見出し画像

小説立ち読みボード(1)

ショートショート傑作選-ココロ揺さぶる物語

『ショートショート傑作選~ココロ揺さぶる物語~』

2020年6月1日刊行(電子書籍¥440 文庫本¥924)

短編小説『ショートショート~短編の中に我あり~』、

    『ショートショート~短編故我思う~』、

エッセイ『エッセイ集~ココロ揺さぶるコトバ達~』

全て収録したショートショートの傑作選です。

単品で購入するよりはるかにお買い得な商品になっています。

ショートショートの世界に浸りたい方、必見です!

【ここで少し、立ち読みで本編を公開です!】

『空と心と』

 僕は、今日も空を見上げていた。果てしなく続く青い空は、僕の心そのものを鏡のように映し出しているようだった。今日は朝からすごく清々しい気分で、その気分をそっくりそのまま表すように雲一つ無い大空に向かって、僕は「うーん」と拳を握った両腕を大きく伸ばす。

「さて、今日も書くぞ!」

 僕は、デスクに向かって朝一番の仕事にかかる。僕の職業は作家の端くれだ。自分の書きたい作品を作るのが目標だが、そんな簡単にお金が手に入るシステムはこの世の中に存在しない。つまり、世の中が欲しているものを書くのだ。実はこれが一苦労させるものなのだが、仕事だから仕方が無い。しかし、そんな僕の気持ちも毎日の空模様によって変わってくる。今日のようなカラッとした天気だと、僕は何故だか執筆意欲がわくのだ。これではまるで、キレイに衣がついた天ぷらか唐揚げになった気分だ。しかし、揚げすぎるとよくない。あまり美味しくなくなるのだ。それは、作品がマズくなると言うことだ。

 具体的には天気の変容一つで僕は万年筆を動かす力が変わるのだ。不思議なものだが、僕と空の色合いは一致していく。そんなことを考えながら次のストーリーを絞り出す。ギュッと残りの少なくなった絵の具のチューブを押し出すように。今日の絵の具の色は、もちろん水色。空の色が映し出される。少し出てきた水色の絵の具を元に僕は作品を書き下ろしていく。キレイな色と調和してサラサラと万年筆が動く。そして、少し空に雲が見え始め灰色の雲が増え始めると同時に僕は筆を置いた。

「ここまでかな。今日は。あとは少し陰りを入れるか」 

 美味しくなくならない程度に僕の心と作品を油から上げる。ここからは曇りの空のコントラストに合わせて少しずつ手を入れていく。水色の絵の具を出したパレットに灰色の絵の具を少し出す。そして、それを水色と混ぜていく。「空」そのものをパレットに映し出す。それは作品を更にキレイにしていくように見えるが、実はそうではない。あえて、濁った色を選ぶのは、作品に一捻り入れるためだ。読者はキレイすぎる作品を求めているわけではない。「続きが読みたい」と思わせないと作家の負けだ。「勝ち負けが全てではない」と言う意見もあるだろう。確かにその通りでもある。空がずっと快晴だったら、喜ぶ人も多いだろう。しかし、どうだろう。雨が降ってくれないと困ることもある。つまり、キレイすぎる作品もどこかで不都合いや、場合によっては都合の良いときに濁りを入れる必要があるのだ。

 そんなことを考えながら僕は、ケトルで沸かしたお湯でコーヒーを作る。これも透明な液体を茶色に変える不思議な化学反応だなと思いながら、口元へ運ぶ。猫舌なのをいつも忘れるため、コーヒーの化学反応が起こるのと同じで僕が火傷をするのも当然のことだ。パレットの上で混ざりあう絵の具のように不思議な化学反応を起こしたコーヒーは少し苦味を残した。

 ふと空を見上げる。大きな黒い雲が窓の外に覆い被さっていた。そして、とうとう空は泣き出してしまった。何をそんなに悲しんでいるのか分からないが、僕の心も呼応してなんだかセンチメンタルになる。数年前に母を亡くしてから空の涙が落ちるときは必ず仏壇の前に座り、「作家になる」などとワガママを言ってしまった自分を悔やみ、親孝行が出来なくてごめんと謝ってばかりいる。母は僕のワガママをいつでも聞いてくれて作家になることも決して反対しなかった。こんな親不孝者をずっと温かい微笑みで見ていてくれた。そんなことを空が泣くの日は、いつも考えてしまう。仏壇の前に座って僕も涙を流すと、また自室に戻る。すると、窓の外には少し晴れ間がのぞいていた。

「今日の空は落ち着かないな。まぁ、それは僕も同じか」

 そう考えると僕の表情は少しやわらいだ。そして、また万年筆を手に取り、原稿に文字を入れていく。空模様と同じように今回の作品は紆余曲折を経て完結に至りそうだった。

 これはきっと「空」の移り変わりが、魔法の天気図を生み出し、僕と読者を繋ぐ作品をも創り出していくのだろうと思わずにはいられなかった。

―完―

いかがでしたでしょうか?

ショートショートの中から一作品目の『空と心と』を全編ノーカットで掲載させていただきました。

この他にも数多くの作品が収録されています。

累計600部を超えるダウンロードを記録した『ショートショート~短編の中に我あり~』を含む今作を読まない手はないですよね?

お気に入りの作品が見つかると思いますので、ぜひダウンロード、購入してみてください。

購入は下記画像リンクから。

画像2

画像3

画像4

画像5

画像6

画像7

dブック

画像9

画像10

画像11

画像12

画像13

ブックパス

※BCCKSのみ文庫本販売あり(電子書籍データ本付き)

小説の立ち読みの掲載、プライベート日記の連載を主に更新していきます。 フォロー、likeお待ちしております。 よろしくお願いします。