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雨の日,挫傷 and 伝線。

研究室を後にしたら、扉が閉まる重い音が聞こえて来ると同時に、傘を研究室の中に忘れたことを思い出した。戻そうと思って振り返ったが、10メートルも離れていない2つの建物間の移動だけだし、もうすぐ授業始まるから、別に傘をささなくてもいいやと思って、そのまま教室に向かった。

研究棟を出るとけっこう降っていることことに気づいて、のちに発表用のプリントが濡れてはいけないと思って、懐に入れて、走って手前の建物に入ろうとした。しかし、濡れた木製の床の上に走り出したら、パンプスが滑ったと気づいた次の瞬間に、床に転んでしまった。プリントはファイル懐に入れられた袋、さらに袋に入れられたファイルから飛び出して床に散らばって、雨に濡れてしまった。スマホも同時にリュックのポケットから飛び出して床に落ちた。

悔やむ余裕も恥じる余裕もなかった。濡れる範囲が広がる前に拾い上げて、建物の中に入らなければと思った。素早くに起きて足元に気をつけながら再び走り出した。

教室に入り、パソコンやプロジェクターを立ち上げてから、配布資料を濡れたままに入り口の机に置いた。先生たちや院生たちが続々と教室に入って濡れたプリントを手に入れて席についたが、ある先生が「すごく濡れてるね」と呟いたのが耳に入った。

チャイムが鳴り、発表が始まる。前置きが濡れたプリントについての事情説明とお詫びだった。発表が無事に終わり、膝あたりからじわじわと痛みがしみてくるのを感じた。その痛みが次第に強くなり、階段を降りると極端に痛かった。きっとひどい傷できているなと思っていて、確認するのが怖かった。

トイレに入って、ズボンを脱いで、便座の上に座ったらその傷が不意に現れた。膝一面に赤と紫が広がっていた。歩いても座っていてもズボンに当たるたびに痛みが心まだ伝わって来ていた。次の授業に入る前にズボンを見たら、膝のところが伝線しているのに次いた。相当強い摩擦だったなと思い知った。

その後も2時間ほど学校にいたが、家に帰って着替えしてからやっと気楽になった。

昔こんなことあったら、きっと自分を責めているなと思った。なんで研究室に戻って傘取りに行かなかったの?なんで足元に気をつけなかったの?なんでギリギリまで研究室に出て、急いで教室に向かったの?と。

でも今は相変わらずそういう思いが頭に浮かんだり、悔しい気持ちと恥ずかしい気持ちを感じたりするが、自分を責めなくなってきた。原因を探しても、できたことが変わらないし、自分を不幸にするだけだと思うようになったから。

原因ではなく、意味を見つける方がポジティブになれるらしいから。

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