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創作怪談「廃村に行ったら友人がおかしくなった話」

これは、私が大学生の頃に本当に体験した話だ。  

私はとある地方の大学に通っていた。
ある日、サークルの友人Kと「心霊スポット行ってみようよ」という話になった。  

他の友人にも声をかけたものの、誘いに乗ってくる人は居らず、結局2人で近所にあるという廃村に深夜に乗り込むことになった。  

私たちは初めての経験に心を躍らせつつ車を走らせた。  

山道を奥まで走っていくと、目の前に未舗装の細い道が現れた。そこから先は廃村まで歩きとなった。  

携帯の電波も届かないような山奥を懐中電灯の明かりだけを頼りに進んだ。急に現れる地蔵や朽ちた祠のようなものにビクビクしながらも、私たち2人は先へと進んだ。不気味な雰囲気でいかにも心霊スポットという感じだった。  

15分くらい歩くと、少しだけ広い場所に出た。
暗くてよく見えないが、奥には民家らしきものの影も見えた。  

私たちは廃村に到着した。  

「うわー!雰囲気あるなー!こえー!」
Kのテンションが急に上がった。私は正直かなりビビってたので小さい声で「そうだね」としか言えなかった。  

私たちはとりあえず廃村をぶらぶら歩いてみることにした。  

20分ほどだろうか。私たち2人は無言で廃村の中を散策した。意外と広い。雰囲気は不気味だが、何かが起きるわけでもない。飽きてきたし疲れてきた私たちは少し休憩する事にした。  

するとKが妙な事を言い出した。  

「…なあ、唐揚げって2種類あるじゃん?衣が厚ぼったくてボテっとしたやつと、衣が薄くてカリッとしたやつ、あれってさ、なんか衣が厚い派vs薄い派の2勢力で争ってるような感じがするけど、実際は衣が薄い方が好きな人が大多数じゃない?」  

私は「心霊スポットでする話か?」と思ったが、Kは普段から割と空気の読めないところがあったので、私は特に驚きもせず、黙って聞いていた。  

「それでさ、俺考えたんだよ。
"俺、最近は一周回って衣の厚いからあげの方が好きだな〜" って言えば通ぶれそうじゃない?
"固いプリンが好き" とか "やわやわのうどんが好き" みたいなさ。
"1周回って俺はこれが好き" みたいなのってカッコよくない?タモリさんみたいで。どうかな?」  

彼は私にそう問いかけてきた。
心霊スポットでする話ではないなと思いながらも、私は問いかけられたからには答えないといけないと思った。  

「いや、どうだろうね。衣が厚い唐揚げって冷凍食品の唐揚げみたいなタイプのやつでしょ?あれの揚げたてって食ったことある?結構うまいよ。
あれが好きな人は結構いると思う。居酒屋とか弁当屋とかの"揚げたてが前提"みたいなお店だと、衣が薄いのが多いじゃん?だからそっちの方が美味しいような感じがするけど、多分お前が思ってるよりは意見が分かれると思うよ?
固めのプリンとかやわやわのうどんも同じ。最近ライブドアニュースのグルメ記事とかでもよく見るよ。そういうの人気出てきてる、って。
自分のイメージだけで物事を考えてたら、視野の狭い人間になっちゃうんじゃないかな。
まあタモリさんみたいな振る舞いに憧れるのはすごくわかるけど」  

廃墟の前に腰掛けながら、私たち唐揚げについて討論をした。Kは私の返答に少しシュンとしてしまっていた様子だった。  

「…よし、何も起こらないし、どっか建物の中入ってみようよ!あの廃墟なんか結構立派だし、入っても大丈夫そうじゃないかな?」  

変な空気になったので、私から提案した。
私たちは廃墟の中でも比較的新しそうで立派な建物の中に入る事にした。  

部屋に散乱している新聞やカレンダー等を確認すると、1970年代くらいまでは人が住んでいたようだった。床もフローリングだった。
私たちは床を踏み抜いたりしないよう、慎重に歩を進めた。流石に深夜の廃墟の中は、その外観とは比べ物にならないくらい不気味だった。  

一階の散策が終わろうとしていた頃、Kがまた妙な事を言い始めた。  

「なあ、さっきの唐揚げの話やっぱり納得できないよ。
実はさ、さっきTwitterでアンケート取ったんだよ。唐揚げの衣、厚いのと薄いの、どっちが好きか?って。
そしたらさ、やっぱり薄いのが好きな人の方が圧倒的に多いんだよね。どう思う?」  

