

僕がこの街に来たのは、2023年の春のことだった。
並木道にはいつも光があふれていた。
櫻の花が咲き、そして散り、千川通りに、ピンクの龍神が生まれては消えていった。
そして夏になる時分には、僕には友達ができ、居場所ができていた。
僕が僕らになった頃の、僕らの学校や僕らの居場所。
僕は今日、あの頃にかえることにする。

・・・2023年夏

初夏を迎えるころから、比呂乃おばちゃんが、毎日冷やしあめをくれるようになり、スッキリする味わいに僕らは夢中だ。
比呂乃おばちゃんは、「こぶしの花」っていう店をしてるんだけど、僕らはそこのことを「おばちゃんち」と言っている。まあ、正式にはおばちゃんでもないんだけど、そんなことはもちろんどうでもいいことだ。
おばちゃんは、『みのりの里』というコミュニティの一角でカフェをしてるんだ。店ではいろんなナカマが働き、千川通りに面するオープンテラスや、みのりの里全体にカフェの料理や飲み物を配っている。
ナカマたちが笑顔で元氣に歩き回る中、僕らは毎日何かを学ぶ。

「今日の神様を紹介するわ!」
みのり木の広場で、素っ頓狂な声がした。紙芝居が始まる合図だ。
「貴和子!」僕たちは冷やしあめを持って夢中で広場に駆け出した。
広場には、広い木製のテーブルやらベンチやら、ブランコなどの遊具があって、
あちこちに子供たちが陣取って、紙芝居の始まりに胸躍らせた。
紙芝居の時に現れるおばちゃんの隠れキャラ「喜和子」は子供たちに大人気だ。
「貴和子」は不思議色のシャリシャリのワンピースを着て、不思議な音色を醸し出す楽器を携え、不思議な紙芝居を始めた。

「オーロラが今日の神様よ~。」
「わーい!やったー!!」
「オーロラの発見」というタイトルのその作品は、オーロラの見える町に住む村人の話だった。オーロラを始めて見て、あごが外れた人の様子を、貴和子が面白おかしく再現するところや、オーロラが絵本から飛び出して不思議色の香りをそこら中に振りまくエンディングなど僕らに大人気の作品だ。
紙芝居が終わった後、僕らは車座になって、いつものように、作品の感想や、オーロラを初めて見た人はどんな気持ちだったか?オーロラがどうしてこの世に生まれたか?ということをもう一度、想像して、一人一人話していった。
毎回、感想が変わってるから、飽きないんだよ。
そうやって、そこで話されたことや、僕たち一人一人が心の中で感じたことこそが神様なんだって、貴和子は言うんだ。だから、今日の神様はオーロラってわけ。
おかしいね。
貴和子はいつだっておかしいんだもん。しょうがないじゃん。
だからそれでいいやって思っちゃうの。
だってさ、僕ら一人一人がここで感じたことが神様だって言われたら、一瞬で信じることができるもんね。

その後、僕らは又いつもの通り、ここで遊ぶ。
何かを習っているようなそんな気はしないけど、ここはフリースクールっていうやつだよ。
昔、お寺だったところを改装したんだって。
みのり木の広場は、コミュニティのものだけど、昼のうちは僕らが支配してるんだ。

フリースクールは、この辺の大人たちがみんなで運営していて、僕らも卒業したらすぐにそっち側になるんだって。その時が来るのが楽しみだ。
だってさ、たまに大人たちもスクールに集まる日があるんだけど、その日は僕らが帰ったあと、いつも賑やかな音楽と大人たちの笑い声が聞こえてきて、そして抜群のいい香りが漂ってくるから、僕たちは興味津々なんだよ。

「さあて、今日は何をしようかなー。」と、僕が広場をふらふらしているときだった。
エチカちゃんと目が合った。彼女は車いすの上から、僕ににっこり微笑みかけてくれた。
エチカちゃんというのは、僕が心の中で読んでいるあだ名だ。彼女は都営地下鉄をうまく使って一人で登校してくるからなんだけど。
名前も知らないうちにあだ名が先に決まってしまっていて。
でもエチカちゃんにそのことを正直に話したら、大笑いして手をたたいて喜んでくれた。
「それいいね。」そういうと、さっそくエチカちゃんは
「ねえ、お絵かきしない?」と、僕らを誘ってきた。
僕らはエチカちゃんと一緒にみのり木の広場の大きなテーブルを囲み
思い思いの紙や木や皿と、絵の具やクレヨンやマーカーを前に、思い思いに創作活動に入った。
「クリエイトしなくちゃね。」
「そうそうクリエイティブにね。」

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