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ペルソナを「意味のイノベーション」の主人公だと考えるという話

デザイン実務家としてペルソナに関わって早や20年あまりが経ちますが、いまやデザインに限らず、製品開発やマーケティング企画などの際にペルソナを活用することは特別なことではなく、デザインの専門領域のみならずビジネス全般でふつうのことになりました。
そのくらいペルソナというツールでありコンセプトは浸透したので、以前のようにペルソナだけを採り上げて教育をしたり、有用性をことさら提言するなんて機会もめっきり減って「いた」わけですが、去年あたりからにわかにペルソナについて語る機会が出てきました。

なんででしょうねぇ?時代が一巡りしたからなのか、理解してはいるものの実際ちゃんと使えるのかな?って疑問を持っているひとが実は少なくなかったからなのか。いずれにせよ、今や当たり前のものとなったペルソナのことを今だからこそちゃんと考え直し、捉え直すことは大切だと感じています。

さて、自身のnoteで一昨年末、「『ペルソナって古くないですか?』という質問を受けた話」というエントリを書いたことは以前に所々で発信しました。
このエントリで、当時デザインを学んでいた学生さん(現在は一人前のデザイナーとしてご活躍です)から頂いた素朴な疑問に対する自分なりのアンサーソングを書いたつもりではいたものの、果たしてここで書いたようなことで足りているのかずっと不安で、その後も時折、自問自答していました。

それからしばらく経って、つい先日社内の同僚たちにペルソナについて話す機会がありました。
多くのひとは経験豊かなのでペルソナのことは理解しているし、作成したこともあるひとが多い中、ペルソナについて誤解されがちな点を批判的に問い直すことで、ちゃんとした理解と解釈を共通知として部内で持ちたい、というのが機会をつくってくれた同僚の意向でした。
その意向に沿うような話題提供をした後、今年ぼくらの仲間になってくれた新入社員の同僚と意見交換をした際にふと気づいたことがあります。
以前、当時学生だった方から突きつけられた素朴な疑問に対する自身のアンサーソングで語りきれていない、と感じていた点についてです。

それは、ペルソナを正解としてのゴールを静的に固定してしまうものだと捉えると日々変化するニーズや状況に応答するダイナミズムに欠けてしまうので、くだんの当時学生さんが指摘されたようにペルソナなんてつくらずに、アジャイルに改良を続けていくほうが今の時代にあっているのかもしれない。
けれども、この方法が通用するのはユーザーや市場のニーズに応答することで改良の緒を見つける漸進的な製品イノベーション領域だけになるでしょう。「意味のイノベーション」を提唱するロベルト・ベルガンティが言う「マーケット・プル」型イノベーションですね。
なぜならば、あくまでユーザーや市場の顕在化したニーズや問題(中には製品やサービスとの関わりによって顕在化する潜在ニーズもあるかもしれません)に対して、企業は常に応答し続けることしかできないからです。
つまり、既存市場において、その製品やサービスが持つ既存の意味を対象とした漸進的な製品・サービス改善はできるだろうけど、そのような営みからは、ベルガンティが言う製品やサービスにおける「急進的な意味のイノベーション(radical innovation of meaning)」は起こせないのです。

ペルソナを、企業がフォーカスすべき人のゴールや価値観から、自分たちは製品やサービスを通して、何をペルソナに対して提案すべきか?既存の常識にとらわれず、ペルソナをもっと良い状態(幸せとか、喜びとか)にしてあげるために、何ができうるか?を考えるためのツールだと捉えると、まさにペルソナは急進的な意味のイノベーションを考えるのにより有用なツールだと考えることもできるのではないでしょうか。
ペルソナは、製品の既存の文脈での使用を前提とした正解としてのゴールのみならず、個別の製品やサービスの既存の世界観からほんの少し距離をおくことで抽象度を上げ、人として渇望するゴールや、大切にしたい価値をより重要に扱うことができるからです。
これが、丁寧につくられたペルソナは賞味期限がながい、といわれる所以です。

ペルソナを、正解が書かれた静的なツールではなく、そこに書かれていることは言語的な言説として固定されているけれども、それを使ってぼくたち自身が相互主観的に製品やサービス、ビジネスの「意味」を問い直し、考え直すためのツールだと捉えるとしたら。
たった一枚の紙に描かれたペルソナが、ぼくたちの想像力と創造性をダイナミックに動かしてくれるのではないでしょうか。

つってね。

<参考文献>
Verganti, R. (2009). Design-driven innovation : changing the rules of competition by radically innovating what things mean, MA: Harvard Business School Press.(佐藤典司(監訳),岩谷昌樹・八重樫文(監訳・訳),立命館大学経営学部DML(訳)(2012)『デザイン・ドリブン・イノベーション』同友館)

※カバー画像は、ぼくの母校(高校)の中庭におわしますプラトンとアリストテレスです。もうすぐ校舎が老朽化で取り壊しになるのでどこかに残しておきたい気持ちで掲載しただけです。本文とは何の関係もありません(笑。あぁ、竪義の庭よ永遠に。(写真は当時の部活の先輩が先日撮影されたものを拝借しました。F先輩(いやM先輩なのか?)勝手に使ってすみません)


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