と、私にスマホの画面を見せてきた。
薄い派が8票、厚い派が2票だった。  

「いやこんな票数の少ないアンケートになんの意味があるんだよ。10票しか入ってないじゃん。たまたまお前のフォロワーが薄い派多数だっただけだろうよ」  

「まあそうかもしれないけど…」  

不気味な廃墟の中で、友人からTwitterのアンケート結果を見せられるなんてレアな経験だったかもしれない。  

一階をを散策し終えた私たちは階段の前に来た。
二階は流石に危険じゃないかと思ったが、階段を上ってみる事にした。
ギシギシと軋む音は多少するが、意外と大丈夫そうだった。  

階段を上り切るとすぐに異変に気付いた。
床や壁に赤黒い大きなシミが大量にこびりついていたのである。
私はその光景に思わず悲鳴を上げてしまった。  

「ヤバイヤバイ!ここはもう出よう!やばいってマジで!」  

私たちはパニックになりながら、 2人で廃墟を出た。  

「ハァ、ハァ、怖かったぁ〜!もう帰ろうぜこんなところ。なんか思ったよりやばい気がする!」  

私が言うとKはこう答えた。  

「ハァ、ハァ、あのさ、帰るのはいいんだけど、さっきの話またしていい?」  

また唐揚げの話か。流石にくどいなと思った。  

「いやさっきさ、固いプリンとかやわやわのうどんが本当に今人気なのかと思って調べてたんだけど、ライブドアのグルメのニュースにもそんなの出て来なかったよ?本当なの?さっきの話」  

こんな状況でも呑気にそんなこと言っているKに私はすこしイラッとしてしまった。  

「あのさぁ、もうよくない?その話。俺たちは心霊スポットに来てるんだよ?
なのにさ、唐揚げがどうのプリンがどうのってマジで何言ってんの?
お前マジでそういうとこあるよな。こないだ後輩たちが『飲み会でお前と同じ卓にだけはなりたくない』って言ってたぞ?
今日は俺しかこの場にいないから良いけどさ、ほんと気をつけた方がいいって。俺はお前のために言ってんだよ?」  

多少言い方がキツかったかもしれない。
Kの顔も険しくなった。  

「いや、その "○○がこう言ってたぞ" っ言い方やめてくれよ。直接言われるより傷つくんだから。
ていうかさ、お前こそ友人に対する不満を他人が言ってたっていうテイで言うのやめろよ。
要は自分の不満を言いたいけど発言の責任は負いたくないんだろ?
お前はそういうとこあるよな。なんかやり方が卑怯だよ」  

流石に私もムッとしてしまった。
なんでここまで言われなきゃいけないんだ。  

「…もういいよ、わかったよ。帰ろうぜ」  

何か反論をしようと思ったが、ここでこれ以上喧嘩をしても仕方ない。
険悪な空気の中、私たちは道を引き返す事にした。  

喧嘩してしまった相手と気軽に話せるわけでもない。手持ち無沙汰になった私はSNSのチェックでもしようとスマホを手にとった。

アプリを起動したが全く更新されない。
そうか、よく考えたらここは圏外だった。  

そこで私はある事に気付いた。  

あれ?さっきKがTwitterのアンケートがどうとかライブドアニュースがどうとかそういう話してなかったか?Kは携帯の機種もキャリアも同じなはず。Kも圏外のはずなのにどうして?
私はハッと思いKの方を見た。  

Kは不気味な笑みを浮かべていた。
私が何を思ったのか察したようだった。  

私は背筋が凍り付いた。
全身から冷や汗が噴き出てくる。
こいつ、まさか…!  

突如、Kの体が眩く光り始めた!  

バリバリバリバリ!  

Kは身体中に電気を纏っている!  

「ククク、そう、我こそが電波を操る妖怪、Wi-Fiマンである!このWi-Fiマンにかかれば、圏外の廃村でインターネットをすることなど容易い事!フハハハハ!キサマのスマホの電波も今すぐにバリ3にしてやろう!!フハハハハハハ!」  

バリバリバリバリ!  

そう、 Kの正体はこの世の電波を司る妖怪、Wi-Fiマンだったのだ!そんな!まさか!こんな身近にいたやつが妖怪だったなんて!  

「ギ、ギャアアアアアア!」  

私はあまりの恐怖に気絶してしまった。  

翌日、私は自分の部屋で目を覚ました。
昨日見たKの姿がフラッシュバックする。  

サークルの集まりにも行ってみたが、Kはいつも通り過ごしていた。  

もしかしたらあの出来事は夢だったのかもしれないな、とも思った。だが、あの日の恐怖が頭から離れなかった私は、サークルを辞めた。  

Kは今でも普通に生活している。妖怪たちは身近なところに潜んでいるのだ。そう、もしかしたらあなたの隣にも何かしらの妖怪がいるのかもしれない…。  

〜完〜  

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