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僕らの学校③「いとするもの…」

みのりの里には、三太の池というのがある。

これは、真太郎くんと源太くんと、僕のお父さんである孝太くんが作った池だ。
真太郎くんが言うには、流行りの言い方でビオトープってやつなんだけど、できた当初、「まあ池でいいよ。」ってことになって、自分たちの名前をもじって三太の池ってしゃれた名前にしたんだって。

池の中にはメダカやエビ、貝がおり、夏のはじめにはホテイアオイが浮かんでいる。
それぞれのいのちがこの池の周りで巡っているんだ。
そしてそのことが、僕らのような子供にとって、かけがえのない経験になるだろうと、みのりの里の大人たちが考えて作り出したんだって。でもね、大人たちだって散歩にやってきては、池の中をのぞいていくし、時にはオタマジャクシを獲ろうとする大人も居るくらいだよ。その姿は、もうすっかり子供みたいだよ。

まえに、僕のお母さんの絹子さんと、孝太君が話していたんだけど、「そういうもんだよな。子供たちにとって豊かな経験になるってことは、コミュニティの誰にとっても豊かな資源になるってことさ。」って。

三太の池は、みのりの里の入り口右手にあるけれど、里の中央には、大きな樹があり、その周りが、みのりの広場と呼ばれるスペースだ。

今日もみんな集まって、里の一日が始まっているよ。
ほら、あそこをごらんよ。貴和子が来たよ。
貴和子というキャラになりきった比呂乃おばちゃんが、今日は黄緑色のワンピースを着て、なにやら布をもって登場してきた。

「はーい。皆さん、こんにちは!」
「今日の神様は、「糸」よー!」
僕たちは、初めて聞くタイトルにワクワクした。
「そして今日は、はじめての立体紙芝居でーす!」
「立体~?」
「紙芝居~?」
ポカーンとする僕たちに構わず、貴和子が続ける。

比呂乃おばちゃん演じる貴和子が、布を脇に置き、画帳を開き
「糸って字はこう書きますね?」と見せた。
そこには「糸」と大きく書かれている。
貴和子は、
「もうみんな習った?『糸へん』。
いろんな字があったでしょ?」

子供たちは大声で答えだした。
「組」
「紙」
「級」
「絵」
「そうね。」「あっ、それもあったね!」
貴和子は相槌で盛り上げながら、マジックを僕に手渡した。
「はい、今言った漢字を書いていって。」
貴和子は、しばらく僕たちが糸へんの右の、つくりの字を書いていくのを見守っていた。
そして皆が書き終えたころを見計らって、自分で書いた文字をさらに取り出した。
「じゃあ、この字はなんて読む?」と聞いた。

他の子供たちは、まだ習っていないのか、答えられない中、
「おる『織る』でしょ。」こともなげにエチカちゃんが答えた。
貴和子は正直に「読める子がいて助かったわ」とつぶやていた。

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