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ジェイソン・リンドナーインタビュー(ジャズ批評掲載記事 2005)

もう随分と前に書いたインタビュー記事を探している方がいらっしゃるようなのでここに上げて置こうと思う。これは2005年にジャズ批評へ寄稿した、ニューヨークの鍵盤奏者ジェイソン・リンドナーのインタビュー記事。近年ではデビッド・ボウイの遺作アルバム「★(ブラックスター)」の制作に関わっていることが知られている上、何度か来日も果たしているので、(クラウディア・アクーニャ(Vo)、ジョジョ・メイヤー(Dr)、マーク・ジュリアナ(Dr)などのグループで)日本でも知名度が上がってきたからだろうか。

ジェイソン・リンドナー:プロフィール 1973年生まれ ニューヨーク州ブルックリン出身の鍵盤奏者、作曲家、アレンジャー、プロデューサー。1990年代半ばよりニューヨークのウエストビレッジにあるジャズクラブ「Smalls」にて自己のビッグバンドを率いてレギュラー出演し、1998年に1stアルバム Premonition をレコーディング、2000年にチック・コリアのレーベル「Stretch Records」よりリリースされる。同時進行でエレクトリックバンド、サイドマンとしても活躍し、2006年よりマーク・ジュリアナ(Dr)やアヴィシャイ・コーエン (Tp)らと「Now Vs. Now」を結成。2015年にデビット・ボウイの遺作となった「★(Black Star)」のレコーディングセッションに参加し、アルバムはグラミー賞にノミネートされていた5部門全てを受賞した。

確かに近年の彼の活躍ぶりは目を見張るものがある。私がこの記事を書いた当時は、日本では殆どその名が知られていなかった。今の彼は、エレクトロニックミュージックの世界でバリバリのプレイをしているけれども、私が初めて彼の演奏を観たのは、ビッグバンドのリーダーピアニストとしてだった。当時から彼は複数のプロジェクトで活動していて、ビッグバンドと同時進行でエレクトリックバンドのギグも行っていたが、その時は主にピアノを弾いていて、時々ハモンドオルガン、フェンダーローズやウーリッツァーなどを使う程度だったように記憶している。優れた演奏技術はもちろん、アレンジや作曲の類まれな才能で毎回斬新なアイデアを用いてマニアックな聴衆を湧かせていた。そういったマニアックなリスナーからは熱烈に支持されていたし、ジャズのメインストリームのわりと中心にいた人物ではあったように思うけれども、今ほどはメジャーではなかった。

このインタビュー記事を書いた当時は彼のビッグバンド結成10周年に当たる年で、同年にジャズギャラリーでのライブレコーディングも果たしている。そこから本格的に現在のようなエレクトロにシフトしていったきっかけとはやはり、2006年頃からギグを始めた「Now Vs. Now」(リンドナーを中心とした、マーク・ジュリアナ(Dr)パナヨーテス・アンドリュー(B)とアビシャイ・コーエン(Tp)〔 注)正式なメンバーだったか定かではないが当時はアビシャイも一緒に演奏していた。〕による、プログレッシヴでロックテイストがあるどこかアンビエントでファンキーなエレクトロニックバンドだろうか。(リンドナーの表現によれば、「Progressive funky raw futuristic trippy earthy universal honest minimal electric eclectic dynamic intense thrilling emotive cool direct sexy imaginative」らしい。)

それと、ほぼ同時期に、ミシェル・ンデゲオチェロ(B,Vo)のツアーに参加するようになって彼女からの影響が少なからずあったのではないかと思う。というのも、彼女はプロデューサーとしても非常に有能な人のようで、「Now Vs. Now」のファーストアルバムも彼女がプロデュースを手掛けている。

現在は当時のビッグバンドでは殆ど演奏はしていないが、「Breeding Ground」という新たな11ピースの、ホーンセクションだけでなくストリングスやボーカルも入れたエレクトロ-アコースティックなオーケストラも展開している。それも、以前のビッグバンドとは全く違うタイプの音楽で、常に新しいものをクリエイトしていこうとする彼の動向と才能には本当に目が離せない。2015年にはアルトゥロ・オファリル&アフロ・ラテン・ジャズ・オーケストラによる「The Offense of the Drum」というアルバムに曲を提供してグラミー賞も受賞している。

