見出し画像

『オレステスとピュラデス』

KAATでの公演は見逃してしまっていたのだが配信を視ることができてよかった。
めちゃくちゃ好きな作品でした。

何がそんなによかったかと言うと、
① 刺さる物語だった
② ワクワクする演出だった
③ 映像作品としての手触りも面白かった

今から賛辞を述べます。

物語が好き!

復讐の女神に取り憑かれたオレステスとその親友ピュラデスが、救いを求め神託に従ってタウリケの地を目指す旅の物語。旅の途中で彼らは、オレステスの父を総大将とした軍が戦争で踏み荒らした土地を通り、虐げられた人々に出会い、痛みを経験していく。親友同士ふたりの関係にも変化が生じる。

ギリシャ悲劇の時代が舞台なのだが、描かれているのはまさしく現代の私たちの問題だった。
- 憎しみの連鎖を断ち切ることができず争いが絶えない世界
- 正義とは?
- 多様な立場から物事を見ること
- 人が人へ向ける想い(愛であれ憎しみであれ)のパワー
- "傷"に向き合うこと
- 己の足で立つこと
遠い時空の他人事などではない、「私の話だ」と思った。そして思考が始まる。私はそういう作品が好き。

この物語では、人が人へ向ける想い・感情を「火」で表現している。暖を取ったり調理することに使える恵みであると同時に村を焼き尽くす戦争の炎にもなる「火」のように、人への想いは温かな愛であったり燃えたぎる憎しみの炎であったりする。
愛も憎しみも性質としては同じものなんだと気づくことは、何か問題解決の糸口にならないだろうか?
憎しみの炎を消すことはできないと断言してくれるのも嘘っぽくなくて良いと思った。「鎮める」「憶えておく」ことをがんばろう、と。
ひとりで憶えておくことはできないから「伝え、渡し、分け合う」という救いも示してくれた。
作者やこのカンパニーから「ひとりじゃなく、演劇でみんなで分かち合いましょ」と言ってもらった気がして嬉しかった。

ずっと憶えていて、伝え、渡し、分け合っていたら、いつかそれは誰のものでもなくなって…
そんな未来が来るのかな。
気が遠くなるし、信じ難いけど、歩いて行けばいいのかな…タウリケを目指して。
いろんなことあるけど、タウリケへの旅の途中だと考えて楽しい道中にすればいいのかな。

何やら説教臭い話だったのかと思われるといけないので、そんなことはなかったと言っておく。
魅力的なふたりの青年の冒険譚・成長譚は瑞々しくスリリングで、愛し合う親友同士の間に見え隠れする感情が痛いほどに刺さってくる、そういう点でも大好物なのでありました。


演出が好き!

『プレイタイム』を思い出すような、劇場の機構丸見えのほぼ素舞台。ガランとして、奥行もものすごくあって広い広〜い空間。その中で蠢いている「人間のちっぽけさ」さえ感じさせる。
建物や船などを表すセットも舞台裏にある資材を組み合わせて作ったようなもので面白いし、それがメタフィクションぽい要素になっているのかもしれない。
劇が始まる時、役者たちは客席を通り抜けて登場する。古代ギリシャで生まれた演劇の原形は集まった人々が皆互いに演じたり観たりする行為で、そのうち特に演じることが上手い人が現れたので役者と観客の役割が分担されるようになっていったのだと聞いたことがある。あの舞台に上がっていった役者たちは私たちの代表なのかもしれないと思えてくる(コロスも居るし)。私たちは観る役割を担い共に演劇を作る人。
みんなで劇世界へ入り込む手助けを照明がしてくれる。素舞台に大海原や雪山を出現させたり、オレステスの幻視を見せてくれたり。たくさんの小さな丸い光が現れるところは特に印象的だった。

しかし何と言っても凄いのはラップだ。コロスがストーリーテリングにそれを用いるのもかっこよくてドキドキ感を煽ったが、終盤のピュラデスvsコロス、ピュラデスvsラテュロスのハンドマイクを持ったラップバトルは圧巻。激情が迫ってきて痺れた。ビートに乗った言葉にグッサグサに刺された。天才!

もちろん俳優も素晴らしかった。
鈴木仁さんは気高くナイーヴで反則級に放っておけない"愛され"オレステスを嫌味なく体現していたし、濱田龍臣さんのピュラデスが "I wanna be special to you" の想いを繊細に滲ませたりラップで炸裂させるのは切なくて堪らなかった。
大鶴義丹さんと趣里さんが複数の役を演じた効果も大きい。義丹さんは各役で「大人の立場」「世界の形」を見せてくれたように思う。趣里さんは虐げられた哀しみを抱えしかもその憎しみのエネルギーを全開にするツライ役ばかりで大変だったのではないかなぁ。
コロスを演じた皆さんは年齢も特徴も様々で、多様な視点を提示してくれたし、私たちの代弁をしてくれる頼もしさも感じた。

映像作品として好き!

ちょっと普通の舞台映像とは感触が異なる、何と言うかものすごく生々しい映像だった。
手持ちのカメラで事件を追うような撮り方になっていて、まるで今そこで起きていることを映したドキュメンタリーのように見えた。
劇世界を「私たちの話だ」と感じさせるのに有効だったのではないかと思う。
画面が揺れて少々酔い気味になるのは難点かもしれないが、割とすぐに慣れた。
客席後方高い所からの映像になる時もあり、舞台の大きさ・奥行が分かって良かった。
あゝ劇場で体感したかった!とは思うが、映像で観てもこれだけ満足している。撮影監督はやはり『プレイタイム』と同じ渡邉寿岳さんですね。

いざ タウリケへ!

12月30日・31日「論座」に掲載された瀬戸山美咲さんの記事がきっかけで配信を購入した。
「これ好きかも!」という直感が大正解だったので嬉しい。1ヶ月前にアンテナに掛かっていなかったのが不思議だし悔やまれるくらいだ。杉原邦生さんが「タウリケ遠いなー」とツイートされていたのは覚えているのに!
でもまぁ、配信で観ることが叶ったのもきっと何かの御縁だったのだろう。
ありがとうございました😊

いろいろと不安の多い2021年幕開けではあるが、「いざ タウリケへ!」と元気に歩き出しましょうか!遠いけど!






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?