301. 発達性協調運動障害児における視覚的バイアスの増加: 視覚触覚的時間順序判断課題による証拠

Increased visual bias in children with developmental coordination disorder: Evidence from a visual-tactile temporal order judgment task

Nobusako S, Osumi M, Furukawa E, Nakai A, Maeda T, Morioka S. Hum Mov Sci. 2021 Feb;75:102743. doi: 10.1016/j.humov.2020.102743. Epub 2020 Dec 17. PMID: 33341403.


背景:これまでの研究から、発達性協調運動障害(developmental coordination disorder:DCD)児は視覚に大きく依存して運動を行っており、それが不器用な動きの一因になっている可能性が示唆されている。しかし、DCD児の知覚の偏りを客観的かつ定量的に調査した研究はほとんどない。

方法:視覚触覚時間順序判断(temporal order judgment:TOJ)課題を用いて、DCD児19名と年齢・性別をマッチさせた定型発達児19名の知覚バイアスを測定・比較した。視覚・触覚TOJ課題の結果を分析することによって得られた、「視覚が先」と「触覚が先」の判断確率が等しい(50%)ことを示す主観的等値点を知覚バイアスの指標として用いた。さらに、知覚バイアスに関連する変数(全参加者の年齢と手先の器用さ、DCD児の運動機能、自閉症スペクトラム障害および注意欠陥多動性障害の特性、抑うつ症状)を相関分析により検討した。

結果:DCD児は定型発達児に比べて視覚バイアスが有意に強かった。全体的な相関分析の結果、視覚バイアスの増加は手先の器用さの低下と有意に相関していた。

結論:DCD児は視覚バイアスが強く、手先の器用さの低下と関連していた。

※コメント(勉強用)
introduction抜粋-
発達性協調運動障害(DCD)は、微細運動(手書きや靴ひも結びなど)や粗大運動(スポーツや着替えなど)の不器用さを特徴とし、学齢期の子どもの5~6%が罹患しており、小児期の運動障害として最も一般的である(APA, 2013; Blank et al.) DCDの子どもは他の発達障害と診断されることが多く、その中で最も多いのが注意欠陥多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)で、両障害の重複は約50%である(Gillbergら、2004;Goulardinsら、2015)。自閉症スペクトラム障害(Autism spectrum disorder:ASD)もDCDと併発する(Green et al., 2009; Kaplan, Crawford, Cantell, Kooistra, & Dewey, 2006; Sumner, Leonard, & Hill, 2016)。さらに、DCDの子どもは日常生活のパフォーマンスに影響を受けるだけでなく、自尊心の低下や不安や抑うつのリスクの増加といった心理的影響もある(Cairney, Rigoli, & Piek, 2013; Lingam et al.)
DCD児では、運動を行う際に様々な感覚情報の中で視覚情報を優先する(つまり視覚依存を持つ)ことが、不器用な動作の原因の一つとして挙げられている。いくつかの先行研究では、DCDの子どもは運動制御時に視覚依存を示す可能性が示唆されている(Bair, Barela, Whitall, Jeka, & Clark, 2011; Bair, Kiemel, Jeka, & Clark, 2012; Biancotto, Skabar, Bulgheroni, Carrozzi, & Zoia, 2011; Deconinck et al、 2006; Deconinck et al., 2008; Miller & McIntosh, 2013; Wann, Mon-Williams, & Rushton, 1998; Zwicker, Missiuna, Harris, & Boyd, 2010)。このような視覚入力への依存の高まりは、運動課題の成功に悪影響を及ぼす。しかし、このような行動観察だけでは、DCDの子どもたちが他の感覚よりも視覚的な手がかりに偏るという確たる証拠は得られない。

discussion抜粋-
重要なことは、今回の結果から、この視覚刺激への偏りが、触覚刺激への偏りではなく、手先の器用さの低下と関連していることが示されたことである。今回のTOJ課題の開始前に行われた簡易テストでは、参加した子どもたちの中に視覚や触覚に問題のある子どもはおらず、全員が「視覚」や「触覚」という言葉を表現できることが確認された。したがって、DCD児に観察された視覚の偏りの増加は、単純な触覚障害によるものではなく、言語表現(出力、反応)の問題に起因するものでもなかった。手の触覚は、物体の把持、物体の操作、手書きなど、正確で素早い手先の器用さの前提条件である(Augurelle, Smith, Lejeune, & Thonnard, 2003; Monzee, Lamarre, & Smith, 2003; Zatsiorsky & Latash, 2004)。したがって、DCD児に見られる視覚的偏見の増加は、手先の器用さの低下と関連している可能性がある。
DCDグループ内の分析では、知覚の偏りとASD特性、ADHD特性、抑うつ症状との相関は明らかにならなかった。今回の結果と一致して、視覚触覚TOJ課題を用いた先行研究では、ASD被験者とTD参加者の間に有意差は認められなかった(Poole et al.) 本研究と同様の視覚触覚TOJ課題を用いてADHDと抑うつ症状のある子どもを評価した研究はない。したがって、本研究により、DCD児における視覚触覚知覚の偏りとASD特性、ADHD特性、抑うつ症状には相関がないことが明らかになった。


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