インタビュー後の彼の主な活動について少し書いてみました。当時はまだ日本でその名が知られていなかった彼を日本に紹介する為にこの記事を書きました。ニューヨークだからと言って、本物の音楽ばかりあるわけではないと気付いていく中で、メディアでもなく何の情報からでもない自分で見つけた本物のミュージシャンというのがジェイソン・リンドナーでした。こういう音楽をもっと日本のリスナーや若いプレイヤーの人達に聴いて欲しいというのが願いで、それは今でも変わりません。ジャズライターの方々、レコード会社やプロモーターの方々にもCDを聴いてもらって、たくさん良い反応が返ってきました。その中で、幸運にもこの記事を書かせて頂く機会を得て、インタビューが実現したという経緯があります。その際にご協力頂いた方には本当に感謝しております。真面目で熱心なリスナーの方々のご期待に添えているかはわかりませんが、何かのお役に立てたら幸いです。

NYジャズの昇龍 ジェイソン・リンドナー登場

ニューヨークで最も忙しいジャズ・ミュージシャンを一人あげよ、といわれた場合、今のジャズを愛する多くのファンがジェイソン・リンドナーの名を挙げるに違いない。スモール・コンボ、ビッグバンドのリーダーであり、ピアノ、オルガン、キーボード奏者であり、作曲家、編曲家であり、複数のプロジェクトを常時、同時進行している恐るべき才能の持ち主だ。現代ジャズの鍵を握るリンドナーのインタヴューをお届けしよう。

—–ビッグバンド結成10周年おめでとうございます。率直な今のお気持ちは?

ジェイソン・リンドナー 今日まで長く続けてこれた事を誇りに思うよ。参加してくれた全てのプレイヤーに対して感謝の気持ちでいっぱいだ。そして、もちろん、「スモールズ」の頃からずっと一貫して僕らを信頼し続けてくれたミッチ(スモールズのオーナー)にも本当に感謝している。

—–ビッグバンドを作ったきっかけは?

とても簡単だ。その当時(90年代)多くのジャズクラブでは週に一度、大抵月曜日にビッグバンドを入れていたんだよ。それで僕はスモールズも例外であるべきではないと考えたんだ。

—– あなたはいつもクリエイティブで勢いのあるミュージシャンをメンバーに迎えていますね。

時がたつにつれ、申し分ない相性のいいプレイヤーがバンドに自然と引き寄せられたんだよ。そして家族同然となった。僕は彼らのユニークなサウンドやスタイルに引きつけられた。互いに尊敬し合い、たくさんの愛とスピリットを持って一緒に演奏している。

—–他のプレイヤーとの間で非常にいいコミュニケーションが出来ているのですね。

僕はとても恵まれていると思う。このグループで様々なプレイヤーから多くを学ぶことが出来るからね。互いに心地よく自由でいられるように、それぞれのメンバーが一緒に演奏する為に様々なことを僕に教えてくれる。口に出して話す時もあれば、ただ、演奏を通して伝え合うこともある。

—–よりクリエイティブであり続けようと意識していますか?

創造力は水のように流れ、炎のように燃え上がるものだろう。始まりもなければ終わりもない。僕はそれが流れてくるように源をオープンにしていようと心がけている。

—–子供の頃はどんな音楽環境で育ちましたか?

僕はニューヨーク西部にある軍事基地内で産まれてブルックリンで育った。子供の頃は一人で遊ぶのが好きだったね。父はプロのピアニストで、彼を見て聴いて育ったんだ。直接教わった事はないけどね。恐らく父から最も影響を受けている。ピアノは7歳から始めた。父はよく僕をギグやリハーサルに連れて行ってくれて、僕もそれを見るのが好きだった。ジャズに入るまではロックやブルースを好んで聴いていたよ。B.B.キングやAC/DC、ジミ・ヘンドリックスが好きだった。

—–初めて聴いたジャズのレコードは?

父のコレクションから自分でミックステープを作った。ディジー・ガレスピーやキャノンボール・アダレイ、ジョン・コルトレーン、あとは何だったか忘れた。

—–ジャズ以外ではどんな音楽を聴いていますか?

僕はあらゆる種類の音楽を楽しむし興味も持っている。ミュージシャンとして、あらゆるタイプの音楽から様々なものを学ぶことが出来ると思う。世界は1つ、音楽も1つ、人種も1つ、人類という人種だ。音楽は口に出して言う言葉よりももっと深いものを伝える。知っている言葉の数が多ければ多いほど、よりよく考えを伝えることが出来る。音楽も同じだよ。

—–あなたはバリー・ハリス氏(p)のジャズ・ワークショップに参加されていたそうですが、その経験はあなたの音楽にどんな影響を与えましたか?

