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機能と構造を示せば、コーチングにおいてティーチングはあり

「それってあなたの感想ですよね?」と相手から言われてしまうアドバイスには機能は示されているけれど構造が欠けている。

機能とは効用・メリットと言い換えてもいい。「これこれをすればうまく行くよ」という言葉が、機能を示す言葉だ。

構造とは、ある機能を主張している人の、その機能の仕組みや裏付けのことを言う。その機能の有効性、確からしさを担保してくれる仕組みのことだ。

例えば「人間は生まれついて悪である」という性悪説がある。この「人間は生まれついて悪である」という構造に基づいて、「人間の仕事は常に厳しく管理してサボるのをけん制すべきだ」という機能が確からしく主張されるのである。

以上のことから、例えば人に教えを与えるべく機能を主張する人間にが、良質な構造に基づいていることが非常に大事であることがわかる。

できれば教えを受ける側も、教師側の構造を予め理解しておくと良いだろう。例えば性悪説に基づく構造を持つ師からは性悪説に基づく機能が語られ、性善説に基づく構造を持つ師からは性善説に基づく機能が語られる。

つまり、弟子としては、自身の置かれた環境や文脈に照らして、性悪説・性善説のどちらの構造から導かれる機能が有効なのかを判断する見識が重要となるのだ。

問題なのは、世の中には往々にして構造の欠けた機能を語る人がいるということだ。「それってあなたの感想ですよね?」と相手から言われてしまうアドバイスには機能は示されているけれど構造が欠けている。このような機能は確からしさが欠けるわけで、教えを受ける側は大いに警戒すべきだと思う。構造の欠けた機能は逆効果である場合が多いからだ。

「人から自分の意見を否定されるとすぐにカッカ来てしまいケンカになってしまう。」という自分の性格に悩んでいる人がいるとする。その人はできれば周囲と円滑な関係を築きたいと思っているとする。

そのような悩みに対して、例えばある人は「自分の意見を真っ向から否定する人間は常識に欠けているから聞き流せばいい」というだろう。例えばある人は「組織の中で事を荒立てても仕方がない。あなたにメリットがない。相手に従っておくのが無難だよ」というだろう。

こうしたアドバイスは大抵の場合はその人の個人的な経験則から導かれる主観的な考えで、感想に過ぎない。確からしさを担保する構造が欠けている。特に、長期的・持続的に相談者にとって効用があり続けるような構造に基づいていない。

「自分の意見を真っ向から否定する人間は常識に欠けているから聞き流せばいい」というアドバイスは、相談者が他人の意見に耳を貸さず、自分の意見に固執する態度を強める効果を及ぼすかもしれない。短期的にはそれでも良いかもしれないが、長期的に見れば周囲は相談者と対話することを避けるようになり、組織の中で孤立感を深める結果になるだろう。このように、考え得る”負”の構造に対する考慮が欠けたアドバイスは危険だ。

「組織の中で事を荒立てても仕方がない。あなたにメリットがない。相手に従っておくのが無難だよ」というアドバイスは、相談者が自分の意見を主張することを常に躊躇し、指示待ちの態度が形成されることで自分の心の活性度が下がることはもちろん、主体性のない人間と評価されることで組織内での立場が危うくなる可能性があるかもしれない。このように、考え得る”負”の構造に対する考慮が欠けたアドバイスは危険だ。

コーチングの中においては一般にティーチングは推奨されていないが、私は機能はあるが構造の欠けたティーチングこそが戒められるべきものだと思う。逆に言えばそのアドバイスが示す機能の有効性を担保する確かな構造があり、その構造をクライアントと共有できれば、コーチングにおいてティーチングはありというか推奨されてしかるべきだと思う。

以上のことから、コーチがコーチング能力を高めようと思うなら、良質な機能と構造を自らの中に蓄え、ティーチング能力を発動できるようにしておくことがとても大事なことだと思っている。できればたくさんの構造を持っておくと良いだろう。世の中にはたくさんの構造があるが、効用と限界が必ずある。例えば性悪説にも、性善説にも効用と限界があり、特定の文脈において採用できるかどうかは丁寧に吟味する必要がある。コーチが様々な構造に長じたプロフェッショナルになれば、クライアントにとってのメリットは大きくなるだろう。

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