うつ病と仕事と私



僕は仕事がきっかけでうつ病になった

のっけから「仕事でうつ病になりました」なんて告白しているアラフォー男の書くことなんて、誰が読むものかと一蹴せず、ちらっとでもいいので目を通してほしい。僕は、精神的な病気に悩まされている人、そうじゃなくても何をやってもうまくいかず、「成功体験」を積んでこれなかった大学生にも向けて書くつもりだから。

ちょっとネガティブな文章に感じてしまうかもしれないけれど、仕事で「うつ病」を発症してから10年ほど仕事をしてきた社会人の体験として一助となればうれしいし、ダメな社会人としての反面教師でもよいのでご覧いただければと思う。とりあえず、僕が今までやってきた仕事のことから書いてみよう。

フリーライターのときは、仕事が楽しくて楽しくて仕方がなかった

大学三年生のころに、縁があってフリーのライターをはじめた。文章なんて書いたことなかったけれど、雑誌が好きだった僕はうれしかった。就職はせずに、そのまま7年くらいライターとして活動した。雑誌、書籍、Webと、自分が子どものころに憧れていた雑誌にも多く関わった。仕事が楽しくて仕方がなかった。承認欲求が満たされていた時期だった。

会社員となり、得られない成功体験からうつ病に

これからもっと伸びるかもしれないという矢先、諸々の理由があって誘われるかたちで28歳にして初めて会社に就職することになった。イヤでイヤで仕方がなかった。「会社員なんて、自由な生き方ができない!」なんてことを考えていたわけじゃない。もう中学生くらいから、集団で作業をするということに苦手意識があった……というより、恐怖心を抱いていたからだ。

入社時、僕はプロデューサーとして年齢的にはそれなりの待遇で迎えられた。そして、ひとつの集団でものを作るプロジェクトをいくつか任された。他社やフリーランサーと折衝をしながら、ものを作る仕事。本来であれば、それほど難しい仕事ではなかったかもしれない。だけれども、僕はプロジェクトを途中で放り投げるようなかたちで、わずか入社半年で会社を休職することになった。ライター時代にも仕事で失敗したことはあった。でも、自分が至らないばかりに迷惑をかけたという思いが、「失敗の体験」として刻み込まれ、のちに僕を苦しめることになる。

働くことが怖くなり、寝てばかりいた。いろんなビジネス本や自己啓発本を読み漁ったけれど、一時的に気持ちが回復する程度で、心に響くものは少なかった。

マンガ編集者になるものの……

3ヶ月の休職を終え、復職後に別の部署に異動になった。3年半ほど所属したあと、また別の部署に所属して半年ほどで退社。初めての転職活動をすることになった。いわゆる転職エージェントに頼った。不安はあったけれど、「以前から憧れていたマンガ編集者としての道を目指そう」と心に決め、転職エージェントの方の助力もありなんとか編集プロダクションに入社できた。だがその後「会社員のマンガ編集者」としての活動は長くは続かなかった。うつ病で辞めては入社しの繰り返し。転職エージェントの「在籍一年程度だと履歴書が汚れますよ」という言葉を思い出し、恐ろしくなった(本当は一年そこらで辞めても大丈夫なので、気にしないでほしい)。

絶望に効いた本

成功体験は得られず働くことへの恐怖心は募るわ、うつ病も寛解しないわで、妻子もいるのに絶望的な気分になった。そんなとき、フリーライターのときに買った一冊の文庫本を本棚から取り出した。当時、電気通信大学教授だった(2017年現在は退官)哲学者、中島義道が書いた『働くことがイヤな人のための本』だ。

フリーライター時代に読んだときは、少なからず仕事で失敗して落ち込んでいたのだろう。「君はきちんと働ける」といった感じの自己啓発的な内容なのかと思ったら、思わず面をくらった。「一部の者は成功する。だが多くの者は夢やぶれて失敗する理不尽な社会なのだ」と著者は書いていた。なんだか悲しくなり、僕はこの本を本棚の奥にしまいこんだ。

だがそれから10年経った今、あらためてこの本を本棚から引っ張りだして読んでみた。

”人生とは「理不尽」のひとことに尽きること。思い通りにならないのがあたりまえであること。いかに粉骨砕身の努力をしても報われないことがあること。いかにのんでんだらりと暮らしていても、頭上の棚からぼたもちが落ちてくることがあること。いかに品行方正な人生を送っても、罪を被ることがあり、いかに悪辣な人生を送っても、称賛され賛美されることがあること。そして、社会に出て仕事をするとは、このすべてを受け入れるということ、その中でもがくということ、その中でため息をつくということなのだ。”

ガツンときた。たしかにメンタルが弱いながらも、僕は僕なりに努力してきた。それでも、うまくいくときはいくし、いかないときはいかない。それは、たとえ努力しなくても同様に。世の中理不尽なのが当たり前なのだと。さらにその後、あるクリニックの医師に「双極性障害」と診断された。双極性障害とは、ハイテンションな「躁状態」と「うつ状態」とを繰り返す病気のことである。薬で抑えられるものの、治る病気ではない。そこで、やっと合点がいった。ああ僕は、そういう星のもとに生まれたのだと。これは、生まれつきのものなのだと。厭世的でも悲観的でもない。晴れ晴れとした気持ちだった。

今後の僕へ、そして皆さんへ

というわけで、今は細々とだけれど、フリーランスの仕事をしている。今後どうなるかはわからないけれど、会社員に戻ることは考えていない。自分で仕事をセーブしながら、双極性障害と付き合っていくつもりだ。そして精神的な病(双極性障害や発達障害、統合失調症など)を抱えている人、会社で仕事をすることが怖くてたまらない人に対して、無責任なことはいえないけれど、会社員という道ばかりでないことを知ってほしい。何かしらフリーランスの道が開けているのであれば、それを気軽にやってみる。失敗してもいい。親に頼れるのであれば、ニートだっていい。ダメでもいい。海外にバックパッカーとして旅行に行ってみるのもいい。僕(達)に必要ないのは、おそらく仕事で成功した人の自己啓発本なんじゃないかと思う。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?