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#12 ラスベガス裏事情

ネバダ州で車を走らせていると、まさにサムネの写真のような光景が一面に広がります。こんな何もないところに、突如としてネオンがビカビカの飲む!打つ!買う!の街が現れるのです。ラスベガスってすごいところです。


ネバダ州は、州法で正式にギャンブルが認められている州である。ラスベガスを離れたとしても、そこがまだネバダ州内なのであれば、ギャンブルは合法なのである。

ラスベガス街、メインストリート沿いのホテルは華やかで高級感があふれているものの、カジノでの利益を期待しているためホテル自体はとても安い。えー、こんなに豪華でこんな値段なのー!? てな感じである。ところが、街からほんの少し外れた、更に安いホテルというのは裏寂れていてとても危険である。というのは、ギャンブルにお金を投資しすぎて、すってんてんになり、街のホテルに宿泊できなくなった客などが滞在しているからである。ギャンブルで巨額の富を夢見ている人がすべてをなくした時、彼らは次にどんな行動を取るであろうか。もちろん、どうにかして掛け金を捻出するであろう。―人の物を盗んででも。だから、街から外れた安いホテルに宿泊する時は、持ち回りの物に十分注意しなければならない。

ラスベガスを後にした私は、2時間ほどハイウェイを走った後、トイレ休憩を取ることにした。ハイウェイの対面沿いには遊園地らしきものがあり、その向かいにはホテルがある。ネバダ州内なので、ホテルにはもちろんカジノがある。

そこそこの大きさのホテルである。私はカジノからホテルへ入った。カジノ内の客は、特にギャンブルに狂っているようには見えない。至ってノーマルだ。たまに生活感まるだしの地元客みたいな人が、子供を連れて遊んでいるけれど。

私はカジノを横切り、トイレへ向かった。トイレ前の公衆電話で、一人の老人が大声で何かまくし立てていた。

「とにかく急いで送ってくれよ! 頼むよ、たいへんなんだ。急いで頼むよ」

で、でかい声だなー。嫌でも話は耳に入る。

「え? そんな、頼むよ。急いでくれよ。もう、車も売っちゃったし、家も抵当に入ってしまったんだ。もう、何にもないんだよ。頼むよ…」

一気に気分が暗くなった。このおじさんは誰かにお金を無心しているのだろうか。それとも、何か他のことをお願いしているのだろうか。おじさんは大きな声で"プリーズ"を繰り返していた。

トイレから出てきた後も、おじさんは電話で"プリーズ"を繰り返していた。煌びやかな不夜城の裏側を見てしまったような気分だ。

私はホテル内のマックでお持ち帰りの食事を注文することにした。私がレジの前へ立つと、歯の欠けたレジの青年は、面倒くさそうに注文を聞いてきた。チーズバーガーを注文すると、さも大儀であると言わんばかりに、やる気なくレジを叩いた。私が財布を取り出しお金を払うとき、彼の目が財布の中をすかさずチェックしたところを、私は見逃さなかった。幸い、私は大金を持ち歩いてはいない。もしも、大金を持ち歩いていたとして、それがこのレジの青年に知られてしまったら。

青年は仲間に大金を持ったやつがいると仲間に伝え、仲間は私をポコンと殴り、私の財布を持っていってしまうだろう。そして、後でそのお金は仲間と青年とで山分けにし、ギャンブルに浪費するのだ。

表面は何も悪いところはなさそうな場所でも、油断をしてはらないないと肝に銘じた。

私は心も新たに、ロサンジェルスへの帰路へついた。長いドライブの間に見える景色は、乾いた土とそこに一生懸命しがみついている植物たちのみである。照り返す太陽の元で、土は乾きつづけ、やっとの思いで生えている草は、水を求めて地を這うように伸びていく。ネバダの砂漠は、エジプトの月の砂漠とはずいぶん違うイメージだ。ネバダの砂漠は、もっと平らで、もっと無骨だ。暑気がゆらゆらと立ち上る向こうでさえ、ただひたすらに乾いた景色が続くのだ。

こんなところに、空港を作り、カジノ街を築き、全米でも有数な行楽地が出来あがったのだ。
所狭しと立ち並ぶ、派手な高層ホテルやピラミッド型のホテルの向こうには、赤くて巨大な渓谷が覗ける。そんな無秩序な景色の元で、人々は自分の運にお金を費やす。

運ってなんだろう。お金ってなんだろう。
サイコロを一振りしただけで、億万長者になれたとしたら…。
もうバックミラーにも写らないラスベガスの街を思いながら、私はハンドルを握った。

(つづく)


ここで私は一度カリフォルニア州に戻り、ロサンジェルスに入ります。ロスの近くのアーバインという街に会社の先輩がちょうどMBA取得のための社費留学をしていたので、アメリカで会うことを退職前に約束をしていたのです。なんかもう完全に距離感がバグってます。私からすれば、ユタとかネバダからカリフォルニアに戻るなんて、近所にドライブって感じだったんでしょうね。

せっかく東に進んだ旅ですが、気まぐれに西に戻ります。なんか、変な動きをする台風みたいです。さて、そこで私は一流企業戦士(MBA取得留学生)たちと出会うのです。

#ラスベガス #すべての背徳を背負う街

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