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条文解説【著作権法第2条(定義)第2項】

著作権法第2条(定義)第2項:
 
「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする。」
 
「絵画」や「版画」、「彫刻」などが、典型的には「美術の著作物」であると考えられています(10条1項4号参照)。これらは、いわゆる「純粋美術」(後述)に属するものとして、著作権法の保護対象となります。本規定は、本来的に著作権法の射程範囲内にある純粋美術に属するとは言い難い「美術工芸品」は、少なくとも、著作権法上は「美術の著作物」として、「絵画」や「版画」などと同等の保護を受けることを注意的に規定したものと解されます。
「美術工芸品」とは、典型的には、一品製作にかかる茶碗や壺、織物、刀剣などを想定しているようです。
 
▶応用美術の著作物性について
 
上述したように、法第2条2項は、少なくとも「美術工芸品」は美術の著作物として保護されることを明記したにとどまり、美術工芸品以外の「応用美術」を著作権法上一切保護の対象外とするものではないと解されます。美術の著作物との関係で、現行著作権法の制定当初(昭和45年)からいまだに議論されている「応用美術の著作物性」について、ここで少し触れておきます。
 
一般に、美術は、「純粋美術」と「応用美術」とに大別でき、ここに、「純粋美術」とは、絵画や版画、彫刻などのように、専ら美の表現のみを目的として個別に制作され、それ自体の鑑賞を目的とし、実用性を有しないものをいい、一方、「応用美術」とは、実用品に美術あるいは美術上の感覚・技法を応用したものを総称した呼び方です。「美術工芸品」は、既成の純粋美術の技法を一品製作に応用する場合に該当し、「応用美術」の一態様として捉えることができます。
ところで、著作権法は、その2条1項1号で「美術の範囲」に属するものを著作物の対象とすると規定するとともに、同条2項で、「美術の著作物」には「美術工業品」を含む、と規定しています。一方、同じく知的所有権(知的財産権)法に分類されますが、産業政策立法(産業促進法)の一つである「意匠法」に規定する「意匠」(意匠法2条1項参照)との関係で、応用美術をどこまで著作権法の保護対象とすべきか、応用美術のうち美術工芸品に属しない類型のものは美術の著作物として著作権法の保護の対象となりうるか、といった問題が、長い間、学会や実務界等で議論されています。現時点で、明確に”通説だ”と呼べる見解があるかどうかはにわかには判断できないところです(最近の裁判例については後述)。なお、国際的には、「応用美術の著作物」(works of applied art)に対する法令の適用範囲やその保護条件をどうするかといった点は、各国における立法政策の問題だと認識されています(ベルヌ条約2条(7)参照)。
 
代表的な裁判例を概観してみると、「美術工芸品」以外の「応用美術」であっても、意匠や実用新案の登録の可能性に係わらず、著作権法によって保護される場合はありうる、という点は、まず間違いなく言えるでしょう。ただ、その線引きといいますか、著作権法による保護のライン(境界線)という話になると、「美的表象を美術的に鑑賞することに主目的があるもの」とか、「高度の美的表現を目的とするもの」と言ってみたり、「美の表現において実質的制約を受けることなく、専ら美の表現を追求して制作されたもの」、「純粋美術と同視しうるもの」、「高度の芸術性(思想又は感情の高度に創作的な表現)を有し、純粋美術としての性質をも肯認するのが社会通念に沿うもの」、「独立して美的鑑賞の対象となり得る程度の美的創作性を備えている場合」など、いまだ明確な基準は確立していないように見えます。結局のところ、個別の事案ごとにケースバイケースで認定が行われることになりますが、同一事案であっても、認定者(裁判官)によって判断が割れる場面もあるでしょう。
 
参考までに、最近の裁判例を2つご紹介します:
 
▶令和5年4月27日大阪高等裁判所[令和4(ネ)745]
『そこで検討するに、著作権法2条1項1号は、「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と規定し、同法10条1項4号は、同法にいう著作物の例示として、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」を規定し、同法2条2項は、「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする」と規定している。ここにいう「美術工芸品」は例示と解され、美術工芸品以外のいわゆる応用美術が、著作物として保護されるか否かは著作権法の文言上明らかでないが、同法が、「文化の発展に寄与すること」を目的とし(同法1条)、著作権につき審査も登録も要することなく長期間の保護を与えているのに対し(同法51条)、産業上利用することができる意匠については、「産業の発達に寄与すること」を目的とする意匠法(同法1条)において、出願、審査を経て登録を受けることで、意匠権として著作権に比して短期間の保護が与えられるにとどまること(同法6条、16条、20条1項、21条)からすると、産業上利用することができる意匠、すなわち、実用品に用いられるデザインについては、その創作的表現が、実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えていない限り、著作権法が保護を予定している対象ではなく、同法2条1項1号の「美術の著作物」に当たらないというべきである。そして、ここで実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえるためには、当該実用品における創作的表現が、少なくとも実用目的のために制約されていることが明らかなものであってはならないというべきである。』
 
▶令和3年12月8日知的財産高等裁判所[令和3(ネ)10044]
『ところで,著作権法2条1項1号は,「著作物」とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」をいうと規定し,同法10条1項4号は,同法にいう著作物の例示として,「絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物」を規定しているところ,同法2条1項1号の「美術」の「範囲に属するもの」とは,美的鑑賞の対象となり得るものをいうと解される。そして,実用に供されることを目的とした作品であって,専ら美的鑑賞を目的とする純粋美術とはいえないものであっても,美的鑑賞の対象となり得るものは,応用美術として,「美術」の「範囲に属するもの」と解される。
次に,応用美術には,一品製作の美術工芸品と量産される量産品が含まれるところ,著作権法は,同法にいう「美術の著作物」には,美術工芸品を含むものとする(同法2条2項)と定めているが,美術工芸品以外の応用美術については特段の規定は存在しない。
上記同条1項1号の著作物の定義規定に鑑みれば,美的鑑賞の対象となり得るものであって,思想又は感情を創作的に表現したものであれば,美術の著作物に含まれると解するのが自然であるから,同条2項は,美術工芸品が美術の著作物として保護されることを例示した規定であると解される。他方で,応用美術のうち,美術工芸品以外の量産品について,美的鑑賞の対象となり得るというだけで一律に美術の著作物として保護されることになると,実用的な物品の機能を実現するために必要な形状等の構成についても著作権で保護されることになり,当該物品の形状等の利用を過度に制約し,将来の創作活動を阻害することになって,妥当でない。もっとも,このような物品の形状等であっても,視覚を通じて美感を起こさせるものについては,意匠として意匠法によって保護されることが否定されるものではない。
これらを踏まえると,応用美術のうち,美術工芸品以外のものであっても,実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるものについては,当該部分を含む作品全体が美術の著作物として,保護され得ると解するのが相当である。』

【より詳しい情報→】【著作権に関する相談→】http://www.kls-law.org/

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