僕は最初助手ではなかったけど、とても熱意のある生徒だったんだ。彼のクラスに出来る限り通っていたよ。僕がいつもヴォーカルクラスで歌の伴奏をして、それを聴いて先生が教える。こんなふうに彼のクラスで手伝うようになって僕は良い生徒になった。バリーは本当に素晴らしい先生で、クラスは今もまだ続いていて、生徒達は皆、彼を敬愛している。バリーはとても賢明で知的で聡明でソウルフルな人だよ。彼は僕に自分自身で学ぶ方法を教えてくれた。これは偉大な教師のみが伝えることのできるものだ。

—–過去にリリースしたアルバムについて教えて下さい。

ビッグバンドは毎週月曜にスモールズで演奏していた。それはサウンドを発展させるのに本当に役立ったよ。まずはGRP/Impulse!と契約し、1stアルバム「Premonition」を録音した。しかしプロデューサーはレギュラー・メンバーを他のもっと有名なプレイヤーと交替させて、さらにトランペットを加えようという考えを持っていた。でも僕は同意しなかった。グループのvibeが変わるだろうとわかっていたからね。最終的にはチック・コリアのレーベルStretch Recordsから発売された。 2ndアルバムの「1、2、3、ETC.」はメンバーのMark AyzaとGiulia Valleと僕が3人で努力して作った力作だよ。僕らはスペインで一緒に演奏していたからね、それで録音することにしたんだ。

—–3rdアルバム「Live/UK」は2001年ロンドンでのライブ録音です。メンバーとは本当に素晴らしいコンビネーションですね。

ツアーをする前からよく一緒に演奏していたのでとても打ち解けたメンバーだった。(ジミー・グリーンsax、オマール・アヴィタルb、マーロン・ブロウデンds)。それぞれのアイデアを持ち込んで演奏したんだよ。BBCラジオで放送する事は知っていたけど、CDになるとは思わなかった。時々ミュージシャンはスタジオでの録音やライブ録音でも、余計な意識が邪魔になっていつもと違ったようになることがある。間違えたくないからね。でも、この夜の僕らはとても楽しんでいて何の心配もなく、ただ自由に演奏していた。この録音はとても気に入っているよ。

—–ソロの時、あなたは何を感じて演奏していますか?

何も考えないようにしている。ただ音楽を通して感情のままに言葉ではない何かを伝えようとする。I pretend that I am not playing,only listening.

—–今後の活動について教えて下さい。

「Big Pump」という新しいグループを作った。とってもエキサイティングなプロジェクトだ。ダニエル・フリードマン(ds)アヴィシャイ・コーエン(tp)もフィーチャーしている。エレクトリック・バンドもクラウディア・アクーニャ(vo)やババ・イスラエル(Open Thoughtのラッパー)などスベシャルゲストを迎えて録音する予定だ。この夏にはフレッシュ・サウンド・レーベルからニューアルバムが発売される。タイトルは「Ab Aeterno」、オマール・アヴィタル(b)やLuisito Quintero(per)が参加している。それに、今年はビッグバンド結成10周年を記念してライブ録音をしようと思っているよ。他にはクラウディア・アクーニャやキューバ出身のダフニス・プリエト(ds)のグループに参加しているし、イスラエル出身のアナット・コーエン(sax,cl)の新作「Place&Time」やアメール・ラリュー(vo)の「Brave Bird」というアルバムにも参加した。ババ・イスラエル、ファラオズ・ドーター、ブラジリアン・シンガーのKarinaとも共演しているよ。彼女は将来有望なシンガーだね。最近ではローリン・ヒルとスタジオで一緒に仕事をしたし、彼女のギグの為のリハーサルも終えた。ニューヨークではすぐにいろんな事が実現するんだよ。Amazing!

—–ニューヨークのジャズシーンは今どんな段階に来ていると思われますか?

とてもエキサイティングだ。いろんな場所から本当にたくさんの若い演奏家がここにやってくる。いろんな音楽が混ざり合って新しいものに発展している。エレクトロニクスやテクノロジーがごく自然に音楽の一部を担うようになってきた。毎晩、ニューヨークではサムシング・グレイトが起こっているんだよ!

#ジェイソン・リンドナー #ニューヨーク #スモールズ  
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