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人は進む、リサーチはどうか?

Facebookで見かけて、触れようかどうしようか考えましたが、少しだけ思ったことを書こうと思います。

フィードを眺めていたら以下のnoteがありました。私が敬愛してやまないネスレの高岡社長の名前があったので、はて?どんな手紙だろうと思って読みました。

これを書いた松本さんはデコムさんなのですね。インサイト発見系のリサーチではまず真っ先に名前があがる会社さんで、私は直接依頼したことはありませんが、デコムさんのファシリテートしているワークショップには何度か参加したことがあります。

そのデコムさんがクライアント筋であろうネスレジャパンの社長さん宛に書くのですから、それは非常に強い決意を持たれて書かれたことだと思います。傾向とすれば、マーケティングリサーチの会社はクライアントには弱い立場だと思うからです。それでも書くというのは、とても腹に据えかねたことだったのだと思います。(いい傾向なのでどんどんやればいいと思いますが)

例えば、ちょっと前、ビデオ〇サーチ社は、渋谷の緑色の会社の社長さんにご意見をいただいて、ホームページからリリース記事を削除するくらいですから。おそらくデータは間違っていなかったはずなのに。ビデオ〇サーチ社は業界の中でも大手の企業です。

人の意識はどんどん進みます。過去の発言からすれば、だいぶ違うことを時間が経ってから言っている商品、人はたくさんいます。特に成功を収めたモノは特にその傾向があります。

例えば、今は大ヒット飲料の地位を不動のものにしているお茶の開発秘話は発売当時に聞いた話とだいぶ違うストーリーになっているのを読んだことがありますし、すごく売れている九州の社長さんのサクセスストーリーは、独立した当時からは全く想像ができない、先見性の塊のようになっています。

私はそれが特に悪いとも、話をすり替えたとも、嘘つきとも思いません。それがその人の中で本当のストーリーなのだと思います。一番最初は、成功するなんて約束されておらず、必死にできることをやり、もがいて、でもその道が正しいと思っているからこそ、努力を重ねて成功を手に入れたのだと思います。

その成功が一時的なものではなく、確実なものとなった時、その時の苦労は思い出となり、美化され、風化していきます。その中で自分のストーリーとして残るものがその人にとってのサクセスストーリーになるのだと思います。

もちろん、カッコつけて、お化粧して、当時の不安や失敗を意識的に隠すこともあるでしょう。でも、それを含めてその人の真実です。

あれっ?マーケティングリサーチが起点だったことを隠そうとされているのかな、マーケティングリサーチって恥ずかしい行為なのかな?

そういう点を松本さんは上記のように捉えて、上記noteを書かれたのでしょう。特にインサイト発見を生業にされているデコムさんとしてはぷんぷん丸になられたと推察します。

おそらくですが、高岡社長はそんなことは一切思っておらず、純粋に、

「いくらリサーチを重ねても“顧客の気づいていない問題”は見つからない。問題の本質を捉えるセンスを磨く必要がある」

ということの例で自分の中にあったキットカットの事例を出されたのだと思います。

松本さんはキットカットの事例が書かれた書籍や、過去のジャーナルを確認され、

キットカットの受験キャンペーンはリサーチで発見した「インサイト」がキッカケだったはず。「顧客が認識していない問題をリサーチで捉えた」はず

という確信を得られていたと思いますが、ここに因果があったとまではいえないんじゃないかなぁと私は思いました。もちろん、「Break」の定義を写真投影法(懐かしい!)をやった結果がでていたからからこそ、九州からの電話で結びつけられたと言えますが、そのマリアージュが本当にリサーチの結果起点かと言えば、どうなんだろうな、と。

その2つを結び付けたこと自体がセンスなんじゃないか、と。


大阪ガスに大阪ガス行動研究所というものがあります。そこの所長は松波晴人さんです。2011年に『ビジネスマンのための「行動観察」入門 (講談社現代新書)』を出され、その後の行動観察、エスノグラフィーの隆盛のきっかけになった本です。

当時、私は大阪ガスさんと仕事をしている関係から松波さんにもお会いさせていただき、お話を聞いたことがあります。もちろん、この本も購入してかなり読み込みました(笑)。当時は私はコンサルタントをしていて、「この手法は売れるからお前がマスターしろ!」と上司から言われいたためです。

結論からすると、私には無理でした。

もちろん、考え方を理解し、事例を頭に叩き込み、ケースごとに提案をして、アウトプットを出すことは可能でした。しかし、私には既存のケースを他に当てはめることはできても、オリジナルで新しい視点、解釈、改良点を生み出すことができませんでした。

もちろん、当時のアウトプットには自信があるので、クライアントに対していただいた対価分には嘘はありません。しかし、違うのです。全然違うのです。既にある解法の基づいて結果が出せることと、オリジナルで解法を思いつくことは。

インサイト。深淵なるかな、インサイト。

インサイトにはいろいろな定義、考え方、用法が存在し、100人いれば100人違う感覚を持っているだろうという言葉です。私にとってインサイトとは、

「生活者が問題にしていない、あるいは気付いていない問題や課題」

という感じです。引用記事内での高岡社長が

私の定義では、イノベーションとは「顧客が諦めている問題、あるいは気付いていない問題を解決すること」

とかなり近い定義です。問題なのか、解決することの違いかな、と。

でも、この「問題/課題」と「解決策」を結び付けるのはセンスが必要だと思います。私ができなかった行動観察のように。「問題/課題」→「解決策」を「因」→「果」はそう簡単ではありません。ここは本当に深淵の世界で本気で取り組めば取り組むほど先が見えなくなります。

もちろん、これはセンスのない人間だからハマるのです。簡単にできる人は、センスがあるか、本気で考えていない人だけです。

そして、話は戻りますが、松本さんはインサイト探索のプロなので、その辺りが意識なくできるのだと思います。なのでリサーチ起点なのに!と思われたのではないかな、と。

でも、私はそこには深淵が横たわっており、それを超えられるセンスを磨くことが大事だというお話かと思いました。そして、前段で書きましたが、人の意識は進みます。過去に言っていたことと、違ったことをいうこともあるでしょう。でも、それがその人の真実だとした時、そこに残っていないリサーチは?と考えては?と思いました。

リサーチはまだまだ有用です。

私も仕事柄今もたくさんのリサーチを実施します。定量、定性、FGIにインタビュー、CLT、会場テスト、ワークショップやエスノグラフィーなど色々課題に応じて使い分けていますが、やはりリサーチの限界は日々感じています。自問自答しています。

そういう意味でも高岡社長の言うセンスを磨け!というメッセージは正しいと思いつつ、私のように磨いてもセンスを身につけられなかった人間には辛い言葉です(笑)。

答えは相手の中にではなく、自分の中にあるのかもしれまん。それを見つけるきっかけがリサーチの手法なのか、アウトプットなのか、本人のセンスなのかわかりませんが、リサーチがこれまでのリサーチのままでいれば、置いて行かれるかなり高いのではないかと思います。

そんな感想でした。
(これ、少しだけですかね?)

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